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5 知らないところで世界は繋がる。

ゴミ箱

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(side夏向)

「誰かね?」
「そちらこそ、何処の誰かは知りませんが……乱暴するのはいけませんよ」

その瞬間、視界が赤に染まる。見えたのはナイフの反射光と……華麗なナイフさばき。
僕は、目の前の中年の男が死んだな。なんてぼんやり思った。何処か映画でも見ているみたいに、他人事のように。自慢ではないが人が死ぬことはそんなに非日常では無い。だから当たり前のようにそれを受け入れた。

「夏向さま、ご無事でしたか、項は?」
「噛まれていない……」

取り上げられた抑制剤と財布をポケットに入れる。血が付いていたが拭くものが無いな……。仕方がないから制服で拭こう。
僕は顔を上げる。そこに立つ人物をじっと見た。
なぜ助けに来てくれた彼が、僕の名前を知っているのか。当然。それは彼が僕の知り合いだからだ。

「追風」

僕が彼の名前を呼ぶと、追風は当然のようにその言葉に反応し、こちらに振り返った。

「夏向さま」
「なんで?まさか右代は僕を」
「いえ、これは……」

コホン、と追風は咳払いした。
追風は右代に使えている。ということは僕が光希を殺せずに逃げたこと全部知ってるのかな、なんて考えた。連れ戻されて、殺される。ついにその瞬間を覚悟した。

「助けてあげたんですから、さっさと行きますよ。これは正当防衛、ということにしていてください。……まあ、このことはどうせ大きな力に抹消されるでしょうけど」

追風は僕の手を掴み、そして走り出す。
目的地は駅の近くに止めてある追風の車だった。
僕も助手席に乗り込んで、車は走り出す。

「何処に行くの?」
「七世家です」
「……え?」

答えに驚いて、さっきまでぼんやり前を見ていた僕は追風を見た。

「七世光希は殺せないんでしょう?監視役からの報告は私も聞きました。そしてならばラストチャンスにと、夏向さまに次の仕事が与えられました。これが成功すれば、今まで通り夏向さまの居場所はこちらで用意します」
「仕事……?」
「ただし、難易度も上がりますし……出来なければ容赦なく切ります」

追風の言葉は、冗談でも無く本気だ。これは与えられた慈悲。ゴミをゴミ箱に捨てる前の……ちょっとした確認。
でも僕は額を地面に擦り付けて、どうか捨てないでと、そのラストチャンスに縋るしかない。
切るというのは言葉通り、頭と身体を繋ぐそれを切るのか。

「仕事……なのは分かったけど、なんで七世家に行くの?」
七世十夜ななせじゅうや。次の標的は、七世光希の父親です」
「父親……?」

ぐっと、追風はハンドルを握りしめ、そして笑った。

「正真正銘、七世の当主。我ら右代家にとってのラスボスです」

『出来るでしょう?』とそんな挑発的な笑みで、追風は僕を言葉通りゴミ箱へと追い詰めた。

ほらね、やっぱり僕は光希を不幸にしてしまう。
……僕は彼にとって害にしか成らない。
いない方がいいんだ。

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