25 / 95
4
4-2
しおりを挟む
念押ししてくる須藤に、朝日は戸惑いながらも首を縦に振った。
「……はい。もちろん、僕もここの社員なわけだし。与えられた仕事は頑張って取り組むだけです。ただ、僕は――」
「なんだ?」
促され、朝日はずっと心に引っ掛かっていた事を口にした。
「実は僕自身が、恋愛ってしたことがないんです。だからどこまで会員様の気持ちに寄り添って物事を考えられるのか、いまひとつ自信が無くて」
「恋愛をしたことが無い? 嘘だろう? お前幾つだよ」
「もうすぐ三十路ですが、でもなんか恋愛するようなチャンスが無くって」
何となくバツが悪いような気がして、デスクに並べたままの封筒へ手を伸ばす朝日だ。
宛名書きや礼状などは未だに手書きの方が主流である故、朝日もせっせと手書きで宛名を書いていた途中だったのだ。
その手元を見て、須藤はポツリと言葉をこぼす。
「……利き手を右に変えたのか?」
「え? ああ……昔は左だったんですが、やっぱり不便でしょう? 専門店に行かないと左利き用のハサミも売ってないし。だから少しずつ右手を遣うように矯正して……って、なんで社長が、僕が昔左利きだった事を知ってるんですか?」
なんとも不思議な話だ。
朝日は頭の中にクエスチョンを浮かべながら、傍に立ったままの須藤の顔を見上げる。
すると須藤は、何だか困ったように笑った。
「いや、覚えてないならそれでいい」
「んん? もしかして、僕達ってどこかで面識在りましたか?」
しかし、右頬に傷跡のある男など朝日の記憶の中にはない。
顔に古傷を刻んだ、こんなに目立つ風体の男を忘れるなど、そもそも有り得ない気もする。
作業する手を止めて、もう一度じっくりと須藤の顔を見る朝日であるが。
次に起こった出来事に、完全に脳が動きを止めた。
なんと、須藤の方から顔を近づけて来たかと思ったら、そのまま朝日の唇にキスをしてきたのである。
「っ!」
驚く朝日に、須藤は悪童のようにニッと笑い返す。
「……はい。もちろん、僕もここの社員なわけだし。与えられた仕事は頑張って取り組むだけです。ただ、僕は――」
「なんだ?」
促され、朝日はずっと心に引っ掛かっていた事を口にした。
「実は僕自身が、恋愛ってしたことがないんです。だからどこまで会員様の気持ちに寄り添って物事を考えられるのか、いまひとつ自信が無くて」
「恋愛をしたことが無い? 嘘だろう? お前幾つだよ」
「もうすぐ三十路ですが、でもなんか恋愛するようなチャンスが無くって」
何となくバツが悪いような気がして、デスクに並べたままの封筒へ手を伸ばす朝日だ。
宛名書きや礼状などは未だに手書きの方が主流である故、朝日もせっせと手書きで宛名を書いていた途中だったのだ。
その手元を見て、須藤はポツリと言葉をこぼす。
「……利き手を右に変えたのか?」
「え? ああ……昔は左だったんですが、やっぱり不便でしょう? 専門店に行かないと左利き用のハサミも売ってないし。だから少しずつ右手を遣うように矯正して……って、なんで社長が、僕が昔左利きだった事を知ってるんですか?」
なんとも不思議な話だ。
朝日は頭の中にクエスチョンを浮かべながら、傍に立ったままの須藤の顔を見上げる。
すると須藤は、何だか困ったように笑った。
「いや、覚えてないならそれでいい」
「んん? もしかして、僕達ってどこかで面識在りましたか?」
しかし、右頬に傷跡のある男など朝日の記憶の中にはない。
顔に古傷を刻んだ、こんなに目立つ風体の男を忘れるなど、そもそも有り得ない気もする。
作業する手を止めて、もう一度じっくりと須藤の顔を見る朝日であるが。
次に起こった出来事に、完全に脳が動きを止めた。
なんと、須藤の方から顔を近づけて来たかと思ったら、そのまま朝日の唇にキスをしてきたのである。
「っ!」
驚く朝日に、須藤は悪童のようにニッと笑い返す。
20
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる