彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

文字の大きさ
上 下
54 / 90
10

Poisonous flower

しおりを挟む
「う――」

『淫売』というお決まりの罵倒が続かない。

 この、綺麗な天女のように美麗な男に対して使うには、その罵り文句はあまりに稚拙すぎる。

 腕の中の生き物は、神秘的なほどに妖しく芳しい美獣だ。

 人の心を喰らう淫蕩な妖魔だ。

 傾国の美女……そう囁かれている二つ名は、確かに本物だったと一夏も認めるしかない。

 魅入られてしまった男には、もう、逃れることも抗う事もできない。

 ただただ、その身体にむしゃぶりついて欲望のエキスを注ぎ込みたくなる。

 オスの、本能で!!

「くそっ!」

 小さく舌打ちをすると、一夏は腕の位置を変えて、聖を両腕に抱え上げていた。

 驚いた様子で、聖は一夏を見遣る。

「な、何を――」

「あんたには、抵抗する権利はないと言ったはずだ!」

 一夏はそう告げると、履いていたジーパンを器用に靴ごと足から抜き取りながら、コネクティングルームへ歩を進める。

 そこには、キングサイズのベッドが鎮座していた。

 この屋敷は隠れ家として、一軒丸々一夏が己のアジトとして使用している。

 いつもならば、気心の知れた仲間や女たちを連れ込んでたむろするところであるが――――。

 一夏は壁に取り付けてあるインターフォンを肩で押して作動させると、別室で待機しているであろう仲間達へと「今夜は解散だ。全員、ここから出て行け」と命じた。

 この場では、一夏が王だ。

 王の命令が下った以上、男たちは不承不承でも従うしかない。

「一夏……」

 戸惑いながら、聖は見上げる。

「お前……もしかして、オレを抱きたいのか?」

 聖の問い掛けに、一夏は「今更か」と苦笑した。

 そうして、少しだけ余裕を取り戻しながら、一夏は聖の身体をベッドの上へと横たえる。

 先の場で、聖に口を遣わせて、その顔面に思うさま顔射して屈辱感を味わわせるのも一興だったが。

 しかし、今は――――もっと真剣に、深く激しくこの男を抱きたいと思う。

 そうでなければ、御堂聖という人間が理解できないような気がする。

…………いや、それはきっと下らない建前言い訳だろう。

 多分、自分は、もっとずっと前から――――

「オレは、あんたの事が……」

 だが、その唇は塞がれた。


「頼むから……オレを愛しているなら、愛しているなんて言わないでくれ」


 それが、今の聖の願いだったから。

 恋を失ったばかりの聖の心は、本人が思っている以上にダメージを負っていた。


――――今はただ、この傷を誰かに癒して欲しい。


 痛みを伴ってもいい。

 いっときでも、失った恋を忘れさせてほしい。


 二人はそのままベッドへ倒れ込むように重なると、時を惜しむように激しく求めあった。


 一夏は純粋に欲望を滾らせるままに。
 聖は、寂しい心を埋めるように。


 互いに、この先がどうなるかなど考えもせずに、限界まで抱き合ったのだった。

   END



これにて完了です☆
番外編として、この作品とは別に分けて「後日談」などを執筆する予定なので、気になる方はチェックしてみてくださいね😄
それでは、お疲れ様でした🥂
※追伸
後日談more連載開始しました。
チェックよろしくです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...