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Poisonous flower
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有無を言わせない一夏の口調に、男たちは戸惑いつつも不承不承出て行った。
部屋の中には、聖と一夏の二人だけが残される。
じっと自分をねめつける一夏の視線を受けながら、聖は一夏の出方が分からず動揺した。
「――どうして、人払いをした?」
「……」
「オレが憎いんだろう? 殴りたいなら――」
「ああ、マジであんたが憎たらしいね」
一夏は聖の言葉を遮ると、ナイフのようにそう切り捨てる。
「どいつもこいつも、オレをケツの青いガキみたいに扱いやがる。あいつらだってオレに青菱の看板がなかったら、オレの命令なんか聞きはしないだろう」
自虐とも取れるセリフだが、あながち間違いではない。
一夏はまだニ十歳で、表向きは、青菱とは関係のないただの大学生なのだから。
その学生にして、幾つか会社を経営している訳だが、それらは全て青菱から与えられた肩書だ。
親の威光で……とは誰も口には出さないが、内心はどうだか分かったものではない。
青菱とは別に、ああいった半グレ連中を集めて組織を作り従えているが、果たしてそれも一夏個人の力量で成しているのか?
それを最も気にしているのは、他ならぬ本人だった。
「あんたには分からんだろうな。親父に反抗したくても出来ず、ただ歯を食い縛るしか方法の無いガキの気持ちなんか」
「そんな事は……」
「分かるって言うのか? この、大嘘つきが!」
一夏はそう吐き捨てると、立ち竦む聖を睨む。
そうしながら、低い声で命じた。
「脱げよ」
「っ!?」
「あんたのどこに、あの悪魔みたいな親父を捕らえ続けるだけの魅力があるのか――この目で見たい」
以前、薄暗い室内で、史郎の前に跪いて舌を遣っている姿を垣間見た。
ピチャピチャと濡れるような水音と、快感に呻く史郎の低い声。
そして、甘い毒のように漏れ聞こえる、この男の声。
あの瞬間を思い出すだけで、一夏の若い雄は激しく反応してしまう。それを宥める為にいくら女を抱いても、中々収まらずに苦心している状態だ。
薄暗い灯りに照らし出される、史郎と聖――――その光景が脳裏にフラッシュバックする度、熱病に罹ったようになり、一夏は夜も眠れず度々うなされていた。
「山藤から聞いた話だが……あんた、オレの死んだ爺さんともヤッたってのは本当なのか?」
「山藤?」
「昔から青菱にいる、オレの守り役だ」
『坊、あの男に憑り込まれないように気を付けてください』
守り役の山藤は、幼い頃からやんちゃだった一夏に根気よく仕えている男だ。一夏の面倒を見ながら、山藤は嗜めるように、よく繰り返していた。
『あの人は魔物です。くれぐれも、先代の組長や現組長のようになってはいけません』
未だ、手のかかる子供を躾けるように諭す山藤に、一夏のイライラは溜まっている。
「相変わらずあいつは、オレのことをガキのように扱いやがる。だが、そうまで忠告しているあんたの事を、オレはほとんど知らないんだ」
畠山ユウが、この男の実子だというのは分かっているが――当の本人の事は、よく解っていない。
何故、多くの男たちがこの男に惹きつけられるのか?
どうして、破滅する程にのめり込み、狂ってしまうのか?
それもこれも、自分が直接対面して、謎を解明しなければならない気がした。
「あんたは、とっくに四十を超えた、ちょっとばかり綺麗なだけの中年のハズだろう? それなのにどうして、親父は未だにあんたに入れ込んでんだ?」
そう訊かれても、聖も戸惑うだけだ。
だから、正直な感想を口にする。
「――――野郎の考えてる事なんざ、オレにも分かんねぇよ。どいつもこいつも、昔からやたらとねちっこい目で見やがる。こっちはそれを逆手に取って、商売させてもらってるだけさ」
「オレの……青菱の、先代の組長は?」
部屋の中には、聖と一夏の二人だけが残される。
じっと自分をねめつける一夏の視線を受けながら、聖は一夏の出方が分からず動揺した。
「――どうして、人払いをした?」
「……」
「オレが憎いんだろう? 殴りたいなら――」
「ああ、マジであんたが憎たらしいね」
一夏は聖の言葉を遮ると、ナイフのようにそう切り捨てる。
「どいつもこいつも、オレをケツの青いガキみたいに扱いやがる。あいつらだってオレに青菱の看板がなかったら、オレの命令なんか聞きはしないだろう」
自虐とも取れるセリフだが、あながち間違いではない。
一夏はまだニ十歳で、表向きは、青菱とは関係のないただの大学生なのだから。
その学生にして、幾つか会社を経営している訳だが、それらは全て青菱から与えられた肩書だ。
親の威光で……とは誰も口には出さないが、内心はどうだか分かったものではない。
青菱とは別に、ああいった半グレ連中を集めて組織を作り従えているが、果たしてそれも一夏個人の力量で成しているのか?
それを最も気にしているのは、他ならぬ本人だった。
「あんたには分からんだろうな。親父に反抗したくても出来ず、ただ歯を食い縛るしか方法の無いガキの気持ちなんか」
「そんな事は……」
「分かるって言うのか? この、大嘘つきが!」
一夏はそう吐き捨てると、立ち竦む聖を睨む。
そうしながら、低い声で命じた。
「脱げよ」
「っ!?」
「あんたのどこに、あの悪魔みたいな親父を捕らえ続けるだけの魅力があるのか――この目で見たい」
以前、薄暗い室内で、史郎の前に跪いて舌を遣っている姿を垣間見た。
ピチャピチャと濡れるような水音と、快感に呻く史郎の低い声。
そして、甘い毒のように漏れ聞こえる、この男の声。
あの瞬間を思い出すだけで、一夏の若い雄は激しく反応してしまう。それを宥める為にいくら女を抱いても、中々収まらずに苦心している状態だ。
薄暗い灯りに照らし出される、史郎と聖――――その光景が脳裏にフラッシュバックする度、熱病に罹ったようになり、一夏は夜も眠れず度々うなされていた。
「山藤から聞いた話だが……あんた、オレの死んだ爺さんともヤッたってのは本当なのか?」
「山藤?」
「昔から青菱にいる、オレの守り役だ」
『坊、あの男に憑り込まれないように気を付けてください』
守り役の山藤は、幼い頃からやんちゃだった一夏に根気よく仕えている男だ。一夏の面倒を見ながら、山藤は嗜めるように、よく繰り返していた。
『あの人は魔物です。くれぐれも、先代の組長や現組長のようになってはいけません』
未だ、手のかかる子供を躾けるように諭す山藤に、一夏のイライラは溜まっている。
「相変わらずあいつは、オレのことをガキのように扱いやがる。だが、そうまで忠告しているあんたの事を、オレはほとんど知らないんだ」
畠山ユウが、この男の実子だというのは分かっているが――当の本人の事は、よく解っていない。
何故、多くの男たちがこの男に惹きつけられるのか?
どうして、破滅する程にのめり込み、狂ってしまうのか?
それもこれも、自分が直接対面して、謎を解明しなければならない気がした。
「あんたは、とっくに四十を超えた、ちょっとばかり綺麗なだけの中年のハズだろう? それなのにどうして、親父は未だにあんたに入れ込んでんだ?」
そう訊かれても、聖も戸惑うだけだ。
だから、正直な感想を口にする。
「――――野郎の考えてる事なんざ、オレにも分かんねぇよ。どいつもこいつも、昔からやたらとねちっこい目で見やがる。こっちはそれを逆手に取って、商売させてもらってるだけさ」
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