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その日の夜

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「どこにも行くところがないなら、今日は家に泊まっていきませんか? お客さん用の布団とか持ってないのでソファしか貸せないんですけど、それでも良かったら」

私は勇気を出して彼に言った。

「え……? う、嬉しい……ですけど……でも、やっぱり申し訳ないですよ。僕……その、男ですし……」
「私は大丈夫です。あなたのこと、信じます」

私は笑ってみせた。すると、彼は嬉しそうに微笑んでくれた。
その後、二人で簡単に食事を済ませたあとに私はシャワーを浴びた。それから、彼にも入浴するよう勧める。着替えを貸してあげようと思ってタンスの中を探ってみたけれど、男の人が着られそうなサイズのものがない。高校の頃のジャージならギリギリ入るだろうか。

そう思っていたが、お風呂から上がってリビングに戻って来た彼を見ると、袖や裾から手足が余ってしまっていた。

「すみません、大きいサイズの服がなくて……」
「そんな、全然大丈夫です。貸してくださってありがとうございます」

彼はにっこりと笑いながらそう言う。ご飯を食べてお風呂で温まったおかげか、さっきより顔色もよく、気持ちも落ち着いているように見えて安心する。

「そういえば、さっきまではどうしてこんな真夏に長袖の服を着ていたんですか? 寒がりとか?」
「え? ……うーん、どうしてかな。ちょっと僕にもわからないです」

初めて彼を見たときからずっと気になっていたことを聞いてみたけれど、結局それについては彼にもわからないようだった。あまり深掘りして彼を不安にさせてしまってもよくないかなと思い、この会話はおしまいにする。

「そうですか、変なこと聞いちゃってごめんなさい。……じゃあそろそろ寝ましょうか。ここのソファ、使っていいですから。私はあっちの部屋で寝てますね」
「はい、ありがとうございます。……おやすみなさい」
「おやすみなさい」

彼におやすみの挨拶をして、電気を消したあと、私は寝室へ行き、ベッドに横になった。
一人になると、急に色々なことを考えてしまう。今日出会ったばかりの人を自分の部屋に招くなんて、普通では考えられないことだ。本当は病院にも行ってほしかったし、警察に届けたりもするべきだと思ったけど、彼がそれをひどく恐れていたので今日はとりあえず様子を見ることにしたのだ。もちろん、彼の家族が心配しているんじゃないか……とか、他にも心配事はたくさんあったけど。今はそれよりも、彼の気持ちを優先させてあげたかった。

これでよかったのだろうかと思わないわけではないけど、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせて、私は布団に潜り込んだ。
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