彼が恋した華の名は

亜衣藍

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(参ったな……こんな歳になっても、オレはちっとも成長してねぇんだな)

 三つ子の魂百までというが、全くその通りだ。

 本音を言うと、今度こそ聖をこの腕の中に閉じ込め、雁字搦めに縛り付けて、もうどこの誰も見ないように目を潰してしまいたい。

 そんなことは不可能な事と思いつつも、衝動と激情に猛り狂って、何もかもを喰らい尽くしてしまいたいと思う。

 白く美しい、あの躰の全てを。

 そして史郎は、自分の中にはまだこんな狂暴な獣が棲み付いているのかと、我ながら戦慄する。

 五十も超えて、いい加減に落ち着いたと思っていたのに。

 聖の事を想う度に、いつも、あの二十代の頃のギラギラしていた時に戻るようだ。

(――――聖、お前の方はどうなんだ……? )

 史郎は、彼もまた自分と同じようであったならと願う。

 今もその心に、自分の影が残っている事を期待したいと思う。

 紆余曲折はあったが、確かに、互いに心通わせて愛し合った時期もあったのだから。

 ハァと、熱のこもった息を吐いたところで、コンコンと小さく扉が叩かれた。

(来たか…………)

 久しぶりの再会だ。

 長く、その顔を見ていない。

 果たして、四十も半ばを過ぎた筈の彼は、今も美しいであろうか?

 舎弟の話では、益々男を狂わせているバケモノだという事だが…………。

 史郎はソファーから身を起こし、扉へ向かう。

「――聖か」

「ああ」

 素っ気ない返答に苦笑しながら、史郎は扉を開けた。

   ◇

――――聖は、踝まで隠れるような、漆黒のロングコートを纏った姿で現れた。

 数年ぶりに見る聖は、相変わらず美しかった。
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