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「――だから……個人的な普通の自由恋愛だ」
とにかく聖は、そう言い切った。
……まるで自分に言い聞かせるように。
碇はそれを聞くと、しばらくの間、無言でグラスを揺らしていた。
その内ポケットからタバコを取り出して「灰皿をくれ」とバーテンダーへ言うと、そのついでのように呟いた。
「自由恋愛なら、オレが口を出す事じゃないな」
「……」
「これでも、心配してんだぜ? お前は未だに、あちこちの野郎から言い寄られてずいぶん難儀しているって話も聞くし。真壁了なんか、そうとう心を痛めているらしいぞ」
主人を慕う忠犬そのもののように、真壁は毎日聖の事を心配している。
その事を、聖もよく分かっている。
だが、だからと言って、どうしろというのだ?
この生き方は、今更変えられない。
そういう性分で、ずっとここまで生きて来たのだから。
「――――あいつは、マジでオレに惚れているらしい」
「……だろうな」
「でもオレは、可哀想だがあいつの為に変わってやる事は出来ない。誰の為にも、もう変える事はないだろう」
しかし過去一度だけ、大きく生き方を変えた。
天黄正弘の養子に入り、組の跡目を継ぐという未来を捨てて。
まっとうなカタギとなって、ユウと未来を歩むことを選んだのだ。
しかし実際は、夢見た未来とは大きく違う道を歩んでいる。
その事を、今更後悔する気はないが。
「一夏とは……多分、そのうち別れる気がする」
「今さっき、自由恋愛って言ってなかったか?」
「そうだな。オレは……誰かを愛したいんだ」
愛されるのではなく、愛したい。
ただ一途に、心の底から。
そう言いながら、瞼を伏せ新しいグラスに口を付ける聖を横目に……碇は、どこか納得したようにフッと息をついた。
「要するにお前は、怖がりなんだな」
「なに?」
「真壁の真剣に対して本気で応えたら、居心地のいい関係が壊れてしまいそうで怖い。青菱史郎は、こっちが本気に成ればなる程、失う未来が見えるから怖い。そしてその息子の方は……まだ学生だろう? 若造のそいつが、いつか、自分以外との違う未来を夢見る可能性だって、無いワケじゃない。そんな『もしも』が頭をよぎって怖くて、どの恋にも二の足を踏んでんだな」
碇の指摘に、聖は何も答えずにただ俯いた。
――――人の心は移ろいやすい。
熱病に罹ったかのように愛し合った、あの加賀誉だって。
今はもう、聖を見てはいないだろう。
そうなるように仕向けたのは聖自身とはいえ、負った心の傷と流した涙は、本当に辛かった。
“愛されるより、愛したい”
でも、その先にある不安に満ちた未来が怖くて、聖はそこで――――どうしても竦んで止まってしまう。
まるでそれを見抜いたかのように、碇は頷いていた。
「まぁ、恋愛なんざ無理やりやるようなモンじゃないし。お前はそのままで良いんじゃないのか? オレはそういうお前も、結構好きだぜ」
「……」
碇は、すっかり口を噤んでしまった聖を見遣りながら、どうしてこの男がこんなにも人の心を引き寄せ魅了し続けるのか、その理由が分かったような気がした。
(誰かを愛したいっていう、その情熱が絶えず溢れ出てやがるから……それが、とりわけこいつを魅力的に見せているんだろうな)
それこそ、誘引の天然フェロモンだ。
この華の、芳しく狂おしい引力に逆らえる筈がない。
(惚れないワケには、いかねぇよなぁ……)
そんな事を考えていたら、どうやら碇は自分でも知らぬうちに陶然としていたらしい。
「おい!」
とにかく聖は、そう言い切った。
……まるで自分に言い聞かせるように。
碇はそれを聞くと、しばらくの間、無言でグラスを揺らしていた。
その内ポケットからタバコを取り出して「灰皿をくれ」とバーテンダーへ言うと、そのついでのように呟いた。
「自由恋愛なら、オレが口を出す事じゃないな」
「……」
「これでも、心配してんだぜ? お前は未だに、あちこちの野郎から言い寄られてずいぶん難儀しているって話も聞くし。真壁了なんか、そうとう心を痛めているらしいぞ」
主人を慕う忠犬そのもののように、真壁は毎日聖の事を心配している。
その事を、聖もよく分かっている。
だが、だからと言って、どうしろというのだ?
この生き方は、今更変えられない。
そういう性分で、ずっとここまで生きて来たのだから。
「――――あいつは、マジでオレに惚れているらしい」
「……だろうな」
「でもオレは、可哀想だがあいつの為に変わってやる事は出来ない。誰の為にも、もう変える事はないだろう」
しかし過去一度だけ、大きく生き方を変えた。
天黄正弘の養子に入り、組の跡目を継ぐという未来を捨てて。
まっとうなカタギとなって、ユウと未来を歩むことを選んだのだ。
しかし実際は、夢見た未来とは大きく違う道を歩んでいる。
その事を、今更後悔する気はないが。
「一夏とは……多分、そのうち別れる気がする」
「今さっき、自由恋愛って言ってなかったか?」
「そうだな。オレは……誰かを愛したいんだ」
愛されるのではなく、愛したい。
ただ一途に、心の底から。
そう言いながら、瞼を伏せ新しいグラスに口を付ける聖を横目に……碇は、どこか納得したようにフッと息をついた。
「要するにお前は、怖がりなんだな」
「なに?」
「真壁の真剣に対して本気で応えたら、居心地のいい関係が壊れてしまいそうで怖い。青菱史郎は、こっちが本気に成ればなる程、失う未来が見えるから怖い。そしてその息子の方は……まだ学生だろう? 若造のそいつが、いつか、自分以外との違う未来を夢見る可能性だって、無いワケじゃない。そんな『もしも』が頭をよぎって怖くて、どの恋にも二の足を踏んでんだな」
碇の指摘に、聖は何も答えずにただ俯いた。
――――人の心は移ろいやすい。
熱病に罹ったかのように愛し合った、あの加賀誉だって。
今はもう、聖を見てはいないだろう。
そうなるように仕向けたのは聖自身とはいえ、負った心の傷と流した涙は、本当に辛かった。
“愛されるより、愛したい”
でも、その先にある不安に満ちた未来が怖くて、聖はそこで――――どうしても竦んで止まってしまう。
まるでそれを見抜いたかのように、碇は頷いていた。
「まぁ、恋愛なんざ無理やりやるようなモンじゃないし。お前はそのままで良いんじゃないのか? オレはそういうお前も、結構好きだぜ」
「……」
碇は、すっかり口を噤んでしまった聖を見遣りながら、どうしてこの男がこんなにも人の心を引き寄せ魅了し続けるのか、その理由が分かったような気がした。
(誰かを愛したいっていう、その情熱が絶えず溢れ出てやがるから……それが、とりわけこいつを魅力的に見せているんだろうな)
それこそ、誘引の天然フェロモンだ。
この華の、芳しく狂おしい引力に逆らえる筈がない。
(惚れないワケには、いかねぇよなぁ……)
そんな事を考えていたら、どうやら碇は自分でも知らぬうちに陶然としていたらしい。
「おい!」
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