彼が恋した華の名は

亜衣藍

文字の大きさ
上 下
5 / 52
2

2-1

しおりを挟む

 意地でも絶対に媚びるものかと思い、聖は数々の仕打ちにジッと耐えていた。

――――黙ってとことん無視していれば、こんな可愛げのない野郎なんぞ直ぐに相手にもされなくなるに違いない。

 この業界、華麗な花は幾らでも咲き誇っている。

 誰だって抱くなら、柔らかくて可愛い抱き心地のいい女の方がイイに決まっている。

 青菱史郎は、青菱組の若頭を名乗っているだけあって、高級クラブのナンバーワンホステスを何人も愛人に抱えている野郎だ。

 それが、何の酔狂か知らないが、格下とはいえ他の組の組員を強引に囲うなど前代未聞の珍事だろう。実際、周りも大反対だった。

 こんなの、いつまでも続くワケが無い。

 だから、とっとと早く飽きやがれ!

――――と、聖は毎日思っていた。

 しかし意に反し、一向に史郎は聖を手放そうとしなかった。

 だが、それで黙って言いなりになるような性格の聖ではない。

 とうとう我慢も限界に達して、ある日彼は反旗を翻した。

   ◇

「史郎さん、あんたはオレの事をいたぶって随分と楽しいようだが、いい加減にお役御免にしちゃあくれませんか? 」

 そう言いながら、史郎の喉にドスを突き付けた聖である。

 勿論、ここで本当に史郎の頸動脈を切るつもりはない。

 ここまで反逆的な態度を取ったら、折れて聖を解放するか――――それとも、聖を半殺しにするだろうと考えての事だ。

 さすがにそうなったら、格下とはいえ天黄組が黙ってはいない。

 天黄正弘は、聖の養い親のような男である。

 可愛い組員をこんな目に遭わせるようなら、もう若頭に預ける事は出来ないと、正式に青菱の組長へ直訴するだけの大義名分が出来る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

インテリヤクザは子守りができない

タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。 冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。 なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──

処理中です...