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9 凪は昼と夜の狭間。

あの日

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(side壮一郎)
次の日、実際に古波鮫は自主退学をした。
俺は約束通り副会長になり、そしてみんなからの支持を得た。雑用ばっかり引き受けたのと……俺が、古波鮫を退学にしたという噂のおかげだ。俺に喧嘩を挑んでくる生徒は秘密裏に俺の強さを分からせた。それはまた、不良学校の生徒にも同様だ。
古波鮫に憧れていた生徒は俺に憧れ、不良学校の生徒は俺を恐れた。

きっと、生徒会長もそれを察したのだろう。でも、何も言わなかった。肩をぽんと叩いて、笑って『壮一郎って相当強いよね』と、それだけだ。
俺は前任と違い、仕事はきちんとする。
それに喧嘩も、したくてしてる訳では無い。絡まれたら応対するだけだ。
勿論、不良学校の生徒はボコボコにするけど、五羽都学園の生徒はおもてなし喧嘩をする。つまり手加減して怪我をさせてないし。

俺が転入してから二週間後、また新たに俺のクラスに転入生がやって来た。

「結野夏向です。Ωですが……よろしくお願いします」

クラスのみんなも動揺したが……俺も別の意味で動揺してしまった。Ωってそんな堂々と言うものなのかよ。確かにすぐバレるものだけどさ、なるべく隠したいものだと思っていた。

「面白いな、お前。仲良くしようぜ」

早速俺は結野夏向に声をかけた。面白い、と思ったのは率直な感想。遠巻きに見たことはあったけれど……こうやって面と向かって喋ったのは初めてだ。

「面白い……どこか?」
「そういうところが」

結野夏向は心底分からなそうに首を捻った。
そして、漸く間近で見て感じた。生徒会長と同じで、こいつも何かを諦めているような……生に対しての執着が無いように感じた。
Ω特有の儚さを纏いながら、そんなんじゃきっと直ぐに死ぬだろう。
さて、自己紹介というところで……俺は一瞬考えた。結野夏向に近づく事は『監視役』という役割において必要な工程だろう。
しかし『凪』って苗字で、もしかしたら勘づかれるかもしれない。風に関係ある苗字だしな。
ああ、そうだ。いっそ渾名にしよう。
『凪(ナギ)』って結野夏向がいる時に誰かにそう呼ばれても、『渾名で呼ばれている』って思われるだろうし。


「俺のことはナギって呼んでくれ。お前のことは……なんて呼べばいい?」
「何でもいい」
「じゃあユイで」
「なんでユイ?」
「最初の二文字しかちゃんと聞き取れなかったんだよ!!渾名みたいでいいじゃん。俺もナギって呼んでくれ。クラスで浸透してる渾名だから。それ」

もう一度、念を押す。俺を渾名で呼ぶんだから、結野夏向……ユイも渾名で呼ぶべきだろう。俺とのコミュニケーションは、ユイの中で『渾名』で呼び合うべきと方程式が出来上がる。
俺がそんなことを考えていると……『分かった。これからよろしくナギ』と、彼は言った。

騙してることに、罪悪感は無かった。
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