上 下
33 / 110
6 αとΩの関係は、飼い主とペットの関係なのか。

察する

しおりを挟む
(side光希)
そんな中淡々と、無表情に追風さんは語る。感情が読み取れない。いや、というより……全てを諦めているような……。だから無気力に、無表情になる。
まるでそれは、初めて会った頃の夏向みたいだ。

「夏向は俺の飼い犬だと?」
「行き過ぎた愛は支配に変わる。そして事実、αとΩ間での主導権はαにあります。光希さまがαで、夏向さまの『運命』だからこそ、ふたりの関係はいずれ支配になるでしょう」
「……追風さん、変わってるって言われません?」
「それ、今関係ありますか?」
「いえ……」

そういえば、俺は彼の第二性を知らない。αでは無いのは分かる。なぜなら、αはα同士でお互いに威嚇のフェロモンを出し合うからだ。俺の威嚇のフェロモンに応えない。だから彼はαでは無い。
必然的にΩかβになるが……どっちだろう。Ωも多少無意識にフェロモンを出すが……薬などで完全に遮断することも出来る。運命なら話は別だが……フェロモンを遮断されては分からないな。
でもやはり、Ωにしては身長が高いからβだろうか。

「まあ、『支配』でもいいと思いますよ。寧ろそうすることが当然で、正義だとも思います。でなければ、あなたは夏向さまの手を簡単に離してしまいます。これは、夏向さまに対する支配や執着が、強い方が勝つ。そういうゲームです」
「右代は……夏向に執着しているんですか?」

驚いて、彼の目を見た。まじまじと追風さんの目を見たのは初めてだ。青いんだな。外国人の血が入っているのかもしれない。ああ、だから年齢不詳の見た目なのか。

「してますよ。Ωであろうと、正統に右代の血を引いている子です。しないわけが無いでしょう。だから、仕事に失敗したくらいで、簡単に切れるリードでも無いです」
「……そうか、やはり簡単にはいかないか。ならばやはり取るべき手段は、右代と七世の全面戦争」
「ええ、私の分まで頑張ってくださいよ」
「こちらの味方をしてくれるんですか?」

それがやはり聞きたかった事。右代の人間でありながら、夏向の為に動いた。そして、俺が話したいと希望を出せば、今という、話す機会を儲けてくれた。
であれば追風さんは味方、ということになる。

「今だけはね……。この後、私は地獄に行くので。それまでは好きなだけ情報を抜き取ってください」
「……地獄に?」
「仕事に失敗し、そして夏向さまのGPSは壊されました。その責任は、誰が取ると思いますか?」
「まさか……」

ぐっと、耐えるように。けれども伝わってくる悲壮感。噛み締めた思いは、どれ程大きいのだろうか。俺はそれで察してしまった。誰かの手を引こうとすれば、誰かが深い闇に飲まれる。
それでも世界は愛で包まれている……なんて理想論が言えるのは、見ないふり、知らないふりをして生きてきた人間だけだ。
俺は、結局……今までそうやって、生きてきた。
そうしないと心が潰れそうだから。
『分かり合える』とか『信じている』。『協力しあえる』、『いずれは報われる』。
ああ、確かに……。地獄を生きてきた人間からすればそれは正しく理想論だ。信じられるはずもない。夏向もそうだったのだろう。それでも、夏向は俺を信じてくれた。

「今日まで、待ってもらったんです。今までは従順に飼い犬をやってましたから。せめての情けとして……でも、逃れることは出来ない。私は、死にに行きます」
「……」

俺は、何を言えばいいんだろう。何かを軽々しく言うことは出来なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

これがおれの運命なら

やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。 ※オメガバース。Ωに厳しめの世界。 ※性的表現あり。

壊れた番の直し方

おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。 顔に火傷をしたΩの男の指示のままに…… やがて、灯は真実を知る。 火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。 番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。 ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。 しかし、2年前とは色々なことが違っている。 そのため、灯と険悪な雰囲気になることも… それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。 発情期のときには、お互いに慰め合う。 灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。 日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命… 2人は安住の地を探す。 ☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。 注意点 ①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします ②レイプ、近親相姦の描写があります ③リバ描写があります ④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。 表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

安心快適!監禁生活

キザキ ケイ
BL
ぼくは監禁されている。痛みも苦しみもないこの安全な部屋に────。   気がつくと知らない部屋にいたオメガの御影。 部屋の主であるアルファの響己は優しくて、親切で、なんの役にも立たない御影をたくさん甘やかしてくれる。 どうしてこんなに良くしてくれるんだろう。ふしぎに思いながらも、少しずつ平穏な生活に馴染んでいく御影が、幸せになるまでのお話。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...