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思わず声を荒げる蔵だが、それも仕方ないだろう。
元はと言えば、質の悪い客に無理やりクスリを打たれそうだった状況からランを助け出したのは、蔵だ。
唯々諾々と従うだけの、意思を捨てた肉人形だった運命から救い出そうと奔走しているのも、他ならぬ蔵だ。
無戸籍らしいランの為に、人権派の弁護士を探してやったのも蔵だ。
決してタカシではない。
全部、蔵なのだ!
なのに、口を開けばタカシタカシと言われては、蔵の立場がないだろう。
「あいつの事はもう考えるな。今一番やらなきゃあならないのは、ランの自立だろう? とにかく最低でも戸籍をどうにかしてもらわないと、行政サービスも満足に受けられないって話じゃないか。今からでもそういうのを利用すれば、読み書きの学び直しだって……」
「蔵には感謝してるよ。会ったばかりのオレに、何でこんなに親切にしてくれるのか謎だけど」
ランには金がない事は重々知っているだろうに……しかも、あんなヤバいヤクザに借金まであるというのに、蔵はどうしてさっさとランを見捨てて逃げないのか?
尤もな疑問に、蔵は顔を真っ赤にしてポツリと答えた。
「――だからだ」
「は? 聞こえないけど」
「好きになったからだよ!」
思いを言葉にしたことで吹っ切れたか、蔵は一気に自分の気持ちを口にする。
「最初は、とにかくどこでもいいから転がり込もうと思って、たまたま出会ったお前の後に付いていったけど……よく見ると、めっちゃ綺麗な男だと思った。銀色の髪なんて初めて見たから、見惚れたよ。でも、その綺麗なランが、薄汚い野郎にいいようにされてるのを見て、とてもそのままにはしておけないと思った」
「何でだよ。オレなんて、蔵には関係ない他人だろう?」
『他人だろう』というセリフに、蔵の肩が揺れた。
そうだ、赤の他人だった。
だが、放っておけないと――救ってやろうと思った時には、違う感情が沸いていたのだ。
それが、恋情と言うのだろう。
元はと言えば、質の悪い客に無理やりクスリを打たれそうだった状況からランを助け出したのは、蔵だ。
唯々諾々と従うだけの、意思を捨てた肉人形だった運命から救い出そうと奔走しているのも、他ならぬ蔵だ。
無戸籍らしいランの為に、人権派の弁護士を探してやったのも蔵だ。
決してタカシではない。
全部、蔵なのだ!
なのに、口を開けばタカシタカシと言われては、蔵の立場がないだろう。
「あいつの事はもう考えるな。今一番やらなきゃあならないのは、ランの自立だろう? とにかく最低でも戸籍をどうにかしてもらわないと、行政サービスも満足に受けられないって話じゃないか。今からでもそういうのを利用すれば、読み書きの学び直しだって……」
「蔵には感謝してるよ。会ったばかりのオレに、何でこんなに親切にしてくれるのか謎だけど」
ランには金がない事は重々知っているだろうに……しかも、あんなヤバいヤクザに借金まであるというのに、蔵はどうしてさっさとランを見捨てて逃げないのか?
尤もな疑問に、蔵は顔を真っ赤にしてポツリと答えた。
「――だからだ」
「は? 聞こえないけど」
「好きになったからだよ!」
思いを言葉にしたことで吹っ切れたか、蔵は一気に自分の気持ちを口にする。
「最初は、とにかくどこでもいいから転がり込もうと思って、たまたま出会ったお前の後に付いていったけど……よく見ると、めっちゃ綺麗な男だと思った。銀色の髪なんて初めて見たから、見惚れたよ。でも、その綺麗なランが、薄汚い野郎にいいようにされてるのを見て、とてもそのままにはしておけないと思った」
「何でだよ。オレなんて、蔵には関係ない他人だろう?」
『他人だろう』というセリフに、蔵の肩が揺れた。
そうだ、赤の他人だった。
だが、放っておけないと――救ってやろうと思った時には、違う感情が沸いていたのだ。
それが、恋情と言うのだろう。
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