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7 出会いと別れは、今までを壊す。
これまで
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(side光希)
夏向の世界と俺の世界は同じようで、違う。
見てきたものが、感じてきたものが違う。夏向と同じ人生を歩みたいなら、俺だって夏向の世界を知るべきだ。
「これからもαらしく生きてください。どうか、お幸せに。」
「……はい」
追風さんがこの密閉された部屋から出ていこうとして、扉を開ける。
確か部屋の前で俺のための用心棒が部外者の侵入を防いでいたはずだ。今漸く終わったことを伝えた方がいいのか?と考えた刹那。
何かが反射して光って。
そして、それがナイフだと気づいた頃には追風さんは地面に倒れていた。
明らかな殺意。もう動かない追風さんが何度も何度もナイフで滅多切りにされる。
ぐさり、ぐさり。それと同時にぴしゃりという血の赤が散って、俺の脳内中枢にこびり付いた。
状況を理解するのにはそれで十分。
明らかに、追風さんを殺害した彼はさっきまでの用心棒では無い。雇う時には七世の信頼出来る業者に頼んでいる。彼は俺たちの会話中に入れ替わっていた。
そんな彼がふと、俺を見た。
じろり、と。
ふとした戦慄。ぴきんと空気が凍りついた緊張感。
でも、なんとか。不意打ちならまだしも、考える時間が出来たおかげだ。無抵抗に俺も襲われる……ということは無かった。幸い俺はαで体格もよく、筋肉もついてる。偽用心棒の殺意が俺に向かっても、何とか返り討ちに出来た。
「……っおい、観念しろ!」
と、組み付いて捕まえようとしたが、間に合わなかった。
一瞬の俺の隙を付き、凶器のナイフを捨てて、彼は窓から脱出してしまった。ここは四階の高さで、どう考えても自殺行為だ。すぐさま窓の下を見たが近くの木に掴まり衝撃を和らげたらしい。パルクールの心絵でもあるのか。偽用心棒の得意技は、αにも対抗できるほどの格闘技術では無く、そっちか。ああ、道理で動作が身軽だったはずだ。
さて、問題はここからだ。
すぐさま警察に電話をしたが、もう息のない追風さんと俺。そして凶器はこの部屋にある。
本物の用心棒はトイレで服を剥ぎ取られ、気を失っていた。
残念なことに、機密の高い話をする部屋だから監視カメラなどはない。
まっ先に俺が疑われた。
というのも、血で塗れて初見では気が付かなかったが、あれは七世の屋敷で使っているナイフだ。料理長がナイフにこだわりがあって、わざわざオーダーメイドで作って貰っている。市販で手に入るものでは無いだろう。
ということは、何故うちのナイフを盗んでまで犯行に及んだのか。なんの為に……?
それを考えて、ひとつの結論が出る。
俺を犯人に仕立て上げる為だ。
だから予定を変更してあの場で追風さんを殺し、ウチのナイフを使った。
あわよくば。俺も殺せば一石二鳥。
殺せなくても俺は第一容疑者になってしまう。
秘密裏に殺す、という割には大胆すぎる。ああそうか、向こうの思惑は分かった。しかし、幸いにして俺にはついさっき、『追風さん』に取り付けた、小型の監視カメラがあったのだ。これは後に追風さんが殺されるのならと、証拠を掴むために取り付けたものだ。
しかし、まさかそれが自分の無実を証明する為に役に立つとは思わなかった。
これを証拠で提示。そして追風さんの葬儀に出席したら、学園に戻るのに遅れてしまった。
追風さんの親族は既にいないみたいだったから、随分こじんまりしていたけれど……本来なら夏向も誘うべきだったのかもしれない。でも、それはどうしても出来なかった。
学園に到着したのは、初日のテストが終わった後。生徒会室に戻ろうとした途中で人影に気づく。
夏向と藍。そして壮一郎と……禍々しいフェロモンを出したα……。
彼のことは写真では見たことがあった。
でも何故今学園にいるんだ。右代春都。夏向の実の兄。
「おいで」
と、右代春都は夏向に向かって手招きする。居ても立っても居られなくなって、無意識に駆け出した。その瞬間、夏向は倒れて……そして咄嗟に俺は夏向を受け止めた。
夏向の世界と俺の世界は同じようで、違う。
見てきたものが、感じてきたものが違う。夏向と同じ人生を歩みたいなら、俺だって夏向の世界を知るべきだ。
「これからもαらしく生きてください。どうか、お幸せに。」
「……はい」
追風さんがこの密閉された部屋から出ていこうとして、扉を開ける。
確か部屋の前で俺のための用心棒が部外者の侵入を防いでいたはずだ。今漸く終わったことを伝えた方がいいのか?と考えた刹那。
何かが反射して光って。
そして、それがナイフだと気づいた頃には追風さんは地面に倒れていた。
明らかな殺意。もう動かない追風さんが何度も何度もナイフで滅多切りにされる。
ぐさり、ぐさり。それと同時にぴしゃりという血の赤が散って、俺の脳内中枢にこびり付いた。
状況を理解するのにはそれで十分。
明らかに、追風さんを殺害した彼はさっきまでの用心棒では無い。雇う時には七世の信頼出来る業者に頼んでいる。彼は俺たちの会話中に入れ替わっていた。
そんな彼がふと、俺を見た。
じろり、と。
ふとした戦慄。ぴきんと空気が凍りついた緊張感。
でも、なんとか。不意打ちならまだしも、考える時間が出来たおかげだ。無抵抗に俺も襲われる……ということは無かった。幸い俺はαで体格もよく、筋肉もついてる。偽用心棒の殺意が俺に向かっても、何とか返り討ちに出来た。
「……っおい、観念しろ!」
と、組み付いて捕まえようとしたが、間に合わなかった。
一瞬の俺の隙を付き、凶器のナイフを捨てて、彼は窓から脱出してしまった。ここは四階の高さで、どう考えても自殺行為だ。すぐさま窓の下を見たが近くの木に掴まり衝撃を和らげたらしい。パルクールの心絵でもあるのか。偽用心棒の得意技は、αにも対抗できるほどの格闘技術では無く、そっちか。ああ、道理で動作が身軽だったはずだ。
さて、問題はここからだ。
すぐさま警察に電話をしたが、もう息のない追風さんと俺。そして凶器はこの部屋にある。
本物の用心棒はトイレで服を剥ぎ取られ、気を失っていた。
残念なことに、機密の高い話をする部屋だから監視カメラなどはない。
まっ先に俺が疑われた。
というのも、血で塗れて初見では気が付かなかったが、あれは七世の屋敷で使っているナイフだ。料理長がナイフにこだわりがあって、わざわざオーダーメイドで作って貰っている。市販で手に入るものでは無いだろう。
ということは、何故うちのナイフを盗んでまで犯行に及んだのか。なんの為に……?
それを考えて、ひとつの結論が出る。
俺を犯人に仕立て上げる為だ。
だから予定を変更してあの場で追風さんを殺し、ウチのナイフを使った。
あわよくば。俺も殺せば一石二鳥。
殺せなくても俺は第一容疑者になってしまう。
秘密裏に殺す、という割には大胆すぎる。ああそうか、向こうの思惑は分かった。しかし、幸いにして俺にはついさっき、『追風さん』に取り付けた、小型の監視カメラがあったのだ。これは後に追風さんが殺されるのならと、証拠を掴むために取り付けたものだ。
しかし、まさかそれが自分の無実を証明する為に役に立つとは思わなかった。
これを証拠で提示。そして追風さんの葬儀に出席したら、学園に戻るのに遅れてしまった。
追風さんの親族は既にいないみたいだったから、随分こじんまりしていたけれど……本来なら夏向も誘うべきだったのかもしれない。でも、それはどうしても出来なかった。
学園に到着したのは、初日のテストが終わった後。生徒会室に戻ろうとした途中で人影に気づく。
夏向と藍。そして壮一郎と……禍々しいフェロモンを出したα……。
彼のことは写真では見たことがあった。
でも何故今学園にいるんだ。右代春都。夏向の実の兄。
「おいで」
と、右代春都は夏向に向かって手招きする。居ても立っても居られなくなって、無意識に駆け出した。その瞬間、夏向は倒れて……そして咄嗟に俺は夏向を受け止めた。
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