31 / 110
5 知らないところで世界は繋がる。
延長
しおりを挟む
(side夏向)
結局僕はそのまま月曜日まで、光希と光希の部屋で泊まることになった。
火曜日から学校に帰って期末テストを受ける。テストは正直不安だけど、このまま光希と一緒に居たいなら受けないわけにもいかない。
「不安なら、俺が教えようか?」
ソファで何かをするでもなく光希とふたりで会話をしていると、光希からそんな提案をしてくれた。
笑顔で光希は言うけど、まあ……その提案は正直有難いかな。でも。
「光希だって自分のテスト勉強あるじゃん」
「大丈夫だって。それ位は余裕だから。でないと、生徒会長なんて務まらない」
「ああ、そっか」
トップクラスのαなんだから、学園の勉強以上に出来てこそ周囲の期待に答えられる。
そっか、今更か……。
なんとなくだけど、光希との深い溝を感じた。
「凄いんだね」
「まあね。暗殺者に狙われるくらいだからね」
「僕の事……?」
「でも、だからこそ、こうして出会えた」
顔を近づけられて、瞳を覗き込まれる。
そういう顔をされると、僕はどうすればいいんだ。
「可愛い、キスしていい?」
「本当に光希って何考えてるか分かんない……」
流れ的に光希を殺そうとしたの根に持っているのかな、なんて不安に思ってたけど。なんで何の脈絡もなく可愛いとか、キスしたいとかになるんだ。
「単純だよ。夏向のこと大好きって考えてる」
「ここまであんたがブレないとは思わなかった」
「その方が夏向は安心するだろ?」
「うん、そうかもしれない」
ちゅ。と。恥ずかしいけれど、僕からキスをしてみる。触れるだけの軽いキスだったけれど、これでちょっとは光希の想いに答えられたのかな。
「甘い」
「甘いね」
お互いに顔が赤くて、熱い。林檎のようだと思った。
「もっとしていい?」
「ダメ」
これ以上は恥ずかしい。これでもギリギリなんだから……これ以上、僕の心の中に光希を入れるのは抵抗がある。
「分かった。発情期まで待つよ」
「……発情期になったら?」
「君と正式に番になりたい」
一旦下を向いて、それから光希を見た。
変わらず光希の視線はまっすぐだ。変わらない。変わったのは僕の方。発情期が周期通りに来るとしたら……あと1ヶ月後だ。そしてそれは、本来定められた光希を殺すまでの期限でもある。
「えっと……僕に欲情出来るの?光希は」
「出来るどころか、我慢するのに必死」
「そっか。じゃあ行為中に隙をつけば、殺せちゃうかもしれないね」
もちろん軽い冗談のつもり。だって僕に光希は殺せない。それはもう、とっくに分かってる。でも、やっぱりどうなんだろう。怖いと思っているのかな。仕事を放棄したマリオネットを、みすみす実家が見逃してくれると思ってないし。
軽い沈黙があった。光希に頬を優しく撫でられ、髪の毛を耳にかけられる。
「殺したいならどうぞ。その時は夏向も一緒に死のう」
「待ってぇ。もう、心中するつもりは無いから!」
そういうフラグはマジでやめて欲しい。そもそも別に今、光希を殺したいとか思ってない。
心中なんかしたら、余計意味が無い。だって僕は、僕が死ぬ代わりに、光希が幸せに生きてくれたらいいな、なんて少しでも思っていた程だ。
「夏向が笑えない冗談を言うから、お返し」
「……それは、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それより、知りたい。なんで俺から逃げたんだ?」
逃げた、とは光希が寝ている間に学園を抜けたことを言っているのだろう。それは勿論決まってる。不安だったからだ。
「縋りたくなってしまったんだ、光希に。不安で、どうしようもなくて……でも、僕のせいであんたを不幸にしたく無かった。縋ってしまえばそのまま道ずれにしてしまう。それが嫌だった」
「救わせてよ。まだ、やってみないと分からないから。俺に夏向と一緒に幸せになる未来を、夢見させて」
「夢を見るくらいなら……いいよ」
僕だって、夢を見ても良いのかな。
最初から、諦めなくて良いのかな。
その期待に胸がいっぱいになって、僕は目を閉じた。
そんな僕に、光希は『贈り物がある』と言う。ふと、光希から僕に手渡された紙袋。
「開けてご覧」
「いいの?」
光希が頷いたので、僕は紙袋を開けた。
紙袋の中に手を入れると、硬い何かの感触がする。
僕はそれをつまみ上げ、紙袋の外に出した。
それでも紙袋は空では無いようで、まだ少し重い。
「スマホ?」
「持ってないって言ってたから。登録をすませて……そして連絡先を交換しよう」
「うん。いいの?」
「いなくなられる方が怖いから。それともうひとつは……俺が付ける。貸して」
もうひとつ?ああそういえば、紙袋に残ってる方を、まだ確認していなかった。光希は僕の持ってる紙袋をひょいと持ち上げる。
「後ろを向いて、夏向」
「後ろ……?」
何だか分からないけど僕は素直に光希に後ろを向く。
ふと、首に冷たい何かが回り込んできて、そして漸く僕は『紙袋の中身』を察する。
「チョーカー?」
「正解。君のために選んだんだ。ふたつとも僕の独占欲の証。ただの自己満足だけど……」
「ありがとう、光希」
チョーカーは黒色のシンプルなものだった。黒色……そう言えばそれは光希の髪と目の色だ。
黒を見れば僕は光希を思い出す。だからこれは光希のものだっていう証。
まだ発情期ではないから正式に僕達はまだ番ではない。だからこれは、僕は光希のものだっていう保険と、マーキングのようなものなんだろう。
お互いに夜まで沢山話をして、そして眠りについた。思い返せば激動の一日だったけれど……それでも僕は、久しぶりに幸福な夢を見た。
また明日も、今日という延長線の、幸せがありますように。
結局僕はそのまま月曜日まで、光希と光希の部屋で泊まることになった。
火曜日から学校に帰って期末テストを受ける。テストは正直不安だけど、このまま光希と一緒に居たいなら受けないわけにもいかない。
「不安なら、俺が教えようか?」
ソファで何かをするでもなく光希とふたりで会話をしていると、光希からそんな提案をしてくれた。
笑顔で光希は言うけど、まあ……その提案は正直有難いかな。でも。
「光希だって自分のテスト勉強あるじゃん」
「大丈夫だって。それ位は余裕だから。でないと、生徒会長なんて務まらない」
「ああ、そっか」
トップクラスのαなんだから、学園の勉強以上に出来てこそ周囲の期待に答えられる。
そっか、今更か……。
なんとなくだけど、光希との深い溝を感じた。
「凄いんだね」
「まあね。暗殺者に狙われるくらいだからね」
「僕の事……?」
「でも、だからこそ、こうして出会えた」
顔を近づけられて、瞳を覗き込まれる。
そういう顔をされると、僕はどうすればいいんだ。
「可愛い、キスしていい?」
「本当に光希って何考えてるか分かんない……」
流れ的に光希を殺そうとしたの根に持っているのかな、なんて不安に思ってたけど。なんで何の脈絡もなく可愛いとか、キスしたいとかになるんだ。
「単純だよ。夏向のこと大好きって考えてる」
「ここまであんたがブレないとは思わなかった」
「その方が夏向は安心するだろ?」
「うん、そうかもしれない」
ちゅ。と。恥ずかしいけれど、僕からキスをしてみる。触れるだけの軽いキスだったけれど、これでちょっとは光希の想いに答えられたのかな。
「甘い」
「甘いね」
お互いに顔が赤くて、熱い。林檎のようだと思った。
「もっとしていい?」
「ダメ」
これ以上は恥ずかしい。これでもギリギリなんだから……これ以上、僕の心の中に光希を入れるのは抵抗がある。
「分かった。発情期まで待つよ」
「……発情期になったら?」
「君と正式に番になりたい」
一旦下を向いて、それから光希を見た。
変わらず光希の視線はまっすぐだ。変わらない。変わったのは僕の方。発情期が周期通りに来るとしたら……あと1ヶ月後だ。そしてそれは、本来定められた光希を殺すまでの期限でもある。
「えっと……僕に欲情出来るの?光希は」
「出来るどころか、我慢するのに必死」
「そっか。じゃあ行為中に隙をつけば、殺せちゃうかもしれないね」
もちろん軽い冗談のつもり。だって僕に光希は殺せない。それはもう、とっくに分かってる。でも、やっぱりどうなんだろう。怖いと思っているのかな。仕事を放棄したマリオネットを、みすみす実家が見逃してくれると思ってないし。
軽い沈黙があった。光希に頬を優しく撫でられ、髪の毛を耳にかけられる。
「殺したいならどうぞ。その時は夏向も一緒に死のう」
「待ってぇ。もう、心中するつもりは無いから!」
そういうフラグはマジでやめて欲しい。そもそも別に今、光希を殺したいとか思ってない。
心中なんかしたら、余計意味が無い。だって僕は、僕が死ぬ代わりに、光希が幸せに生きてくれたらいいな、なんて少しでも思っていた程だ。
「夏向が笑えない冗談を言うから、お返し」
「……それは、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それより、知りたい。なんで俺から逃げたんだ?」
逃げた、とは光希が寝ている間に学園を抜けたことを言っているのだろう。それは勿論決まってる。不安だったからだ。
「縋りたくなってしまったんだ、光希に。不安で、どうしようもなくて……でも、僕のせいであんたを不幸にしたく無かった。縋ってしまえばそのまま道ずれにしてしまう。それが嫌だった」
「救わせてよ。まだ、やってみないと分からないから。俺に夏向と一緒に幸せになる未来を、夢見させて」
「夢を見るくらいなら……いいよ」
僕だって、夢を見ても良いのかな。
最初から、諦めなくて良いのかな。
その期待に胸がいっぱいになって、僕は目を閉じた。
そんな僕に、光希は『贈り物がある』と言う。ふと、光希から僕に手渡された紙袋。
「開けてご覧」
「いいの?」
光希が頷いたので、僕は紙袋を開けた。
紙袋の中に手を入れると、硬い何かの感触がする。
僕はそれをつまみ上げ、紙袋の外に出した。
それでも紙袋は空では無いようで、まだ少し重い。
「スマホ?」
「持ってないって言ってたから。登録をすませて……そして連絡先を交換しよう」
「うん。いいの?」
「いなくなられる方が怖いから。それともうひとつは……俺が付ける。貸して」
もうひとつ?ああそういえば、紙袋に残ってる方を、まだ確認していなかった。光希は僕の持ってる紙袋をひょいと持ち上げる。
「後ろを向いて、夏向」
「後ろ……?」
何だか分からないけど僕は素直に光希に後ろを向く。
ふと、首に冷たい何かが回り込んできて、そして漸く僕は『紙袋の中身』を察する。
「チョーカー?」
「正解。君のために選んだんだ。ふたつとも僕の独占欲の証。ただの自己満足だけど……」
「ありがとう、光希」
チョーカーは黒色のシンプルなものだった。黒色……そう言えばそれは光希の髪と目の色だ。
黒を見れば僕は光希を思い出す。だからこれは光希のものだっていう証。
まだ発情期ではないから正式に僕達はまだ番ではない。だからこれは、僕は光希のものだっていう保険と、マーキングのようなものなんだろう。
お互いに夜まで沢山話をして、そして眠りについた。思い返せば激動の一日だったけれど……それでも僕は、久しぶりに幸福な夢を見た。
また明日も、今日という延長線の、幸せがありますように。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
これがおれの運命なら
やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。
※オメガバース。Ωに厳しめの世界。
※性的表現あり。
オメガになってみたんだが
琉希
BL
吉野春之(会社員32歳)は『何か』の手違いでオメガバースの世界に住む「泉サキ」(19歳大学生/オメガ)と体を交換することになった。
目覚めたとき、そばにいたのはサキの元恋人である霧島レイ(19歳大学生/アルファ)だった。
レイはサキと喧嘩中に意識を失ったサキを心配していた。入れ替わりが起こったことをしらないレイに、春之は記憶喪失になったということにして、レイの世話になることに成功。見知らぬ世界での日常をサキとして生活する春之だったが、突然ヒートが起きる。
わけのわからないまま初めてのヒートに苦しむサキ(春之)を助けてくれたのはレイで…。
罪悪感から始まるやり直しストーリー
R18場面は★をつけます。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
壊れた番の直し方
おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。
顔に火傷をしたΩの男の指示のままに……
やがて、灯は真実を知る。
火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。
番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。
ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。
しかし、2年前とは色々なことが違っている。
そのため、灯と険悪な雰囲気になることも…
それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。
発情期のときには、お互いに慰め合う。
灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。
日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命…
2人は安住の地を探す。
☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。
注意点
①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします
②レイプ、近親相姦の描写があります
③リバ描写があります
④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。
表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。
安心快適!監禁生活
キザキ ケイ
BL
ぼくは監禁されている。痛みも苦しみもないこの安全な部屋に────。
気がつくと知らない部屋にいたオメガの御影。
部屋の主であるアルファの響己は優しくて、親切で、なんの役にも立たない御影をたくさん甘やかしてくれる。
どうしてこんなに良くしてくれるんだろう。ふしぎに思いながらも、少しずつ平穏な生活に馴染んでいく御影が、幸せになるまでのお話。
後天性オメガの合理的な番契約
キザキ ケイ
BL
平凡なベータの男として二十六年間生きてきた山本は、ある日突然バースが変わったと診断される。
世界でも珍しい後天性バース転換を起こした山本は、突然変異のオメガになってしまった。
しかも診断が下ったその日、同僚の久我と病院で遭遇してしまう。
オメガへと変化した自分にショックを隠しきれない山本は、久我に不安を打ち明ける。そんな山本に久我はとんでもないことを提案した。
「先輩、俺と番になりませんか!」
いや、久我はベータのはず。まさか…おまえも後天性!?
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる