彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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真壁了、犬の生活🐕

真壁了、犬になる🐕

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 頼もしい言葉ではあるが、このままでは命が危うい気がする。

 それに、万が一人身事故でも起こしたら一大事だ。

 そこで真壁は、一計を案じることにした。

「クウゥ~ン、キュウゥゥ~ン」

 助手席でくるんと丸くなり、細い声で苦し気に鳴いてみる。

 すると覿面、聖はサッと顔色を無くし慌てて路肩に車を停車させた。

「どうした、ワン公!」

「ク~ン……」

「具合が悪いんだな!? くそっ! 獣医か? 真壁は捕まらないし――そうだ」

 すると聖は、携帯電話で誰かに電話をした。余程タイミングが良かったのか、呼び出し音は『プルル』の一回だけで、すぐに相手は出たようだ。

「オレだ! 何でもいいから、とにかくすぐに来い!! は? 場所?――○○通りに入ってすぐの、オーソン前だ」

 それだけ言うと、聖は真壁を抱えて車から降りた。

 ここで真壁はようやく、ショーウィンドウに映る己の姿を、改めて確認した。

(やっぱり、オレは犬になってるようだな……)

 どうやら、ボクサー犬の仔犬らしい。

 黒々とした毛並みは美しく、真ん丸黒目は愛らしい。

 このキュートな姿ならば、何をしても許されそうな錯覚さえする。

『でもこの躰じゃあ、聖さんの盾になってその身を御守りする事は難しいぞ』

 キュ~ンと鳴きながら聖を見上げると、それをどう受け取ったか、聖は目を細めて微笑んだ。

「ん? 大丈夫だ。もうすぐ犬に詳しいヤツが来るからな……そうしたら、医者に診てもらって……ついでに、美味しいエサも買おうか?」

 だから安心しろと、その白魚のような手で優しく真壁の頬を撫で、身体をキュッと包み込むようにして抱き上げる。

クウゥ~ン聖さん

 真壁はこの瞬間、犬になった事をこの上なく喜んだ。

 この状態が続くならば、もう本当に自分は一生犬のままがいいと思うくらいに。

 だが次の瞬間、真壁の耳に、不穏な声が飛び込んできた。

『オッサン、いい歳のクセに、なに可愛い子ぶってんだよ? キメーぞ』

『な、なにっ!? 』

 その暴言が、天女のように麗しく美しい聖に浴びせられるはずがない。

 真壁は聖の腕の中でパッと上体を起し、声のした方を見遣る。

 するとそこには、フワフワモコモコの、赤い毛玉のようなポメラニアンがいた。

『なにがキュ~ンだ。恥ずかしくねぇのか?』

『お、お前は――まさか!?』

 驚愕する真壁に、ポメは不敵な笑みを返す。

『そうだ、オレだよ!』

   🐕

「キャンキャンキャン!」

「ヴウゥ~ワンッワンッ!」

 激しく吠え始めたボクサーとポメに、聖は困ったような顔をする。

 そうして、そのポメのリードを握っていた男を見上げた。

「なんか、お前の所の毛玉犬とウチの犬じゃあイマイチ相性が良くないよだな……ところでその毛玉、前はいなかったよな?」

 聖がそう訊ねると、男はコクリと頷いた。

「ああ、ウチで飼っているのはシェパードだけだ。しかし何故か今朝、犬小屋にこいつが迷い込んでいてよ。追い出そうとしたが、古参の山藤ってヤツがしばらく置いてくれと」

「ふ~ん?」

「まぁ、とにかく、こうしてまた呼び出してくれてオレは嬉しいぜ。しかしまさか、犬の世話の方法が知りたいからって理由で呼び出されるとは思ってなかったが」

 てっきり、後ろ・・が恋しくなったんで呼んだのかと思ったが――と、男はケラケラ笑った。その後ろに控えていた舎弟が、恐るおそる口を開く。

「お話し中に失礼します、会長。こちらのお車はどうしましょう?」

「……派手にやられたな。相手は誰だ?」

「ん? いや、何か元々調子が悪くてな。気が付いたらこうなってた」

 あっけらかんと言うと、聖は毛玉犬ポメラニアンへジッと視線を注ぐ。
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