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11 無自覚の『可愛い』は行動から現れる。

理性

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(side光希)
ふと、目が覚めたら朝だった。隣で夏向はまだ寝ている。
起こすのも悪いなと思い夏向をそのままにして俺は起き上がった。もう少し寝ていてもいいだろう。
どうやらお互い、じっくり寝られていないみたいだなと苦笑する。俺はもう寝る気にはなれないから、朝食を用意しよう。昨日は夏向に用意してもらったし。
とはいってもここにはちゃんとしたキッチンは無い。でも冷蔵庫には朝食用にとシェフが何か置いていったはずだ。ああ、スープがあった。あとはこれを温めれば食べられるはずだ。

制服に着替えてふと、何かが床に落ちているのに気づいた。俺はそれを拾い上げる。

「これは……」

錠剤だった。夏向の発情期の抑制剤だとすぐに分かった。押し倒した時にポケットから落ちたのだろう。返したかったが、夏向は寝ているし……まあ、後でもいいだろう。発情期は一ヶ月くらい先だと聞いている。起こしてまで今急いで返すものではないはずだ。

じっと抑制剤を見る。抑制剤はちょうど七粒で一セット。一度の発情期で一週間かかるのだから、一日に一粒服用すればいい計算だ。しかしここにある抑制剤は六粒しか無かった。なんでだろうと考えて、そしてすぐに俺は思い出した。
夏向と初めて会った日、彼は周期外の発情を起こしたのだ。その時に飲んだから一錠足りないのだろう。
その事がやけに嬉しくてつい、微笑んでしまう。俺は自分のポケットに抑制剤を入れた。また思い出したら夏向に返そう。ま、俺がいるんだし……抑制剤なんて使わせないつもりだけど。

本番は、発情期までお預けかな。
俺のαとしての性が、早く運命を食べちまえって疼いてるけれど……。それでも欲に溺れて泣かせたのは俺だ。これは俺が少し我慢すればいい事で……できればリコールや右代などの問題も全て片付いてから夏向を抱きたい。
でないと、今のまま夏向を抱いても不安にさせてしまうだけだろう。
眉間にシワを寄せる。昨日はつい我慢が出来なくてトイレで欲望を発散させた。あんなに夏向と近くで抱きついていたのだから……欲情しない方がおかしい。
流石に、夏向がいる前で自慰をする気になれないから必死に我慢していたけれど。
俺はそこまで変態ではない……と思う。

はぁ、と溜息をついた。このまま理性が持てばいいのだけれど。
本能のまま従う動物では無くて……俺の人間としての器が問われる。
夏向と出会うまで、俺がここまで動物的だとは思わなかった。
文字通り、夏向は夏向と出会うことで俺の人生を、運命を変えたのだ。

朝食を用意していると夏向は起きたみたいだ。もそもそと動く音がする。

「ふぁ……おはよう」

夏向が欠伸をしながら姿を現した。
そして、寝起きのレアな夏向のあまりの可愛さに、俺は朝の間に抑制剤を返すことをすっぽりと忘れてしまっていた。
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