彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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真壁了、犬の生活🐕

真壁了、忠犬の日常🐕

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 あっさりと、そう返事がかえって来た。

 どうやら、愛人ではないようだ。

 真壁は不思議な気分になりながら、言われるままに聖のマンションへ足を踏み入れる。

「社長、おはようございます。本日のスケジュールに若干の変更が……」

「ああ、おはよう。すまないが、もう少しだけ待っててくれないか」

「っ!?」

 なんと、聖はまだ出社の支度をしていなかったらしい。

 寝乱れた髪はそのままで、コットンの部屋着姿のままだ。

 もしかして寝過ごしてしまったのだとしたら、普段ピシッと自己管理をしている聖にしたら相当珍しい事である。

「ええと……時間に余裕はあるので、一時間程ズレても大丈夫ですが……」

「そうか」

 聖はそう言うと、真壁に「直ぐに支度をするから、リビングで座って待っててくれ」と言い残して慌ただしく洗面所へ足を運ぶ。

 その背中へ向かい、真壁は昨夜から考えていた事を口に出してみた。

「あの、聖さん! 犬のことですが……」

「ああ、それはもういい」

「え?」

「この際、犬用でも構わないだろうから、そのまま使おうと思う。エサは、下の階で犬を飼っている家があるからそこへ譲ろうと考えている」

「何の事ですか?」

 戸惑いながらそう訊ねると同時に、聖の声が上がった。

「ああ、こらっ! お前はまた……」

「ニャアァァァン」

(っ!?)

 なんと、可愛らしい虎柄の仔猫が、聖の足首へ擦り寄っているではないか。

「聖さん、その猫は……?」

「ん? ああ、この子、何処からか迷い込んだらしい。いつの間にかオレの部屋に入り込んでいて、ベッドに潜り込んできたんだ」

 そう言うと、聖は苦笑いをしながら猫を抱き上げる。

「この子は、本当にイタズラ好きで人間が好きらしい。昨夜から隙をみつけては、オレの首筋やら足やら舐めて来てくすぐったいったら……ああ、こらまたっ」

 仔猫はジタバタすると、器用に聖の上着の中へするりと入り込んだ。

 そうして、その中であちこちをモゾモゾペロペロと舐めているらしく、嬌声に近い艶めいた声が聖の口から上がる。

「もぉ、こら! やめっ」

「ニャ~ン」

「お前は、オレが風呂に入っている時もトイレに入っている時も器用に入り込んで来て……本当に甘えん坊だなぁ」

「ニャン」

 フカフカの可愛い仔猫は、愛らしい仕草で聖の腕にしがみついた。

 こんな事をされては、厳しく𠮟るなど不可能だ。

「も~、こんなんじゃあ、オレはいつまで経っても出社できないぞ」

「ニャ~ンニャ~ン💗」

 この虎猫、実に可愛い。

 見ればみる程可愛いが……真壁は何故か、猛烈に憎たらしくなった。

「何なんですか、この猫は! 風呂にまで入って来るなんて厚かましいにも程がある!! オレが預かりますから、聖さんは――痛っ!」

 鋭い爪の一閃が、真壁の手を駆け抜けた。

 次に、ぷくりと血の粒が縦方向に盛り上がって来る。

「この、クソ猫!」

「真壁!」

 鞭のような声に、真壁は叱られた忠犬のように直立不動になる。

 そんな真壁に対して、聖は説教を始めた。

「お前は、すぐにそうやってカッとなる所が欠点だ。本当のお前は真っすぐで優しい性格なんだから、もっと生き物に対して愛情というモノをだな――」


 滔々と語る聖の腕の中で……可愛らしい虎柄の仔猫は、邪悪な笑みを浮かべてニャ~ンと鳴いたのだった。

   🐈 おしまい💗


これにて終了です。
本当はもう一品「おまけ」作品で『御堂聖が死ぬまでに叶えたい願い事』があったのですが、どうもこれ以上アルファポリスに載せても反応は返って来そうにないので中止します。
いや本当に、異世界転生やなろう系ばっかりで場違い感が半端なかったです(^-^;
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