キミと猫と、恋のお話

きりしま

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2 キミと購買と、バレッタのお話

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 遠くの景色を眺めるようにそんなことを考えていると、永人くんが「ねえマルちゃん」と首をかしげるような恰好で視界に割りこんできた。

 いけない。意識が別の世界に飛びかけていた。

 あわてて「なに?」とたずねると、永人くんは顔だけこちらに近づけて、周りにまぎれるくらい声をひそめて、

「よかったら今日一緒に帰んない?」
「えっ」
「お礼したい」

 耳をくすぐる声に、わたしは火がついたようにあわてた。

「い、いいよ、お礼なんて。大したことしてないし」
「いや、すげー助かったから。なんかごちそうさせて。あ――もしかして彼氏いる? そうならダメか」
「か、彼氏とかいないよ! さびしい身だよ!」

 まだ友だちもできないし――なんて、さらにさびしいことを暴露しそうになって、わたしは口をつぐんだ。
 しかもなんだかやけに力説してしまって、恥ずかしい……。

 前髪を押さえながらちらりと見ると、永人くんは口元に手を当て小さく笑っていた。
 気づかいなのかな。
 いっそ大声で笑ってくれた方が楽なんだけど……。

 口下手全開で黙ってしまったわたしに気づいて、永人くんは表情をやわらげ、姿勢を正した。
 そしてぱっと明かりがついたように笑ったかと思うと、

「じゃ、放課後正門のとこで待ってるから」
「え!」

 いつの間に話がまとまったの⁉︎
 
 びっくりまなこのわたしに、永人くんは「何食べたいか考えといてね」とオマケの一言を残して行ってしまった。
 
 待って待って待って!
 
 心の中で叫びながら、わたしは放心状態で彼を見送る。
 
 偶然助けた猫の飼い主が同じ学校の人、とか。
 その人に放課後誘われる、とか。
 こんなこと、あるの……?
 ――ていうか、放課後、どうするの!

「次の人どうぞー」

 購買のおばさんのに声をかけられ、ハッと我に返る。

 いつの間にか『パンダのおなか』争奪戦が終わっていて、わたしはおばさんに促されるまま駆け寄り、陳列棚からとりあえず二つレジに持っていった。
 
 よく見ないまま買っちゃったから、いつもは総菜パンと菓子パンをひとつずつと決めているのに、あんパンとクリームパンという最強に甘い組合せだ。

 ああもう、動揺しすぎ。
 
 情けなくなって、中庭でパンを食べながら佐緒里に助けを求めると、

『やっぱり運命じゃん!』

 ハートマークを飛ばしながら「キャー!」と叫ぶ猫のスタンプが送られてくるだけで何も解決せず、わたしは足が浮いたような心地のまま、その日の午後を過ごすことになった。
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