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5 知らないところで世界は繋がる。
延長
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(side夏向)
結局僕はそのまま月曜日まで、光希と光希の部屋で泊まることになった。
火曜日から学校に帰って期末テストを受ける。テストは正直不安だけど、このまま光希と一緒に居たいなら受けないわけにもいかない。
「不安なら、俺が教えようか?」
ソファで何かをするでもなく光希とふたりで会話をしていると、光希からそんな提案をしてくれた。
笑顔で光希は言うけど、まあ……その提案は正直有難いかな。でも。
「光希だって自分のテスト勉強あるじゃん」
「大丈夫だって。それ位は余裕だから。でないと、生徒会長なんて務まらない」
「ああ、そっか」
トップクラスのαなんだから、学園の勉強以上に出来てこそ周囲の期待に答えられる。
そっか、今更か……。
なんとなくだけど、光希との深い溝を感じた。
「凄いんだね」
「まあね。暗殺者に狙われるくらいだからね」
「僕の事……?」
「でも、だからこそ、こうして出会えた」
顔を近づけられて、瞳を覗き込まれる。
そういう顔をされると、僕はどうすればいいんだ。
「可愛い、キスしていい?」
「本当に光希って何考えてるか分かんない……」
流れ的に光希を殺そうとしたの根に持っているのかな、なんて不安に思ってたけど。なんで何の脈絡もなく可愛いとか、キスしたいとかになるんだ。
「単純だよ。夏向のこと大好きって考えてる」
「ここまであんたがブレないとは思わなかった」
「その方が夏向は安心するだろ?」
「うん、そうかもしれない」
ちゅ。と。恥ずかしいけれど、僕からキスをしてみる。触れるだけの軽いキスだったけれど、これでちょっとは光希の想いに答えられたのかな。
「甘い」
「甘いね」
お互いに顔が赤くて、熱い。林檎のようだと思った。
「もっとしていい?」
「ダメ」
これ以上は恥ずかしい。これでもギリギリなんだから……これ以上、僕の心の中に光希を入れるのは抵抗がある。
「分かった。発情期まで待つよ」
「……発情期になったら?」
「君と正式に番になりたい」
一旦下を向いて、それから光希を見た。
変わらず光希の視線はまっすぐだ。変わらない。変わったのは僕の方。発情期が周期通りに来るとしたら……あと1ヶ月後だ。そしてそれは、本来定められた光希を殺すまでの期限でもある。
「えっと……僕に欲情出来るの?光希は」
「出来るどころか、我慢するのに必死」
「そっか。じゃあ行為中に隙をつけば、殺せちゃうかもしれないね」
もちろん軽い冗談のつもり。だって僕に光希は殺せない。それはもう、とっくに分かってる。でも、やっぱりどうなんだろう。怖いと思っているのかな。仕事を放棄したマリオネットを、みすみす実家が見逃してくれると思ってないし。
軽い沈黙があった。光希に頬を優しく撫でられ、髪の毛を耳にかけられる。
「殺したいならどうぞ。その時は夏向も一緒に死のう」
「待ってぇ。もう、心中するつもりは無いから!」
そういうフラグはマジでやめて欲しい。そもそも別に今、光希を殺したいとか思ってない。
心中なんかしたら、余計意味が無い。だって僕は、僕が死ぬ代わりに、光希が幸せに生きてくれたらいいな、なんて少しでも思っていた程だ。
「夏向が笑えない冗談を言うから、お返し」
「……それは、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それより、知りたい。なんで俺から逃げたんだ?」
逃げた、とは光希が寝ている間に学園を抜けたことを言っているのだろう。それは勿論決まってる。不安だったからだ。
「縋りたくなってしまったんだ、光希に。不安で、どうしようもなくて……でも、僕のせいであんたを不幸にしたく無かった。縋ってしまえばそのまま道ずれにしてしまう。それが嫌だった」
「救わせてよ。まだ、やってみないと分からないから。俺に夏向と一緒に幸せになる未来を、夢見させて」
「夢を見るくらいなら……いいよ」
僕だって、夢を見ても良いのかな。
最初から、諦めなくて良いのかな。
その期待に胸がいっぱいになって、僕は目を閉じた。
そんな僕に、光希は『贈り物がある』と言う。ふと、光希から僕に手渡された紙袋。
「開けてご覧」
「いいの?」
光希が頷いたので、僕は紙袋を開けた。
紙袋の中に手を入れると、硬い何かの感触がする。
僕はそれをつまみ上げ、紙袋の外に出した。
それでも紙袋は空では無いようで、まだ少し重い。
「スマホ?」
「持ってないって言ってたから。登録をすませて……そして連絡先を交換しよう」
「うん。いいの?」
「いなくなられる方が怖いから。それともうひとつは……俺が付ける。貸して」
もうひとつ?ああそういえば、紙袋に残ってる方を、まだ確認していなかった。光希は僕の持ってる紙袋をひょいと持ち上げる。
「後ろを向いて、夏向」
「後ろ……?」
何だか分からないけど僕は素直に光希に後ろを向く。
ふと、首に冷たい何かが回り込んできて、そして漸く僕は『紙袋の中身』を察する。
「チョーカー?」
「正解。君のために選んだんだ。ふたつとも僕の独占欲の証。ただの自己満足だけど……」
「ありがとう、光希」
チョーカーは黒色のシンプルなものだった。黒色……そう言えばそれは光希の髪と目の色だ。
黒を見れば僕は光希を思い出す。だからこれは光希のものだっていう証。
まだ発情期ではないから正式に僕達はまだ番ではない。だからこれは、僕は光希のものだっていう保険と、マーキングのようなものなんだろう。
お互いに夜まで沢山話をして、そして眠りについた。思い返せば激動の一日だったけれど……それでも僕は、久しぶりに幸福な夢を見た。
また明日も、今日という延長線の、幸せがありますように。
結局僕はそのまま月曜日まで、光希と光希の部屋で泊まることになった。
火曜日から学校に帰って期末テストを受ける。テストは正直不安だけど、このまま光希と一緒に居たいなら受けないわけにもいかない。
「不安なら、俺が教えようか?」
ソファで何かをするでもなく光希とふたりで会話をしていると、光希からそんな提案をしてくれた。
笑顔で光希は言うけど、まあ……その提案は正直有難いかな。でも。
「光希だって自分のテスト勉強あるじゃん」
「大丈夫だって。それ位は余裕だから。でないと、生徒会長なんて務まらない」
「ああ、そっか」
トップクラスのαなんだから、学園の勉強以上に出来てこそ周囲の期待に答えられる。
そっか、今更か……。
なんとなくだけど、光希との深い溝を感じた。
「凄いんだね」
「まあね。暗殺者に狙われるくらいだからね」
「僕の事……?」
「でも、だからこそ、こうして出会えた」
顔を近づけられて、瞳を覗き込まれる。
そういう顔をされると、僕はどうすればいいんだ。
「可愛い、キスしていい?」
「本当に光希って何考えてるか分かんない……」
流れ的に光希を殺そうとしたの根に持っているのかな、なんて不安に思ってたけど。なんで何の脈絡もなく可愛いとか、キスしたいとかになるんだ。
「単純だよ。夏向のこと大好きって考えてる」
「ここまであんたがブレないとは思わなかった」
「その方が夏向は安心するだろ?」
「うん、そうかもしれない」
ちゅ。と。恥ずかしいけれど、僕からキスをしてみる。触れるだけの軽いキスだったけれど、これでちょっとは光希の想いに答えられたのかな。
「甘い」
「甘いね」
お互いに顔が赤くて、熱い。林檎のようだと思った。
「もっとしていい?」
「ダメ」
これ以上は恥ずかしい。これでもギリギリなんだから……これ以上、僕の心の中に光希を入れるのは抵抗がある。
「分かった。発情期まで待つよ」
「……発情期になったら?」
「君と正式に番になりたい」
一旦下を向いて、それから光希を見た。
変わらず光希の視線はまっすぐだ。変わらない。変わったのは僕の方。発情期が周期通りに来るとしたら……あと1ヶ月後だ。そしてそれは、本来定められた光希を殺すまでの期限でもある。
「えっと……僕に欲情出来るの?光希は」
「出来るどころか、我慢するのに必死」
「そっか。じゃあ行為中に隙をつけば、殺せちゃうかもしれないね」
もちろん軽い冗談のつもり。だって僕に光希は殺せない。それはもう、とっくに分かってる。でも、やっぱりどうなんだろう。怖いと思っているのかな。仕事を放棄したマリオネットを、みすみす実家が見逃してくれると思ってないし。
軽い沈黙があった。光希に頬を優しく撫でられ、髪の毛を耳にかけられる。
「殺したいならどうぞ。その時は夏向も一緒に死のう」
「待ってぇ。もう、心中するつもりは無いから!」
そういうフラグはマジでやめて欲しい。そもそも別に今、光希を殺したいとか思ってない。
心中なんかしたら、余計意味が無い。だって僕は、僕が死ぬ代わりに、光希が幸せに生きてくれたらいいな、なんて少しでも思っていた程だ。
「夏向が笑えない冗談を言うから、お返し」
「……それは、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それより、知りたい。なんで俺から逃げたんだ?」
逃げた、とは光希が寝ている間に学園を抜けたことを言っているのだろう。それは勿論決まってる。不安だったからだ。
「縋りたくなってしまったんだ、光希に。不安で、どうしようもなくて……でも、僕のせいであんたを不幸にしたく無かった。縋ってしまえばそのまま道ずれにしてしまう。それが嫌だった」
「救わせてよ。まだ、やってみないと分からないから。俺に夏向と一緒に幸せになる未来を、夢見させて」
「夢を見るくらいなら……いいよ」
僕だって、夢を見ても良いのかな。
最初から、諦めなくて良いのかな。
その期待に胸がいっぱいになって、僕は目を閉じた。
そんな僕に、光希は『贈り物がある』と言う。ふと、光希から僕に手渡された紙袋。
「開けてご覧」
「いいの?」
光希が頷いたので、僕は紙袋を開けた。
紙袋の中に手を入れると、硬い何かの感触がする。
僕はそれをつまみ上げ、紙袋の外に出した。
それでも紙袋は空では無いようで、まだ少し重い。
「スマホ?」
「持ってないって言ってたから。登録をすませて……そして連絡先を交換しよう」
「うん。いいの?」
「いなくなられる方が怖いから。それともうひとつは……俺が付ける。貸して」
もうひとつ?ああそういえば、紙袋に残ってる方を、まだ確認していなかった。光希は僕の持ってる紙袋をひょいと持ち上げる。
「後ろを向いて、夏向」
「後ろ……?」
何だか分からないけど僕は素直に光希に後ろを向く。
ふと、首に冷たい何かが回り込んできて、そして漸く僕は『紙袋の中身』を察する。
「チョーカー?」
「正解。君のために選んだんだ。ふたつとも僕の独占欲の証。ただの自己満足だけど……」
「ありがとう、光希」
チョーカーは黒色のシンプルなものだった。黒色……そう言えばそれは光希の髪と目の色だ。
黒を見れば僕は光希を思い出す。だからこれは光希のものだっていう証。
まだ発情期ではないから正式に僕達はまだ番ではない。だからこれは、僕は光希のものだっていう保険と、マーキングのようなものなんだろう。
お互いに夜まで沢山話をして、そして眠りについた。思い返せば激動の一日だったけれど……それでも僕は、久しぶりに幸福な夢を見た。
また明日も、今日という延長線の、幸せがありますように。
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