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6 αとΩの関係は、飼い主とペットの関係なのか。
察する
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(side光希)
そんな中淡々と、無表情に追風さんは語る。感情が読み取れない。いや、というより……全てを諦めているような……。だから無気力に、無表情になる。
まるでそれは、初めて会った頃の夏向みたいだ。
「夏向は俺の飼い犬だと?」
「行き過ぎた愛は支配に変わる。そして事実、αとΩ間での主導権はαにあります。光希さまがαで、夏向さまの『運命』だからこそ、ふたりの関係はいずれ支配になるでしょう」
「……追風さん、変わってるって言われません?」
「それ、今関係ありますか?」
「いえ……」
そういえば、俺は彼の第二性を知らない。αでは無いのは分かる。なぜなら、αはα同士でお互いに威嚇のフェロモンを出し合うからだ。俺の威嚇のフェロモンに応えない。だから彼はαでは無い。
必然的にΩかβになるが……どっちだろう。Ωも多少無意識にフェロモンを出すが……薬などで完全に遮断することも出来る。運命なら話は別だが……フェロモンを遮断されては分からないな。
でもやはり、Ωにしては身長が高いからβだろうか。
「まあ、『支配』でもいいと思いますよ。寧ろそうすることが当然で、正義だとも思います。でなければ、あなたは夏向さまの手を簡単に離してしまいます。これは、夏向さまに対する支配や執着が、強い方が勝つ。そういうゲームです」
「右代は……夏向に執着しているんですか?」
驚いて、彼の目を見た。まじまじと追風さんの目を見たのは初めてだ。青いんだな。外国人の血が入っているのかもしれない。ああ、だから年齢不詳の見た目なのか。
「してますよ。Ωであろうと、正統に右代の血を引いている子です。しないわけが無いでしょう。だから、仕事に失敗したくらいで、簡単に切れる縁でも無いです」
「……そうか、やはり簡単にはいかないか。ならばやはり取るべき手段は、右代と七世の全面戦争」
「ええ、私の分まで頑張ってくださいよ」
「こちらの味方をしてくれるんですか?」
それがやはり聞きたかった事。右代の人間でありながら、夏向の為に動いた。そして、俺が話したいと希望を出せば、今という、話す機会を儲けてくれた。
であれば追風さんは味方、ということになる。
「今だけはね……。この後、私は地獄に行くので。それまでは好きなだけ情報を抜き取ってください」
「……地獄に?」
「仕事に失敗し、そして夏向さまのGPSは壊されました。その責任は、誰が取ると思いますか?」
「まさか……」
ぐっと、耐えるように。けれども伝わってくる悲壮感。噛み締めた思いは、どれ程大きいのだろうか。俺はそれで察してしまった。誰かの手を引こうとすれば、誰かが深い闇に飲まれる。
それでも世界は愛で包まれている……なんて理想論が言えるのは、見ないふり、知らないふりをして生きてきた人間だけだ。
俺は、結局……今までそうやって、生きてきた。
そうしないと心が潰れそうだから。
『分かり合える』とか『信じている』。『協力しあえる』、『いずれは報われる』。
ああ、確かに……。地獄を生きてきた人間からすればそれは正しく理想論だ。信じられるはずもない。夏向もそうだったのだろう。それでも、夏向は俺を信じてくれた。
「今日まで、待ってもらったんです。今までは従順に飼い犬をやってましたから。せめての情けとして……でも、逃れることは出来ない。私は、死にに行きます」
「……」
俺は、何を言えばいいんだろう。何かを軽々しく言うことは出来なかった。
そんな中淡々と、無表情に追風さんは語る。感情が読み取れない。いや、というより……全てを諦めているような……。だから無気力に、無表情になる。
まるでそれは、初めて会った頃の夏向みたいだ。
「夏向は俺の飼い犬だと?」
「行き過ぎた愛は支配に変わる。そして事実、αとΩ間での主導権はαにあります。光希さまがαで、夏向さまの『運命』だからこそ、ふたりの関係はいずれ支配になるでしょう」
「……追風さん、変わってるって言われません?」
「それ、今関係ありますか?」
「いえ……」
そういえば、俺は彼の第二性を知らない。αでは無いのは分かる。なぜなら、αはα同士でお互いに威嚇のフェロモンを出し合うからだ。俺の威嚇のフェロモンに応えない。だから彼はαでは無い。
必然的にΩかβになるが……どっちだろう。Ωも多少無意識にフェロモンを出すが……薬などで完全に遮断することも出来る。運命なら話は別だが……フェロモンを遮断されては分からないな。
でもやはり、Ωにしては身長が高いからβだろうか。
「まあ、『支配』でもいいと思いますよ。寧ろそうすることが当然で、正義だとも思います。でなければ、あなたは夏向さまの手を簡単に離してしまいます。これは、夏向さまに対する支配や執着が、強い方が勝つ。そういうゲームです」
「右代は……夏向に執着しているんですか?」
驚いて、彼の目を見た。まじまじと追風さんの目を見たのは初めてだ。青いんだな。外国人の血が入っているのかもしれない。ああ、だから年齢不詳の見た目なのか。
「してますよ。Ωであろうと、正統に右代の血を引いている子です。しないわけが無いでしょう。だから、仕事に失敗したくらいで、簡単に切れる縁でも無いです」
「……そうか、やはり簡単にはいかないか。ならばやはり取るべき手段は、右代と七世の全面戦争」
「ええ、私の分まで頑張ってくださいよ」
「こちらの味方をしてくれるんですか?」
それがやはり聞きたかった事。右代の人間でありながら、夏向の為に動いた。そして、俺が話したいと希望を出せば、今という、話す機会を儲けてくれた。
であれば追風さんは味方、ということになる。
「今だけはね……。この後、私は地獄に行くので。それまでは好きなだけ情報を抜き取ってください」
「……地獄に?」
「仕事に失敗し、そして夏向さまのGPSは壊されました。その責任は、誰が取ると思いますか?」
「まさか……」
ぐっと、耐えるように。けれども伝わってくる悲壮感。噛み締めた思いは、どれ程大きいのだろうか。俺はそれで察してしまった。誰かの手を引こうとすれば、誰かが深い闇に飲まれる。
それでも世界は愛で包まれている……なんて理想論が言えるのは、見ないふり、知らないふりをして生きてきた人間だけだ。
俺は、結局……今までそうやって、生きてきた。
そうしないと心が潰れそうだから。
『分かり合える』とか『信じている』。『協力しあえる』、『いずれは報われる』。
ああ、確かに……。地獄を生きてきた人間からすればそれは正しく理想論だ。信じられるはずもない。夏向もそうだったのだろう。それでも、夏向は俺を信じてくれた。
「今日まで、待ってもらったんです。今までは従順に飼い犬をやってましたから。せめての情けとして……でも、逃れることは出来ない。私は、死にに行きます」
「……」
俺は、何を言えばいいんだろう。何かを軽々しく言うことは出来なかった。
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