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しかしこのまま病院で、身体の傷が完全に癒えるまで、のんびり寝ていてはマズイ!
一夏は、とにかく猛烈に焦っていた。
せっかく、奇蹟的にあの男と繋がりを得たというのに――ここで余計な日を置いては、また何者かに割り込まれてしまう可能性が大だ。
それこそ、あの鬼のようなクソ親父とか!
「いっつ!」
電流のように駆け抜けた脇腹の痛みに歯を食い縛りながら、一夏は、病院内に設置されていた公衆電話に辿り着くと、ポケットから小銭を取り出した。
スマホは没収されているので、何とも不便だが――とにかく、仲間を呼んでここから連れ出してもらわねば!
「まてよ……それなら直接タクシーの方がいいか?」
そうだ、そっちの方が早い!
一夏はその場で踵を返し、今度は病院の出入り口へと向かう。
タクシーで乗り付ける先は……当然、御堂聖の元だ。
痛む体を庇いながら、どうにかタクシー乗り場へ辿り着こうとするが。
「坊!!」
聞き覚えのある声がホールに鳴り響き、同時に、一夏は数人の男たちと看護師に取り押さえられてしまった。
「は、離せ!」
「ダメです! まだ傷だって治ってないじゃないですか!」
「オレは、あいつから返事を貰ってない! まだ決着はついてないんだっ! それに、このままじゃあまた親父が――――だから行かせてくれ、山藤ぃ!」
「絶対にダメです!!」
山藤はそう一喝すると、手下に目配せして「坊を病室へ連れて行け」と命令した。
一夏の抗議の声が上がるが、山藤は心を鬼にしてそれを黙殺する。
(とうとう、坊まであいつの毒牙に掛かってしまったか)
突然湧き起こった、一夏の留学計画。青菱では、以前から海外も視野に手を広げるという展望はあったが、それにしても唐突だった。
今回はどうにか流れたが、その裏には、息子に愛人を寝取られた史郎の嫉妬の影がチラついている事は、こっちもとっくに察している。
この事態に、山藤は歯嚙みをする。
(坊……あなただけは、たとえお叱りを受けようとも……オレが絶対に守らせて頂きますからね)
自分には子がいない山藤にとって、幼い頃から面倒を見ている一夏は我が子同然だ。
誰よりも大切に慈しんでいる、山藤の宝だ。
その大切な宝が、青菱の首領である史郎と反目した挙句に、勘当されたとあっては大変だ。
幸いなことに、普段は仲の悪い幹部たちが、今回は一致団結してくれたから助かったが。
しかし、こんな奇蹟が続くとは思えない。
やはりここは、自分が入念に根回して、一夏を必ずや次期青菱会のトップに据えるよう尽力しなければ。
山藤はそう決意を固めると、苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちをする。
「御堂聖――とにかくあいつだけは、今後、絶対に坊の目に触れないようにしなければ」
出典は不明だが『人の恋路を邪魔する奴は犬に喰れて死ぬがいい』という都々逸がある。
犬の部分が『馬に蹴られて』や『蜂に当たって』に代わっているものがあるが、何にせよ、人の恋路に横から首を突っ込むのは無粋の極みという皮肉を込めた唄だ。
山藤の決意が、一夏にとってはただの余計なお節介だということに山藤本人が気付くのは、まだ当分先になりそうである……。
一夏は、とにかく猛烈に焦っていた。
せっかく、奇蹟的にあの男と繋がりを得たというのに――ここで余計な日を置いては、また何者かに割り込まれてしまう可能性が大だ。
それこそ、あの鬼のようなクソ親父とか!
「いっつ!」
電流のように駆け抜けた脇腹の痛みに歯を食い縛りながら、一夏は、病院内に設置されていた公衆電話に辿り着くと、ポケットから小銭を取り出した。
スマホは没収されているので、何とも不便だが――とにかく、仲間を呼んでここから連れ出してもらわねば!
「まてよ……それなら直接タクシーの方がいいか?」
そうだ、そっちの方が早い!
一夏はその場で踵を返し、今度は病院の出入り口へと向かう。
タクシーで乗り付ける先は……当然、御堂聖の元だ。
痛む体を庇いながら、どうにかタクシー乗り場へ辿り着こうとするが。
「坊!!」
聞き覚えのある声がホールに鳴り響き、同時に、一夏は数人の男たちと看護師に取り押さえられてしまった。
「は、離せ!」
「ダメです! まだ傷だって治ってないじゃないですか!」
「オレは、あいつから返事を貰ってない! まだ決着はついてないんだっ! それに、このままじゃあまた親父が――――だから行かせてくれ、山藤ぃ!」
「絶対にダメです!!」
山藤はそう一喝すると、手下に目配せして「坊を病室へ連れて行け」と命令した。
一夏の抗議の声が上がるが、山藤は心を鬼にしてそれを黙殺する。
(とうとう、坊まであいつの毒牙に掛かってしまったか)
突然湧き起こった、一夏の留学計画。青菱では、以前から海外も視野に手を広げるという展望はあったが、それにしても唐突だった。
今回はどうにか流れたが、その裏には、息子に愛人を寝取られた史郎の嫉妬の影がチラついている事は、こっちもとっくに察している。
この事態に、山藤は歯嚙みをする。
(坊……あなただけは、たとえお叱りを受けようとも……オレが絶対に守らせて頂きますからね)
自分には子がいない山藤にとって、幼い頃から面倒を見ている一夏は我が子同然だ。
誰よりも大切に慈しんでいる、山藤の宝だ。
その大切な宝が、青菱の首領である史郎と反目した挙句に、勘当されたとあっては大変だ。
幸いなことに、普段は仲の悪い幹部たちが、今回は一致団結してくれたから助かったが。
しかし、こんな奇蹟が続くとは思えない。
やはりここは、自分が入念に根回して、一夏を必ずや次期青菱会のトップに据えるよう尽力しなければ。
山藤はそう決意を固めると、苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちをする。
「御堂聖――とにかくあいつだけは、今後、絶対に坊の目に触れないようにしなければ」
出典は不明だが『人の恋路を邪魔する奴は犬に喰れて死ぬがいい』という都々逸がある。
犬の部分が『馬に蹴られて』や『蜂に当たって』に代わっているものがあるが、何にせよ、人の恋路に横から首を突っ込むのは無粋の極みという皮肉を込めた唄だ。
山藤の決意が、一夏にとってはただの余計なお節介だということに山藤本人が気付くのは、まだ当分先になりそうである……。
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