路傍の石

亜衣藍

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 まさか、こんな筒抜け状態なのにセックスをしているのか?
 呆気にとられる蔵だが、どうも隣から聞こえてくる音は愛の交感とは程遠いようだ。

 時折り肉を打つ声が断続的に聞こえるし、快感から洩れるような声もほとんど聞こえない。
 耳に入るのは、全てランの引き攣ったような苦鳴だった。

「ぐ――うぅっ」
「なんだぁ? いつもみたいに派手な声を上げろよ、なっ」

『なっ』という男の声と同時に、バシッと、ひときわ高く肉を打つ音が響いた。
 これには耐え切れなかったのか、ランが「あぁっ!」という悲鳴を上げた。

「も、叩くのはやめ――」
「ほらほら、ここが良いんだろう?」
「いやだぁ!」

 再びランの悲鳴が上がる。
 この事態に、蔵は救出に動くべきかどうか真剣に悩む。

(幾ら何でも、これはただのリンチだよな。セックスしてんのかもしれないけど、ランの方は悲鳴しか上げてねぇぞ)

 快感の全くない行為が、幸福なワケがない。
 だがランを弄んでいる男の方は、かなり悦に入っているようだ。
 きっと、人が苦しむ様を見ては喜ぶようなサディストなんだろう。

(ラン、やっぱオレ、もう――)

 助けに行こうと、行動に移そうとした蔵だが。

「ダメだ! 邪魔はすんな!」

 と、まるで蔵の行動を見透かしたような声が上がった。

(ラン?)

「オレ、は、好きでやってん、だ……。だから……」
「おいおい、お前は何言ってんだ? もう飛んじまったのか?」

 男が冷たい声で笑い声を上げると、次に、何かガチャガチャという音がした。

「天国に行くのはこれからだぜ。こいつでキメてやる」
「――っ!」

 ランの、声の無い悲鳴が上がった。
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