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真壁了、犬の生活🐕
真壁了、戦う🐕
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リビングで何やら剣呑な様子になる犬に気付かず、聖は買ってきた犬用ケージやサークルを組み立てるべく、工具を取りに物置部屋へと足を向けた。
「ええと、プラスドライバーで全部いけるか? 普段なら、こういった事は真壁に頼むんだが……どういうわけか、あいつは今日は捕まらないしなぁ」
何なら別のヤツを呼び出してもいいが。
しかし、同時にオプションも求められるのが鬱陶しい。
こちとら、求められて喜ぶような歳はとっくに過ぎているのだ。
指示する作業を終えたら、無言のままサッサと帰ってほしいのが本音だ。
(そう考えると、いつもニコニコ笑いながら文句の一つも言わず見返りも求めずに手伝いをしてくれていた真壁は、かなり貴重な男なんだな)
今更ながら、真壁のありがたみを噛みしめる聖である。
もうずっと何年も、真壁は聖の手足となって付き従ってくれている。
真壁は数少ない、信頼の置ける男だった。
(あいつだって、一人になりたい時はあるだろう。今日がたまたまそういう日なんだろうな。……無理に探し出して呼びつけるのは止めておこう)
万が一、嫌われでもしたら大変だ。
――――そう思った自分に、聖は動揺した。
(バカな! オレは、あいつのことは……)
混乱する頭を振りながらリビングに戻ってきた所で、聖は唖然とした。
先程まで、整理整頓されていた綺麗なリビングが――――なんとも散々たる有様になっていたからだ。
クッションはボロボロに咬み裂かれ、イタリア製のソファーも内部のウレタンがズタズタに引き摺り出されている。マガジンケースも横倒しになり、雑誌もビリビリに裂かれてそこら中に散っていた。
「キャンキャンキャン!」
「ワンワンワン!!」
聖が戻ってきたことに気付かず、ゴロゴロと転がりながら取っ組み合って喧嘩をする仔犬たちは、その時、サイドテーブルにセッティングされていたグラスセットに突進した。
「危ない!」
聖が、悲鳴のような声を上げた。
次の瞬間、グラスが床に叩きつけられるが――!!
『おい!』
『聖さんっ!!』
「う……」
聖の、低い呻き声が上がった。
「お、お前達……ケガはないか?」
なんと、聖が横滑りに犬たちの上へ咄嗟に被さり、サイドテーブルから雪崩のように落ちたグラスやタンブラー、重いアイスペールの衝撃から、身を挺して守ったのである。
「キャンキャン!」
「ク~ン」
腕の中で、心配そうに鳴きながら擦り寄って来る犬達に、聖はホッとしたように笑った。
「よかった。お前達、怪我はないようだな」
「キャン」
「ワンッ」
千切れるくらいに尻尾を振り回し、二匹は競い合うように聖の顔をぺろぺろと舐める。
この可愛らしい仔犬の様子に、聖は再び微笑む。
「ははは、おい、くすぐったいぞ――って……」
「キャン?」
「ワンッ!?」
聖は眉根を寄せながら、足首をさする。
どうやら仔犬達を守ろうと床にダイブした時に、軽く足を捻ったようだ。
「いてて……ちょっと、オレの方は無事では済まなかったか……」
すると仔犬達は、目に見えて元気がなくなった。
それまで振り回していた尻尾はだらんと垂れて、目からは涙がポロポロと零れている。この様子に慌てたのは、聖の方だ。
「おいおい、このくらい大丈夫だって! 今は仕事も暇な時期だし、オフも一週間とってある。家でゴロゴロしていれば、捻挫くらい平気だから」
『そうかもしれませんが――でも、オレのせいであなたがそんなケガを負ってしまうなんて』
ケンカで見境なくなっていた自分に、恥じる真壁だ。
「ええと、プラスドライバーで全部いけるか? 普段なら、こういった事は真壁に頼むんだが……どういうわけか、あいつは今日は捕まらないしなぁ」
何なら別のヤツを呼び出してもいいが。
しかし、同時にオプションも求められるのが鬱陶しい。
こちとら、求められて喜ぶような歳はとっくに過ぎているのだ。
指示する作業を終えたら、無言のままサッサと帰ってほしいのが本音だ。
(そう考えると、いつもニコニコ笑いながら文句の一つも言わず見返りも求めずに手伝いをしてくれていた真壁は、かなり貴重な男なんだな)
今更ながら、真壁のありがたみを噛みしめる聖である。
もうずっと何年も、真壁は聖の手足となって付き従ってくれている。
真壁は数少ない、信頼の置ける男だった。
(あいつだって、一人になりたい時はあるだろう。今日がたまたまそういう日なんだろうな。……無理に探し出して呼びつけるのは止めておこう)
万が一、嫌われでもしたら大変だ。
――――そう思った自分に、聖は動揺した。
(バカな! オレは、あいつのことは……)
混乱する頭を振りながらリビングに戻ってきた所で、聖は唖然とした。
先程まで、整理整頓されていた綺麗なリビングが――――なんとも散々たる有様になっていたからだ。
クッションはボロボロに咬み裂かれ、イタリア製のソファーも内部のウレタンがズタズタに引き摺り出されている。マガジンケースも横倒しになり、雑誌もビリビリに裂かれてそこら中に散っていた。
「キャンキャンキャン!」
「ワンワンワン!!」
聖が戻ってきたことに気付かず、ゴロゴロと転がりながら取っ組み合って喧嘩をする仔犬たちは、その時、サイドテーブルにセッティングされていたグラスセットに突進した。
「危ない!」
聖が、悲鳴のような声を上げた。
次の瞬間、グラスが床に叩きつけられるが――!!
『おい!』
『聖さんっ!!』
「う……」
聖の、低い呻き声が上がった。
「お、お前達……ケガはないか?」
なんと、聖が横滑りに犬たちの上へ咄嗟に被さり、サイドテーブルから雪崩のように落ちたグラスやタンブラー、重いアイスペールの衝撃から、身を挺して守ったのである。
「キャンキャン!」
「ク~ン」
腕の中で、心配そうに鳴きながら擦り寄って来る犬達に、聖はホッとしたように笑った。
「よかった。お前達、怪我はないようだな」
「キャン」
「ワンッ」
千切れるくらいに尻尾を振り回し、二匹は競い合うように聖の顔をぺろぺろと舐める。
この可愛らしい仔犬の様子に、聖は再び微笑む。
「ははは、おい、くすぐったいぞ――って……」
「キャン?」
「ワンッ!?」
聖は眉根を寄せながら、足首をさする。
どうやら仔犬達を守ろうと床にダイブした時に、軽く足を捻ったようだ。
「いてて……ちょっと、オレの方は無事では済まなかったか……」
すると仔犬達は、目に見えて元気がなくなった。
それまで振り回していた尻尾はだらんと垂れて、目からは涙がポロポロと零れている。この様子に慌てたのは、聖の方だ。
「おいおい、このくらい大丈夫だって! 今は仕事も暇な時期だし、オフも一週間とってある。家でゴロゴロしていれば、捻挫くらい平気だから」
『そうかもしれませんが――でも、オレのせいであなたがそんなケガを負ってしまうなんて』
ケンカで見境なくなっていた自分に、恥じる真壁だ。
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