1 / 75
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む「皆を助けると思って、少し付き合ってほしい」
その一言に、ついつい従ってしまったのが失敗だった。
いつもならば無視するところであろうに、何故かその時だけは素直に頷いてしまい、結局こんな場所まで来てしまうなど……後悔しかない。
何処までも続く大海原を視界に収めながら、御堂聖は深々と溜め息をついた。
比喩でも何でもない、ここは本当に大海のド真ん中だ。
『クイーン・ダイアモンド』という豪華客船に言葉巧みに連れ込まれ、只今絶賛航海中であり後悔中でもある。
本当に、なんでこんな所まで来てしまったのか。
「何だ、随分と大きな溜息だな?」
その声に振り向くと、空のグラスとシャンパンを手に近付いて来る伊達男の笑顔と遭遇した。
男の名は、城嶋晁生。
聖と同じく、中堅の芸能事務所を運営している男である。
「さすがに参加費だけで一万ドルも取られるだけはある。食い物や飲み物も、まずまずのレベルだよ。これらも料金に入っているんだし、飲まないと損だ」
「一人一万ドル払って下層階のツインルームで、提供されるのがそれか。確かに、まずまずのレベルだよな」
皮肉を込めて言ったところ、相手は困ったように肩をすくめてグラスを差し出した。
「まぁ、そう言うなって。この船にはオイルダラーを始めとする世界中の金持ちが乗船してるんだ。一万ドルなんて安い方だ、仕方がないよ」
確かに、この豪華客船には、滅多にお目に掛かれないようなセレブが大勢乗っている。
それが目当てでここまで来た以上、恨み言を口にするは野暮と言うものか。
グラスに注がれたシャンパンを口にしながら、聖は再び溜め息をついた。
そんな聖を慰めるように、晁生はゆっくりと手を伸ばして優しく聖の背中を撫でる。
「ボクらのような商売は、投資してくれる奴等がいない事には成り立たない、玉響の如き商売だ。なのに、ここ数年続いた新型感染症の所為で、エンタメ業界は大打撃を被った。お陰で、ボクらの同業はもう何社も事業から撤退している。そう言うボクも……資産のほとんどを手放して、どうにか立て直しを図っている最中だ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる