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Good-bye, days dear
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聖の声に惹かれるように、子豪は視線を重ねてきた。
圧倒的有利の立場を意識していたであろう子豪は、当初、徹頭徹尾御堂聖は歯牙にもかけないつもりだった。
だが、この蠱惑に満ちた艶やかな華を前にして、そんな意思は蜻蛉よりも頼りない存在に成り果てる。
不思議な色に輝く碧瑠璃の瞳。
肌理の細かい乳白色の肌。
紅に濡れる唇。
全てが、誰よりも魅力的だ。
心から、純粋に、聖がとても美しいと感じる。
(バカな! こいつはただの、日本人の男だぞ? それなのに――)
抗う事の出来ない強烈な引力を感じて、思わず子豪は一歩後退りする。
そんな子豪に微笑みを浮かべながら、聖は少し困ったように眉根を寄せた。
「おや、どうしました? 」
「い、いや――」
子豪は動揺したような様子のまま、震える手を空中で彷徨わせる。
そうして無意識に、ダグラスの隣で差し出されていた、白魚のような綺麗な手を握ろうと両手を差し出した。
――――だが。
「おっと。子豪大少爷には、私のような者では釣り合いませんか」
そう言うと、聖はその手を引っ込めてしまった。
せっかく、その綺麗な手に触れるチャンスだったのに、わずかの時間躊躇ったせいで機会を逸してしまった。
その事を知った子豪は、カッと頬に血を登らせた。
「わ、私はっ!」
「何でしょうか、大少爷?」
「大少爷ではない!」
顔を赤くして断言すると、聖はコロコロと鈴を転がすように笑った。
それはまるで、子供を揶揄う女服务员のようであった。
今まで、面と向かって、ここまで露骨にコケにされた事は無かった子豪だ。
わなわなと震える主人の様子に、周囲にいた男達は気を利かせようとしてか、聖に向かって「下がれ、この無礼者」と、部屋から追い出すべく行動を起こそうとした。
だが、それを制止したのもまた子豪だった。
「待てっ」
「し、しかし……」
「――――お前達、席を外せ」
主人に下された突然の命令に、男達は動揺したように互いの目を彷徨わせる。
それは、ここに聖を連れてきたダグラスも同様だった。
「ミスター・バイズーハオ。我々は……」
一歩踏み出そうとしたダグラスの前に、聖はサッと手を上げた。
「あなたの仕事はここまでだ」
「ミドー?」
「あとは、オレが直接子豪と交渉する」
「しかしっ」
「……今までありがとう、ダグ」
綺麗な微笑みを浮かべた聖を眩しそうに見つめながら、ダグラスは何かを諦めたように溜め息をついた。
◇
御堂聖に付けられた仇名の一つである『傾国の美女』は、それこそ中国がルーツだ。
一顧傾人城再顧傾人國(一顧すれば人の城を傾け再顧すれば人の国を傾く)
この逸話を持って語られる、伝説の美女は中国の歴史上複数人いる。
聖が例えられた人物は、褒娰という名の、周(西周)の幽王の后だった。
笑わない美女が浮かべた唯一の笑み。
それに魅せられた幽王がやがて迷走し、国を滅ぼしてしまったという逸話だ。
――――美しい彼の、艶やかな華のような微笑みに魅せられた男は、やがて自分だけに笑い掛けてもらいたいと願い、欲望を滾らせるようになる。
そうして、何とかして彼の歓心を得ようと、その手足になる事も厭わずに奉仕するようになっていく。
圧倒的有利の立場を意識していたであろう子豪は、当初、徹頭徹尾御堂聖は歯牙にもかけないつもりだった。
だが、この蠱惑に満ちた艶やかな華を前にして、そんな意思は蜻蛉よりも頼りない存在に成り果てる。
不思議な色に輝く碧瑠璃の瞳。
肌理の細かい乳白色の肌。
紅に濡れる唇。
全てが、誰よりも魅力的だ。
心から、純粋に、聖がとても美しいと感じる。
(バカな! こいつはただの、日本人の男だぞ? それなのに――)
抗う事の出来ない強烈な引力を感じて、思わず子豪は一歩後退りする。
そんな子豪に微笑みを浮かべながら、聖は少し困ったように眉根を寄せた。
「おや、どうしました? 」
「い、いや――」
子豪は動揺したような様子のまま、震える手を空中で彷徨わせる。
そうして無意識に、ダグラスの隣で差し出されていた、白魚のような綺麗な手を握ろうと両手を差し出した。
――――だが。
「おっと。子豪大少爷には、私のような者では釣り合いませんか」
そう言うと、聖はその手を引っ込めてしまった。
せっかく、その綺麗な手に触れるチャンスだったのに、わずかの時間躊躇ったせいで機会を逸してしまった。
その事を知った子豪は、カッと頬に血を登らせた。
「わ、私はっ!」
「何でしょうか、大少爷?」
「大少爷ではない!」
顔を赤くして断言すると、聖はコロコロと鈴を転がすように笑った。
それはまるで、子供を揶揄う女服务员のようであった。
今まで、面と向かって、ここまで露骨にコケにされた事は無かった子豪だ。
わなわなと震える主人の様子に、周囲にいた男達は気を利かせようとしてか、聖に向かって「下がれ、この無礼者」と、部屋から追い出すべく行動を起こそうとした。
だが、それを制止したのもまた子豪だった。
「待てっ」
「し、しかし……」
「――――お前達、席を外せ」
主人に下された突然の命令に、男達は動揺したように互いの目を彷徨わせる。
それは、ここに聖を連れてきたダグラスも同様だった。
「ミスター・バイズーハオ。我々は……」
一歩踏み出そうとしたダグラスの前に、聖はサッと手を上げた。
「あなたの仕事はここまでだ」
「ミドー?」
「あとは、オレが直接子豪と交渉する」
「しかしっ」
「……今までありがとう、ダグ」
綺麗な微笑みを浮かべた聖を眩しそうに見つめながら、ダグラスは何かを諦めたように溜め息をついた。
◇
御堂聖に付けられた仇名の一つである『傾国の美女』は、それこそ中国がルーツだ。
一顧傾人城再顧傾人國(一顧すれば人の城を傾け再顧すれば人の国を傾く)
この逸話を持って語られる、伝説の美女は中国の歴史上複数人いる。
聖が例えられた人物は、褒娰という名の、周(西周)の幽王の后だった。
笑わない美女が浮かべた唯一の笑み。
それに魅せられた幽王がやがて迷走し、国を滅ぼしてしまったという逸話だ。
――――美しい彼の、艶やかな華のような微笑みに魅せられた男は、やがて自分だけに笑い掛けてもらいたいと願い、欲望を滾らせるようになる。
そうして、何とかして彼の歓心を得ようと、その手足になる事も厭わずに奉仕するようになっていく。
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