路傍の石

亜衣藍

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 あのガチャガチャという音は、蔵も聞き覚えがある。

 前に付き合っていた女がヤク中で、中毒症状を発症しては暴れ回っていたからだ。
 蔵は仕方なしに警察に通報して、結局その女とはそれきりになってしまったが――。

 とにかく今は、それどころではない。

(あの野郎、注射器使ってんのかよ!? そんなの、マジでアウトじゃねーか!)

 世間では、覚せい剤の使用方法は注射器というイメージがあるが、実際は違う。鼻から吸う炙りの方がまだだし、それが一般的だ。
 注射器を使いだしたら、もう末期の中毒患者コースだと思った方がいい。

 居ても立ってもいられず、蔵はとうとう扉を開けていた。

「止めろ、この野郎!」

 突然現れた蔵に驚いたか、男は半ケツのまま飛び上がった。
 男は、見るからに粗野な外見をしていた。

 紫色に染めた短髪に、首にはタトゥー。目は血走っていてかなり
 十中八九、ヤクザか半グレだろう。

「誰だてめぇ!」

 男が慌ててナイフを取り出そうとしたが、それより先に蔵の左フックが顔面に入る。
 男は堪らず、その場で吹っ飛んだ。

 ガシャーン!

 殴られた男の身体は、そこら辺に置いてあった家電を巻き込んで壁にぶち当たり、派手な音が建物全体に鳴り響く。
 一瞬『やり過ぎたか』と思ったが、今はそれよりもランの方が大切だ。

 蔵は半裸状態のランを抱え上げると、大急ぎでその場からダッシュしていた。

   ◇

「バッカじゃねーの。あんた、オレの話を聞いたんじゃなかったのか? 何があっても騒ぐなって、言っただろうが」

 不機嫌そうに舌打ちするランに、蔵はどう対応すればいいのか途方に暮れる。
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