路傍の石

亜衣藍

文字の大きさ
上 下
26 / 40
3

3-9

しおりを挟む
 思わず声を荒げる蔵だが、それも仕方ないだろう。

 元はと言えば、質の悪い客に無理やりクスリを打たれそうだった状況からランを助け出したのは、蔵だ。
 唯々諾々と従うだけの、意思を捨てた肉人形だった運命から救い出そうと奔走しているのも、他ならぬ蔵だ。
 無戸籍らしいランの為に、人権派の弁護士を探してやったのも蔵だ。

 決してタカシではない。
 全部、蔵なのだ!

 なのに、口を開けばタカシタカシと言われては、蔵の立場がないだろう。

「あいつの事はもう考えるな。今一番やらなきゃあならないのは、ランの自立だろう? とにかく最低でも戸籍をどうにかしてもらわないと、行政サービスも満足に受けられないって話じゃないか。今からでもそういうのを利用すれば、読み書きの学び直しだって……」

「蔵には感謝してるよ。会ったばかりのオレに、何でこんなに親切にしてくれるのか謎だけど」

 ランには金がない事は重々知っているだろうに……しかも、あんなヤバいヤクザに借金まであるというのに、蔵はどうしてさっさとランを見捨てて逃げないのか?

 尤もな疑問に、蔵は顔を真っ赤にしてポツリと答えた。

「――だからだ」
「は? 聞こえないけど」
「好きになったからだよ!」

 思いを言葉にしたことで吹っ切れたか、蔵は一気に自分の気持ちを口にする。

「最初は、とにかくどこでもいいから転がり込もうと思って、たまたま出会ったお前の後に付いていったけど……よく見ると、めっちゃ綺麗な男だと思った。銀色の髪なんて初めて見たから、見惚れたよ。でも、その綺麗なランが、薄汚い野郎にいいようにされてるのを見て、とてもそのままにはしておけないと思った」

「何でだよ。オレなんて、蔵には関係ない他人だろう?」

『他人だろう』というセリフに、蔵の肩が揺れた。

 そうだ、赤の他人だった。
 だが、放っておけないと――救ってやろうと思った時には、違う感情が沸いていたのだ。

 それが、恋情と言うのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

指導係は捕食者でした

でみず
BL
新入社員の氷鷹(ひだか)は、強面で寡黙な先輩・獅堂(しどう)のもとで研修を受けることになり、毎日緊張しながら業務をこなしていた。厳しい指導に怯えながらも、彼の的確なアドバイスに助けられ、少しずつ成長を実感していく。しかしある日、退社後に突然食事に誘われ、予想もしなかった告白を受ける。動揺しながらも彼との時間を重ねるうちに、氷鷹は獅堂の不器用な優しさに触れ、次第に恐怖とは異なる感情を抱くようになる。やがて二人の関係は、秘密のキスと触れ合いを交わすものへと変化していく。冷徹な猛獣のような男に捕らえられ、臆病な草食動物のように縮こまっていた氷鷹は、やがてその腕の中で溶かされるのだった――。

処理中です...