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しおりを挟む真壁了は悶々としていた。
敬愛する上司にして、真壁が密かに恋心を寄せている麗人――――御堂聖が、何やら最近頓に艶っぽいからだ。
普段の御堂聖は、長めの髪もぴっちりと後ろに流してビシッとセットしており、皴の無いフルオーダーのスーツもピシッと決まった、クールな会社経営者風の面差しをしているが。
しかし最近、その冷たい筈の眼差しがどこか愁いを帯びており、見る側に、堪らない程の劣情を掻き立てているのだ。
これでは、どんな男でも「何か困った事でもあったのかい?」と、優しく声を掛けて……ついでに肩を抱いて口説きたくなってしまうだろう。
事実、仕事関連で外部と会談の場を設ける度に、聖の様子を垣間見た他所のお偉いさんから、続々とプライベートのお誘いが舞い込んでいるらしいのだ。
真壁は、自分の手の届く範囲に限っては、それらをすべて丁重に(断固として)慇懃無礼に断っているが。
その真壁のチェックをすり抜けて、いったい何人の男どもが聖にコンタクトを取っているのか?
それを考えると、真壁は心配で夜も眠れなくなる。
「……くそぉ! どいつもこいつも――全く抜け目のない!」
聖のマンションの場所を、興信所を使って突き止めようとしている者がいるという情報をキャッチし、それを密かに握り潰したところで、真壁はたまらず舌打ちをした。
このままでは、本当に何処かの誰かに、聖が拐されてしまいそうだ。
いや、もちろん聖自身も、キックボクシングに中国拳法とそれなりの護身術を身につけているので、女子供のようにそうそう簡単には攫われないだろうが。
だが、本気で心配になってしまう。
あそこまで、憂い顔で麗しい姿を毎日目にしては……。
「だったら、真壁さんが聖さんをデートに誘えばいいじゃないですか」
「え!?」
突然声を掛けられて、真壁は飛び上がった。
振り返るとそこには、紙袋を抱えた綺麗な青年が、不機嫌そうな顔で立っていた。
その瞬間、真壁は「あっ!」と声を上げる。
この綺麗な青年の名は畠山ユウといって、このジュピタープロダクションの看板ミュージシャンだ。
――――そして、真壁の敬愛する御堂聖の息子であった。
“予定を繰り上げて帰国するから、迎えの手配をよろしくお願いします”
事前に受けていたその連絡を、すっかり忘れていた!
真壁は青ざめて、慌ててユウに頭を下げる。
「す、すみません、ユウさん! お迎えに上がる約束でしたのに――」
「もういいよ、別に。荷物は空港から送ったし……はい、これお土産のチョコレートです。スタッフと分けてください」
ユウは嘆息しながら紙袋を手渡すと、すぐに真顔になった。
「それにしても真壁さんが、こんなポカミスをするなんて珍しいですね? そのくらい、聖さんの事で何か気になる事があったということですか?」
ユウの指摘に、真壁は再び仰天する。
「ど――どうして、その事を!?」
「だって、さっきからずっとブツブツ言ってるし。社長がどーしたとか、聖さんが危ない……とか。もしかして、自覚無かったんですか?」
ユウに言われて、初めて気づいた真壁である。
ぐったりと項垂れると、真壁は暗い表情になって白状した。
「はい。じつは――少々困った事になってまして」
「困った事?」
「そうなんです。ユウさんは知らないかもしれませんが、社長に言い寄っている害虫がここのところ無視できない程に増殖しているんです。オレはもう、気が気じゃなくて……」
「そんな、大袈裟な」
ハハッと笑って言うユウに、真壁は真顔で反論する。
「大袈裟なんかじゃありません! ここ連日、仕事に託けた国際電話が中国やアメリカから何度も掛かって来るし、果ては社長のプライベートの番号を教えろだとか恫喝するような電話も――もちろんこっちも、公明正大な理由を付けてシャットアウトしてますが。こういった事は昔からありましたが、最近は特にひどいです」
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