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イオリは、昼は富裕層相手に通訳の仕事をしていたが、もっと手っ取り早く稼ぐために夜の仕事もしていた。
そうして朝から夜まで休みなく働き、それでも金が足りない時は、化粧をして綺麗な女性に化け、強面の友人と組んで美人局のような事までやっていたらしい。
縄張りを犯した所為で、ヤクザに目を付けられ追い詰められそうになった事もあるが、イオリは巧みに追っ手から逃れる事が出来た。
何故かというと、理由は簡単だった。
「オレも驚いたよ。何の特徴もない地味で平凡な東洋人だと思っていたが、彼はとんでもなく化粧映えする顔だったようだね」
サイエンはレオンの眼前に、二枚の写真を突き付けた。
一枚は、本当に直ぐに雑多に紛れ込んでしまうだろう、実にモブキャラらしい地味で平凡な東洋人。
もう一枚は、世界的スーパーモデルだったシオリによく似た、輝くばかりに美しい東洋人だ。
「この二枚は、どっちも同じ人間だ。名前はオキ・イオリ。君がここに連れて来た、あの地味な秘書だろう?」
サイエンの指摘に、レオンは無言だ。
つまり、当たっているという事だ。
それを確かめると、サイエンは嘆息した。
「やれやれ、レオン・マフタンともあろうものが、何でこんな厚化粧の女装男に惚れたのか。まぁ、確かにこの写真を見る限りは、とびきりの美人には見えるが――」
「貴様には分らんだろうよ」
「なぜ?」
「私が心を奪われたのは、女に化けたイオリではない」
そう、レオンが執着したのは、地味で平凡で凡庸な容姿をした素のイオリだった。
今から十年前、日本へお忍びで遊びに来た時に、レオンはイオリと出会った。
イオリはフランス語が話せたので、通訳としてレオンに付いたのだ。
今まで、ヨーロッパ随一の富豪であるレオン・マフタンと知るや否や、男も女も媚び諂い、レオンの歓心を得ようと躍起になるのが当たり前だったのだが。
しかしイオリは、そんな態度を一切見せずに、ただ淡々と仕事をこなした。
そうして朝から夜まで休みなく働き、それでも金が足りない時は、化粧をして綺麗な女性に化け、強面の友人と組んで美人局のような事までやっていたらしい。
縄張りを犯した所為で、ヤクザに目を付けられ追い詰められそうになった事もあるが、イオリは巧みに追っ手から逃れる事が出来た。
何故かというと、理由は簡単だった。
「オレも驚いたよ。何の特徴もない地味で平凡な東洋人だと思っていたが、彼はとんでもなく化粧映えする顔だったようだね」
サイエンはレオンの眼前に、二枚の写真を突き付けた。
一枚は、本当に直ぐに雑多に紛れ込んでしまうだろう、実にモブキャラらしい地味で平凡な東洋人。
もう一枚は、世界的スーパーモデルだったシオリによく似た、輝くばかりに美しい東洋人だ。
「この二枚は、どっちも同じ人間だ。名前はオキ・イオリ。君がここに連れて来た、あの地味な秘書だろう?」
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つまり、当たっているという事だ。
それを確かめると、サイエンは嘆息した。
「やれやれ、レオン・マフタンともあろうものが、何でこんな厚化粧の女装男に惚れたのか。まぁ、確かにこの写真を見る限りは、とびきりの美人には見えるが――」
「貴様には分らんだろうよ」
「なぜ?」
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