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しおりを挟むこれには流石に驚き、聖は咄嗟に肘打ちを繰り出した。
「何をする!」
「おぉ……ミドー、ひどいな」
レオンは大仰に、打たれた脇腹をさすりながら悲しそうに眉をしかめた。
「美しい華を見つけたら、手に入れたいと思うのは男の本能だぞ。そんなつれない態度を……君は罪作りな人だな」
「オレに非があると言いたいのか? いきなり抱きつくなど、紳士のする事ではないだろう!」
怒気を纏う聖に、傍で呆気に取られていた晁生がハッと我に返った。
このレオンという男は、経済誌で見た事がある。
確か、ヨーロッパの芸術文化とメディアの広域事業を手掛ける、ヨーロッパ屈指の強者マフタン財団のトップだ。
マフタン財団の協力なくして、ヨーロッパでの芸能活動は、ほぼ不可能だとも言われている。
(もしやこのVIPを、サイエンは我々に紹介してくれるというのか?)
そうだとしたら、客集めで既に苦戦しているような、明日のプレゼンなどどうでもいい。
何かと規制の多いヨーロッパ公演が、マフタン財団の協力で円滑に開催できるようになれば、アイドルグループを抱える城嶋エンタープライズとしたらお釣りが出るくらいの収穫だ。
ヨーロッパは、日本の「オタク文化」が浸透している。
ならば、日本のアイドルグループを売り込む千載一遇のチャンスだ!
晁生は、期待を込めてサイエンをチラリと見る。
これにサイエンはニヤリと笑うと、興奮した様子のレオンの前へと進み出た。
「ミドーは、こんな衆目を集めるような場所での濃厚なスキンシップは恥ずかしいようだ。彼は、慎ましやかな日本人だしな。それに君も、こんなに綺麗な婚約者を連れておいて、少々羽目を外し過ぎなのではないか?」
するとレオンは「そういえばまだ紹介してなかったな」と頷いた。
たったいま、情熱を爆発させたかのように豪快に振舞っていたのに、まるで別人のように冷厳な面に変わる。
「不本意だが、私には大切な役目があってね。だから、彼女と婚約したんだ」
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