彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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Good-bye, days dear

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 その勢いのまま、聖の身体はベッドへ押し付けられる。

 仕立ての良いスーツのボタンが弾け飛び、裂かれたシャツも床に放り投げられた。

「くそっ! 私をコケにして……絶対に許さんからな!」

 興奮に顔を真っ赤にして、子豪も自分の服を大急ぎで脱ぎ捨てる。

 聖はベッドへ身を横たえたまま、嫣然と微笑んでその様子を眺める。

 そうしながらベルトを緩めて尻を浮かし、履いていたスラックスと下着を床へ抛った。

 だが、内心では溜め息をついていた。

(やれやれ、どうやらこいつは猪突猛進タイプのようだな)

 典型的な大少爷お坊ちゃんだ。

 幼き頃から白家の御曹司だと下にも置かぬ持て成しを甘受し、常に周りに持ち上げられて来たのだろう。

 きっと、ロクなテクもないだろうに、やたらと自信家風なのはその所為に違いない。

 男同士の性交で快感を得るには、簡単に言えば出しさえ射精すれば事足りるのが。

「うっ――」

 聖の、低い呻き声が漏れる。

 子豪が、遠慮もなく聖の後孔へ指を捩じり込んできたからだ。

「お前のような好き物は、尻に突っ込まれるのがいいんだろう? 望み通り、この私が天国へ連れて行ってやる。覚悟しろ!」

(っざけんじゃねーよ、このボンクラが!)

 聖はそのセリフを呑み込みながら、子豪の稚拙な指の動きを制止させるため、その手首を掴む。

「子豪、まずはオレにやらせてくれ」

「?」

 勢いを止められ訝しむ子豪であったが、聖は相手の返事を待たずに、返す手で素早く子豪の下肢へと指先を這わせると、その雄芯をキュッと握った。

 突然急所を掴まれ、子豪は息を止める。

「な、何をするっ」

「こうすんのさ」

 魔力を宿したかのような碧瑠璃の瞳を細めて冷笑すると、聖はそれに唇を寄せた。

“ヂュッ”

「っ!!」

 先端に強く吸い付かれたその刺激だけで、子豪は耐え切れずに暴発してしまった。

 放たれた白濁は聖の頬にかかり、とろりと顎先まで滴る。

「……我慢の利かないお坊ちゃんだな」

「う、うるさい! お前が急に、私の――」

「ずいぶん濃いな。もしかして、ご無沙汰だったのかい?」

 ペロリと舌を出して、たった今放出されたばかりの白濁を舐める。

 艶のある緋色の唇が、とてつもなくエロティックな笑みに歪んだ。

「じゃあ一つ賭けをしようじゃないか、子豪ズーハオ。このあと30分、オレの口でイクのを耐え抜いたらご褒美をやるよ。逆にあんたが降参したら、オレのジュピタープロ提示する要求を呑んでもらいたい」

「なんだと!?」

 今すぐにでも聖の中へ突入したい子豪は、つい本音を口にする。

「そんなのはダメだ、絶対許さん! 私はっ」

「『私はお前のあるじだ』とでも?……言っておくが、オレはあんたに買われた男娼というワケじゃない。ビジネスの話をするつもりで、ここを訪ねただけだ」

「――」

「だから、オレがしたいのは肛交ガンジャオ(※アナルセックス)じゃなくて、ビジネスの話なのさ」

 聖はフフっと微笑み、手の中でビクビクと震える雄へと甘い息を噴き掛ける。

「もちろん、あんたには拒否権はあるんだぜ? 嫌だっていうなら、オレはこのまま帰るだけだ。……シャツは破けるしスーツのボタンは飛んでるしで、まるで犯されたような有様になっちまったが――ま、それは特別に目を瞑ってやるよ」

「それは……」

「どうだい? やるのか、やらないのか?」

 先端の鈴口を紅い舌先でグッと刺激してやると、子豪は呻き声を上げる。

「うぅ――――ご、ご褒美とは何だ?」

「あんたの、日本での马子マーズ(※愛人)になってやるよ」

 聖独りと、白山グループの推し進めようとするグローバル・エンターテインメント部門。

 これを秤にかけるには分不相応だと普通ならば考える。

 身の程を知れと、常人相手ならば子豪も嘲笑うだろう。

 だが、この傾国の美女御堂聖を前にして、そんな考えを抱く者など今まで誰一人としていなかった。

 それは、子豪も同じであったらしい。

 聖に、完全にがんじがらめに囚われた事を徐々に自覚しながら、本当に悔しそうに……だが、陶然とした顔で眼前の相手を見遣る。

 金であがなえるならば、幾らでも積み上げよう。

 自分だけに微笑んでくれるのならば、どんな無茶な事でも叶えて見せよう。

 そう思わずにはいられない魔物のような魅力が、目の前の男からは発せられていた。

「くそっ……。いい気になるなよ、日本鬼子のクセに……」

 子豪は唸るように吐き捨てると、ゴクリと大きく喉を上下させた。

「……いいだろう。お前の賭けに乗ってやる」

 子豪の同意を聞き、聖は花が咲いたように微笑んだ。

――――それは、猛毒の紅い華だったが。

 だがそれを知ったところで、もう子豪には逃れる事は出来ない。



「ありがとう、子豪」

 聖は、ニッコリ笑って礼を言った。

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