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5章-15

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「俺は今猛烈に怒ってるぞ」
 カリブ公国王従騎士棍棒二番ソーレイ・クラッドは、自宅の玄関先で無二の親友だと思っていたガッタ・ルーサーを前にふん、と思い切りそっぽを向いた。
「やだな。なんで怒るんだよ」
 いけしゃあしゃあと言う友に、ソーレイはくわっと目を見開く。
「どの口がンなこと言いやがる! ミノリハのこともエージャのこともシャラが白だってこともぜーんぶ分かってたくせに知らんふりしやがって! そのうえ俺完全に動かされてんじゃねーか! 誰だ、シャラは水路沿いにいるとか自信持って言った奴!」
「公女でしょ」
「でも公女に助言したのはおまえだろ!」
 そうだけど、と、不機嫌そうにガッタは応えた。
「だってスーティー家に行くには水路縦断して運河横断したら早いじゃん。見たらご丁寧に屋敷の裏に舟が繋いであったし」
「そもそもエージャがスーティーの関係者って分かってるのがおかしいだろ! いつの間に身元を調べた! そしてそれをなぜ俺に言わない!」
 一方的にがなりたてると、ガッタはうんざりしたようによそを向いた。
「もういいでしょ。説明するの面倒くさいよ。ああそうだ、それよりキミ、本気で僕を疑ったろ。公女に言われた」
 思わぬ反撃に、「う」と、ソーレイは言葉に詰まった。
 シャラの家に偽造の手紙を送り付けた人物。
 ガッタかもしれないと、確かに思っていた。
 シャラを操ったのがエージャなら、彼女と親密だったガッタの暗躍もありうると。
 しかし公女に話したら彼女はそんな推測を一笑に付したのだ。「青い服の若い男なら国中にいる」と。
 そして同時にガッタが、ソーレイが必死こいで書き集めた情報をすでにすべて握っていることも聞かされた。
 それこそ犯人からシャラの潔白まで、何もかも。
「確かに疑った。正直次におまえ見たら殴ってやると思った」
 真剣な面持ちのソーレイに、ガッタは「ひど」と口を歪めた。
「あー、悪かったよ。そこはあやまる。でも――おまえもちゃんとシャラに謝れよ」
「シャラ?」
「おお。だって潔白なの分かってて疑われるわ水ん中に飛び込むわで大変だったんだぞ」
「いいじゃん、その分キミの愛を感じたよ、きっと」
「あいって」 
 ソーレイは口をパクパクさせたまま未知の言葉に困惑した。
 その様子に友は心底呆れ顔で、
「まったく。べた惚れのくせ自覚ないから困るよ、キミ」
「べた惚れって」
「いいよ別に、自覚ないんでしょ。それよりシャラの具合はどうなの?」
 本当にどうでもよさそうに、ガッタは窓の方に身を乗り出した。
「えと、今おふくろがみてる。寝てるみたいだよ。体温も戻ってるらしい。けど、明日高熱出たりしたらおまえら本気で恨むからな!」
「大丈夫じゃないの? なんとかは風邪ひかないって言うじゃない」
「シャラを馬鹿にすんな!」
 自分のことならいざ知らず、シャラのことには過敏なソーレイ。
 友を捕まえギャーギャー騒いでいると、
「ちょっとソーレイ、うるさいわよ」
 玄関扉を開けて母親がたしなめた。
 眉を吊り上げる彼女は、しかしガッタを見るところりと表情を変える。
「あら、ガッタ君。いらっしゃい」
「こんばんは。すみません、ご迷惑おかけして。お邪魔でしょうからシャラ回収しますけど」
「ええー? いいのよ、お邪魔なんてとんでもない。大事なお嫁さんだもの。いくらでもうちで預かるわ。夫にも会わせたいし」
 すっかり義母になりきっているソーレイ母に、その息子はもう頭痛いと背を向けた。
 が、次の瞬間それどころではなくなる。
「嫌だなお母さま、彼、すでにふられてますよ」
 あははーと、愉しんでいるとしか思えないガッタが真実を告げた途端、母の顔色が激変したのだ。
「――ソーレイ、どういうこと! 母さんを騙したの? あの子をお姫さま抱っこして帰ってくるから明日には婚約パーティーできると思ったのに!」
 頭から湯気が出そうな母の様子に、ソーレイは深々とため息をついた。
「……あんたその妄想力どうにかしろ」
「キミ人のこと言えないから」
 ガッタの突っ込みに、逆被害妄想男ソーレイ・クラッドは、訳も分からず「あん?」と変な顔をした。
 彼には本当に、いろいろなところで自覚が足りないのだった。
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