彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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   ◇

 さてこちらは、暗雲漂う青菱邸である。

 常日頃、何だかんだと理由を付けてはこちらの命令を無視しようとする不肖の息子、一夏の処遇を巡り、史郎と一部の幹部は対立していた。

 史郎としては、これからの青菱の行く末を案じて、海外に拠点を移すことを念頭に入れ、組織の活動の幅もどんどん広くして行きたいと思っている。

 だから、青菱の看板を継ぐであろう息子の一夏に、もっと社会勉強をさせるべく、海外への留学を本気で画策していたのだが。

 だがそれを快く思わない、古い考えの重鎮たちを相手にして、会議の場にも不穏な空気が立ち込めていた。

 紫煙漂う室内には、ヒヤリとした空気も充満している。

 青菱は、先代の組長が病死して後、史郎のワンマンに近いやり方で急成長している広域指定暴力団だ。

 しかし青菱は、昔気質むかしかたぎの極道とは一線を画し、暴対法の裏をかくやり方で、見事に法律の網を合法的に潜り抜けて今に至る。

 世間一般で優良企業と評価される、普通の会社も多数傘下に収めている史郎の手腕は、今の世に合った見事なやり方であろう。

――――それなのに、と、史郎は吊り上がり気味の目を益々吊り上げ、牙を剥く虎のように声を張り上げた。

「もう一遍、言ってみろ!」

「……ですから、組長」

「会長と呼べ」

「会長。もう一度、再考するべきです。いきなり海外に留学なんて早過ぎですよ。第一、坊はまだ日本の大学も終ってないじゃないですか」

「こっちの大学は休学させる。向こうにやって、本場の語学も身につけさせたい」

 海外との取引も、間を挟まずに済むよう直接ルートを設けたい。

 それには、やはり、使える人間を育てなければ。

 そう画策する史郎の言い分は、一応筋は通っているが。

『私怨が混じってるんじゃないのか?』
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