MAN OF THE FULL BLOOM

亜衣藍

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 そういえば、聖は何故か船員だけに支給されている正規の制服を着ているが?
 不思議に思ったレオンがその事を訊ねる前に、聖が再び口を開く。

「まだ、オレを抱きたいと思うか?」
「……正直に言えばな。だがそれを不実だというのなら、私も我慢するよ」

 名残惜しいように溜め息をつきながら呟くレオンに、聖は初めてホッとしたように微笑み掛けた。

「ああ、それがベストの選択だな。……ところでそのイオリの居場所は、シオリの客室で間違いないか?」

 この豪華絢爛な客室に来てから、侍従以外の人の気配を感じない。
 つまり、イオリはここではない何処かに隠れているという事だろう。
 これに対し、レオンは観念したように頷いた。

「その通りだ。あれからイオリは、シオリの部屋に身を潜めているよ。彼女は、なんだ」

「やはり、そうか……」

「シオリは、事故でダメージを受けた足の回復手術を望んでいた。だから私との打算に満ちた婚約に合意したが、それが兄の犠牲の上にも成り立つ条件だった事にずいぶんと悩んでいたようだ。そしてイオリの方は、手術の対価として愛の無い婚約をシオリに強いた私を恨んでいるらしい……」

「尚更、その婚約がイオリ自分を縛り付ける為の鎖だと知っているから、レオンに強く反発したという事だな」

「――そうなると、思う」

 愚かな話だが。
 頭を殴られるまで、それが分からなかったレオンだ。
 しかし、こうして聖に滔々と正されると、すとんと胸に落ちるものがあった。

「本当に君は、素敵だよ」
「ん?」
「でも、諦めなければならない。実に、勿体ないが」

 腕の力が弱くなったことに気付いた聖は、その腕の中からするりと抜け出した。
 そうして、最後に嫣然と笑う。

「オレも、一回くらいは試しにあんたとやってみたかったかもな」

 傲慢な王様だが、愛は本物だ。
 性根を据え、覚悟を決めれば。
 この先は脇見をする事なく、イオリだけを愛して行けるだろう。

(いつかオレも、そんなヤツに巡り合えればな……)

 微かな痛みを抱えながら、聖は踵を返した。

 孤高の黄金の獅子は、立ち去る聖を未練がましく引き留める事無く、感謝するような暖かな眼差しで静かに見送ったのだった。

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