彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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「……いいだろう。確かにお前らの言う通り、いま下手に海外へ留学させたら余計な波風が立たないとも限らんしな。第一、オレの目が届かない事をいいことに、ますます羽目を外す可能性だってある。まだあいつは、ケツの青いガキだからな」

『ガキ』という単語を殊更強調すると、史郎は吊り上がった眼で、山藤へと視線を当てた。

「山藤」

「はい」

「一夏に、留学の件は無くなったと言っておけ。それから――――とりあえず今は、怪我・・が治るまでくれぐれも大人しく療養しておけとな」

「分かりました」

 二度は言わず、山藤は大人しく平伏した。

   ◇

 一夏は、脇腹を絶えず襲うズキズキとした痛みに耐え、ギプスで固定した右腕を庇いながら、リノリウムの床をそろりそろりと音を立てないように歩いていた。

 幸い、今日は目付け役が出払っているらしい。

 監視の目が緩い今が、脱出のチャンスだ。

「チクショウ! いつか見てろよ、あのクソ親父め……」

 口からは、無意識に怨嗟の声が上がる。

 文字通り、史郎によってボコボコに叩きのめされ、ようやく最近になって動けるようになった一夏である。

 しょせん、相手は五十の親父ジジイだ。

 昔は歯が立たなかったが、本気のケンカになったら、今ならば若い自分の方が有利なのではなかろうと、淡い期待を抱いていたが。

 相変わらず、あいつは鬼のように強かった。

 密かに、隠し持っていたナイフで反撃しようとしたのだが、それがまた間違いだった。

 一夏の手に握られたナイフを見た史郎は、獲物を見つけた虎のように益々殺気を漲らせ、イスを片手で振り回し、力加減も完全に放棄して暴れ回ったのだ。

 結果、豪奢な居間は散々たる有様になり、一夏は意識を失った状態で病院へ直送されることになってしまった。
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