44 / 90
9
Good-bye, days dear
しおりを挟む
『傾国の美女』
それはまさに、聖の事を指し示すような徒花の名であった。
この華麗な花に囚われた者は、実に数多い。
そしてここに、白子豪という新たな犠牲者が誕生しようとしていた。
子豪は、未だ聖に囚われた自覚も無いまま、己の優位を信じているのだろう。
着衣のままキングサイズのベッドに座ってふんぞり返り、依然として立ったままの聖を、横柄な態度で睥睨する。
「――ミドー・ヒジリと言ったか? 日本鬼子の分際で、お前はこの私に媚びを売って甘い汁を吸いたいのだろう? だったら、それなりの態度を取るんだな」
(※日本鬼子=日本人に対する蔑称)
絶対的な権力と、はち切れんばかりの若さと自信に支えられ、子豪は、聖に向かって更に嘲笑の言葉を投げ掛けようとした。
だがそれは、強制的に終了させられる。
聖がそれまで履いていた靴をパッと抜き捨てたかと思ったら、その足のまま、ふんぞり返っていた子豪の股間をギュッと踏んだからだ。
「っ!」
「オレが、何だって?」
「何をする! わ、私は白家の正当なる血族である、子豪――」
「お坊ちゃん、お喋りがしたいのか?」
聖は子豪の長話をフンと鼻で笑い飛ばし、足の指を巧みに動かす。
自在に蠢く指と絶妙な圧迫感に、たちまち子豪の股間は膨れ上がった。
「やややや、やめろっ!」
子豪は慌てふためき、ベッドから飛び降りようとする。
だが、聖はその動きを牽制するように、自身の膝を子豪の足の間へトンと置いたかと思ったら、次にグッと上体を屈めた。
こうなると、当然相手は身動きが取れない。
子豪の上に覆いかぶさるような姿勢になると、その超至近距離で、聖は微笑みを浮かべた。
「お前は、オレが欲しいんだろう?」
「うっ……な、生意気な……」
聖の指摘に、子豪はあからさまに動揺したように言い淀む。
「私は、お前のような――に、日本人なんかとは――」
「違うっていうなら、オレはこのまま帰るだけだ」
聖はあっさり言うと、子豪に覆いかぶさるようにしていた上体を浮かして身を翻そうとした。
子豪は咄嗟に、その腕を掴む。
「まて!」
「……何か、まだ用があるとでも?」
背中越しに振り返り、二ッと笑う。
蠱惑に満ちた婀娜なその笑みは、まさに人心を惑わす毒の華。
既に囚われていた子豪には、もう逃れるすべはない。
「わ、私に――お前は要求したい事があるんだろう? 私なら、大抵のことは叶えられるぞ。言いたい事があるなら聞いてやるから、口に出してみろ」
あくまで、まだ自分が優位だと言いたい様子だ。
聖はふと視線を外すと、掴まれていた腕に、片方の手を這わる。
「子豪、痛いんだが」
「っ! す、すまないっ」
慌てて手を離した子豪に向かい、逆に聖は手を差し伸べた。
「なぁ、子豪」
「う……」
「――あんたの方が、オレに傅いて願う事があるんじゃないのかい?」
「なっ!」
「『我需要你』だろ?」
両腕を子豪の背中へ回し、その耳元で囁く。
子豪はわなわなと震えていたが、それは怒りの為ではない。
抑えきれない興奮に息を荒くしながら、欲望の炎に瞳を燃やして、口を開く。
「この――贱人が!」
そう吐き捨てるように言うと、子豪は聖の纏っていた着衣を引き裂いた。
それはまさに、聖の事を指し示すような徒花の名であった。
この華麗な花に囚われた者は、実に数多い。
そしてここに、白子豪という新たな犠牲者が誕生しようとしていた。
子豪は、未だ聖に囚われた自覚も無いまま、己の優位を信じているのだろう。
着衣のままキングサイズのベッドに座ってふんぞり返り、依然として立ったままの聖を、横柄な態度で睥睨する。
「――ミドー・ヒジリと言ったか? 日本鬼子の分際で、お前はこの私に媚びを売って甘い汁を吸いたいのだろう? だったら、それなりの態度を取るんだな」
(※日本鬼子=日本人に対する蔑称)
絶対的な権力と、はち切れんばかりの若さと自信に支えられ、子豪は、聖に向かって更に嘲笑の言葉を投げ掛けようとした。
だがそれは、強制的に終了させられる。
聖がそれまで履いていた靴をパッと抜き捨てたかと思ったら、その足のまま、ふんぞり返っていた子豪の股間をギュッと踏んだからだ。
「っ!」
「オレが、何だって?」
「何をする! わ、私は白家の正当なる血族である、子豪――」
「お坊ちゃん、お喋りがしたいのか?」
聖は子豪の長話をフンと鼻で笑い飛ばし、足の指を巧みに動かす。
自在に蠢く指と絶妙な圧迫感に、たちまち子豪の股間は膨れ上がった。
「やややや、やめろっ!」
子豪は慌てふためき、ベッドから飛び降りようとする。
だが、聖はその動きを牽制するように、自身の膝を子豪の足の間へトンと置いたかと思ったら、次にグッと上体を屈めた。
こうなると、当然相手は身動きが取れない。
子豪の上に覆いかぶさるような姿勢になると、その超至近距離で、聖は微笑みを浮かべた。
「お前は、オレが欲しいんだろう?」
「うっ……な、生意気な……」
聖の指摘に、子豪はあからさまに動揺したように言い淀む。
「私は、お前のような――に、日本人なんかとは――」
「違うっていうなら、オレはこのまま帰るだけだ」
聖はあっさり言うと、子豪に覆いかぶさるようにしていた上体を浮かして身を翻そうとした。
子豪は咄嗟に、その腕を掴む。
「まて!」
「……何か、まだ用があるとでも?」
背中越しに振り返り、二ッと笑う。
蠱惑に満ちた婀娜なその笑みは、まさに人心を惑わす毒の華。
既に囚われていた子豪には、もう逃れるすべはない。
「わ、私に――お前は要求したい事があるんだろう? 私なら、大抵のことは叶えられるぞ。言いたい事があるなら聞いてやるから、口に出してみろ」
あくまで、まだ自分が優位だと言いたい様子だ。
聖はふと視線を外すと、掴まれていた腕に、片方の手を這わる。
「子豪、痛いんだが」
「っ! す、すまないっ」
慌てて手を離した子豪に向かい、逆に聖は手を差し伸べた。
「なぁ、子豪」
「う……」
「――あんたの方が、オレに傅いて願う事があるんじゃないのかい?」
「なっ!」
「『我需要你』だろ?」
両腕を子豪の背中へ回し、その耳元で囁く。
子豪はわなわなと震えていたが、それは怒りの為ではない。
抑えきれない興奮に息を荒くしながら、欲望の炎に瞳を燃やして、口を開く。
「この――贱人が!」
そう吐き捨てるように言うと、子豪は聖の纏っていた着衣を引き裂いた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
ワルモノ
亜衣藍
BL
西暦1988年、昭和の最後の年となる63年、15歳の少年は一人東京へ降り立った……!
後に『傾国の美女』と讃えられるようになる美貌の青年、御堂聖の物語です。
今作は、15歳の聖少年が、極道の世界へ飛び込む切っ掛けとなる話です。
舞台は昭和末期!
時事ネタも交えた意欲作となっております。
ありきたりなBLでは物足りないという方は、是非お立ち寄りください。
ナラズモノ
亜衣藍
BL
愛されるより、愛したい……そんな男の物語。
(※過激表現アリとなっております。苦手な方はご注意ください)
芸能界事務所の社長にして、ヤクザの愛人のような生活を送る聖。
そんな彼には、密かな夢があった――――。
【ワルモノ】から十年。27歳の青年となった御堂聖の物語です。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
零れる
午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー
あらすじ
十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。
オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。
★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
★オメガバースです。
★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる