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Poisonous flower
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聖には、反論するだけの材料がない。
それだけに、いつもは切れ味のある抗弁も何もかもを封じられてしまう。
誉を諦める為に、史郎を利用したのは本当の事だ。
聖の本心を汲んで、身勝手なワガママに付き合ってくれるような男は……あの場ですぐに呼べたのは、史郎しかいなかったから……。
だから、もう会わないと決別を告げたはずのその口で「今すぐ来い」と言ったのだ。
故に、息子である一夏には頭を下げるしかない。
「……悪かった。お前たち家族の事まで考えていなかった」
そう、小さな声で詫びると、一夏はいっそう目に力を込めて睨んできた。
「あんたの言うことは、信用できない」
一夏の冷たい声に、さていよいよボスの命令が下されるのかと、周囲に立つ若者たちにサッと緊張が走った。
「ボス、やっちまいますか?」
「よくもさっきは蹴り入れてくれやがって……! 倍にして返してやるっ」
鼻息荒くいきり立つ男たちであったが、中の一人が放った言葉で雰囲気が一変した。
「――あのっ! オレらでこいつ輪姦してもいいんですよね!?」
その一声に、緊張とは違う熱が一気に湧き立つ。
聖にとってはお馴染みの、欲望にギラギラとした眼が周囲をぐるりと取り巻いた。
「へへ、オッサンのクセに妙に綺麗な顔しやがって――覚悟しろよ」
涎を垂らして近付く男達に、聖は柳眉をひそめる。
(参ったな……。結局こうなるか)
一夏を除くと、10畳ほどの部屋の中には五人の男たちがいた。
聖の蹴りで、男たちを床に沈める事は出来るかもしれないが……。
(だが、中には武道の心得があるものが混じっているようだ。床にキスするのは、オレの方になるかもしれないな)
簡単には負けるつもりはないが、全員叩きのめすのは難しそうだ。
(これも全部、身から出た錆か)
フッと、聖は苦笑してしまった。
それに気付き、一夏は唸るような声を上げる。
「何を笑っている?」
「いや……ハハ、つくづくバカなマネばかりしたもんだなってさ」
こうなってはもう、笑うしかない。
因果応報とは、まさにこの事を言うのだろうと思うと、自分で自分に嫌気が差して仕方がない気分だ。
なんてクズなんだろうと、我ながら思う。
聖は、頬を歪めて失笑しながら、イスに座ったままの一夏を見下ろした。
「――オレが憎いんなら、好きなだけ殴れ。抵抗はしない」
「はぁ!?」
「それで気が済まないなら、殺せばいいさ」
もう、充分に財は築いた。
ユウが余程の無茶をしなければ、一生満足な暮らしを送る事は可能な筈だ。
聖亡き後は、真壁も親身になってユウのサポートをしてくれるだろう。
それに第一、ユウには頼りになる恋人も――――傍に居てくれる。
(そうだな。オレはもう、とっくにユウに必要とはされちゃあいない)
苦くその事を思いながら、諦めたように聖は笑った。
「お前たち母子には、長年迷惑を掛けた。史郎がああなったのは、オレにも責任がない訳じゃない。オレが、もっと早い段階で誰かを本気になって追いかけていれば……史郎だって、オレには隙がないんだと悟って諦めたかもしれないのに」
でも、聖には本当の意味での『恋人』はいなかった。
だから余計に、史郎はそこに自分が入り込もうと足掻いたのだろう。
何年も、何年も……。
しんみりと黙り込む聖と一夏であったが、空気を読まない一部の連中が、これ見よがしにがなり立てた。
「おい、ボスの前でなに気取ってんだ! お喋りなんかしているヒマなんかねーぞ! へへっ、おい! 外の連中も呼んで来いよ!!」
その声に、調子に乗った他の男達も前のめりに身を乗り出そうとするが――――
「お前達、全員外に出てろ」
予想外の一夏の命令が下され、皆が一瞬固まる。
「ぼ、ボス? でも、こいつにヤキを入れ――」
「外に、出てろ」
それだけに、いつもは切れ味のある抗弁も何もかもを封じられてしまう。
誉を諦める為に、史郎を利用したのは本当の事だ。
聖の本心を汲んで、身勝手なワガママに付き合ってくれるような男は……あの場ですぐに呼べたのは、史郎しかいなかったから……。
だから、もう会わないと決別を告げたはずのその口で「今すぐ来い」と言ったのだ。
故に、息子である一夏には頭を下げるしかない。
「……悪かった。お前たち家族の事まで考えていなかった」
そう、小さな声で詫びると、一夏はいっそう目に力を込めて睨んできた。
「あんたの言うことは、信用できない」
一夏の冷たい声に、さていよいよボスの命令が下されるのかと、周囲に立つ若者たちにサッと緊張が走った。
「ボス、やっちまいますか?」
「よくもさっきは蹴り入れてくれやがって……! 倍にして返してやるっ」
鼻息荒くいきり立つ男たちであったが、中の一人が放った言葉で雰囲気が一変した。
「――あのっ! オレらでこいつ輪姦してもいいんですよね!?」
その一声に、緊張とは違う熱が一気に湧き立つ。
聖にとってはお馴染みの、欲望にギラギラとした眼が周囲をぐるりと取り巻いた。
「へへ、オッサンのクセに妙に綺麗な顔しやがって――覚悟しろよ」
涎を垂らして近付く男達に、聖は柳眉をひそめる。
(参ったな……。結局こうなるか)
一夏を除くと、10畳ほどの部屋の中には五人の男たちがいた。
聖の蹴りで、男たちを床に沈める事は出来るかもしれないが……。
(だが、中には武道の心得があるものが混じっているようだ。床にキスするのは、オレの方になるかもしれないな)
簡単には負けるつもりはないが、全員叩きのめすのは難しそうだ。
(これも全部、身から出た錆か)
フッと、聖は苦笑してしまった。
それに気付き、一夏は唸るような声を上げる。
「何を笑っている?」
「いや……ハハ、つくづくバカなマネばかりしたもんだなってさ」
こうなってはもう、笑うしかない。
因果応報とは、まさにこの事を言うのだろうと思うと、自分で自分に嫌気が差して仕方がない気分だ。
なんてクズなんだろうと、我ながら思う。
聖は、頬を歪めて失笑しながら、イスに座ったままの一夏を見下ろした。
「――オレが憎いんなら、好きなだけ殴れ。抵抗はしない」
「はぁ!?」
「それで気が済まないなら、殺せばいいさ」
もう、充分に財は築いた。
ユウが余程の無茶をしなければ、一生満足な暮らしを送る事は可能な筈だ。
聖亡き後は、真壁も親身になってユウのサポートをしてくれるだろう。
それに第一、ユウには頼りになる恋人も――――傍に居てくれる。
(そうだな。オレはもう、とっくにユウに必要とはされちゃあいない)
苦くその事を思いながら、諦めたように聖は笑った。
「お前たち母子には、長年迷惑を掛けた。史郎がああなったのは、オレにも責任がない訳じゃない。オレが、もっと早い段階で誰かを本気になって追いかけていれば……史郎だって、オレには隙がないんだと悟って諦めたかもしれないのに」
でも、聖には本当の意味での『恋人』はいなかった。
だから余計に、史郎はそこに自分が入り込もうと足掻いたのだろう。
何年も、何年も……。
しんみりと黙り込む聖と一夏であったが、空気を読まない一部の連中が、これ見よがしにがなり立てた。
「おい、ボスの前でなに気取ってんだ! お喋りなんかしているヒマなんかねーぞ! へへっ、おい! 外の連中も呼んで来いよ!!」
その声に、調子に乗った他の男達も前のめりに身を乗り出そうとするが――――
「お前達、全員外に出てろ」
予想外の一夏の命令が下され、皆が一瞬固まる。
「ぼ、ボス? でも、こいつにヤキを入れ――」
「外に、出てろ」
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