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Dark clouds
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「……オレが係わるような大きな仕事はしばらくないようだし、三日ほど休暇を取って構わないだろうか?」
聖が自分から休暇を申し出るなど珍しい事だ。
やはり体調が悪いのだろうかと真壁は不安に思いながらも、しかしこちらから何度もそれを促している手前「調整します」と即答した。
◇
「いらっしゃいませ」
カラランと鳴ったドアベルに、マスターは顔を上げた。
「今日は早いですね? 」
「――そうかい? 社長なんて、案外ヒマなんだよ」
フフっと笑い、聖はブリザードを頼む。
そうしてストールに腰かけながら、そっと店内を見渡した。
「……あいつは?」
「ああ、加賀ですか。今日は舞台稽古があるから二時間遅れると連絡がありました。あと、映画の最終オーディションの方もセリフと演技が入るから、そっちも全力で頑張ると張り切ってましたよ」
「そうか――」
言葉の通りに、瞳をキラキラさせて稽古に励む誉の様子を想像して、聖は小さく微笑んだ。美しい彼が笑うと、なお一層場が華やかになる。
マスターは嬉しそうに目を細めながら、シェイカーを振った。
「どうぞ」
「ありがとう」
柑橘系のサッパリとした香りを楽しみながら、ゆっくりと口を付ける。
そんな聖に、マスターは微笑みながら「なにかお出ししましょうか」と話しかけた。
「あいつの影響で、ウチの冷蔵庫も食材が増えたんですよ。ははは、おかげで炒飯のレシピも伝授されてしまいました」
バーの裏メニューが炒飯ね。
思わず吹き出しかけた聖であったが――――カラランと鳴ったドアベルに、その表情はサッと強張った。
「いらっしゃいませ……」
笑顔で声を掛けようとしたマスターも、その男を見た途端に顔が強張る。
入店してきた男は、一見しただけで只者ではないと分かる雰囲気を纏っていた。
そして、男の後ろについて続けて入店した男二人も、小綺麗なスーツを着てはいるが普通ではないと直ぐに分かる。
「カミカゼ」
「わ、分かりました」
マスターは気掛かりそうに、仁王立ちのまま出入り口に陣取った男二人にチラチラと視線を向ける。すると、カミカゼを注文した男は二ッと笑った。
「あいつらは運転手だから、酒はダメなんだ」
「そ、そうですか――」
引き攣った愛想笑いをしながら氷を砕くマスターを見遣り、聖は溜まり兼ねたように声を上げた。
「史郎、どうしてここに……」
「なに、お前が最近若いツバメと遊んでいるって耳に入ったからな」
「――――監視でもつけているのか?」
「ハハ、まぁ、そんなトコロだ」
口元には笑みを浮かべているが、その眼は全く笑っていない。
獰猛な虎そのままの瞳で、聖をジッと見つめる。
「オレは心の広い男だ」
「……」
――――『どこがだよ』と言いたいが、あえて無視をする。
ツンとしたままブリザードに口を付ける聖に、史郎は世間話をするように語り掛けた。
「お前が商売絡みで誰と寝ようと、いちいち口は出さないさ。ここのところ毛唐ばっかり相手にしたようだが、それだってただの仕事だったんだろう?」
「……」
「社長業も接待で大変だな。だが、おかげでこの不況下でも、ジュピタープロダクションは業績も右肩上がりだ。努力の賜物ってヤツか?」
「……だったら、何だってんだ」
キッと睨み、聖はカウンターにグラスを置く。
聖が自分から休暇を申し出るなど珍しい事だ。
やはり体調が悪いのだろうかと真壁は不安に思いながらも、しかしこちらから何度もそれを促している手前「調整します」と即答した。
◇
「いらっしゃいませ」
カラランと鳴ったドアベルに、マスターは顔を上げた。
「今日は早いですね? 」
「――そうかい? 社長なんて、案外ヒマなんだよ」
フフっと笑い、聖はブリザードを頼む。
そうしてストールに腰かけながら、そっと店内を見渡した。
「……あいつは?」
「ああ、加賀ですか。今日は舞台稽古があるから二時間遅れると連絡がありました。あと、映画の最終オーディションの方もセリフと演技が入るから、そっちも全力で頑張ると張り切ってましたよ」
「そうか――」
言葉の通りに、瞳をキラキラさせて稽古に励む誉の様子を想像して、聖は小さく微笑んだ。美しい彼が笑うと、なお一層場が華やかになる。
マスターは嬉しそうに目を細めながら、シェイカーを振った。
「どうぞ」
「ありがとう」
柑橘系のサッパリとした香りを楽しみながら、ゆっくりと口を付ける。
そんな聖に、マスターは微笑みながら「なにかお出ししましょうか」と話しかけた。
「あいつの影響で、ウチの冷蔵庫も食材が増えたんですよ。ははは、おかげで炒飯のレシピも伝授されてしまいました」
バーの裏メニューが炒飯ね。
思わず吹き出しかけた聖であったが――――カラランと鳴ったドアベルに、その表情はサッと強張った。
「いらっしゃいませ……」
笑顔で声を掛けようとしたマスターも、その男を見た途端に顔が強張る。
入店してきた男は、一見しただけで只者ではないと分かる雰囲気を纏っていた。
そして、男の後ろについて続けて入店した男二人も、小綺麗なスーツを着てはいるが普通ではないと直ぐに分かる。
「カミカゼ」
「わ、分かりました」
マスターは気掛かりそうに、仁王立ちのまま出入り口に陣取った男二人にチラチラと視線を向ける。すると、カミカゼを注文した男は二ッと笑った。
「あいつらは運転手だから、酒はダメなんだ」
「そ、そうですか――」
引き攣った愛想笑いをしながら氷を砕くマスターを見遣り、聖は溜まり兼ねたように声を上げた。
「史郎、どうしてここに……」
「なに、お前が最近若いツバメと遊んでいるって耳に入ったからな」
「――――監視でもつけているのか?」
「ハハ、まぁ、そんなトコロだ」
口元には笑みを浮かべているが、その眼は全く笑っていない。
獰猛な虎そのままの瞳で、聖をジッと見つめる。
「オレは心の広い男だ」
「……」
――――『どこがだよ』と言いたいが、あえて無視をする。
ツンとしたままブリザードに口を付ける聖に、史郎は世間話をするように語り掛けた。
「お前が商売絡みで誰と寝ようと、いちいち口は出さないさ。ここのところ毛唐ばっかり相手にしたようだが、それだってただの仕事だったんだろう?」
「……」
「社長業も接待で大変だな。だが、おかげでこの不況下でも、ジュピタープロダクションは業績も右肩上がりだ。努力の賜物ってヤツか?」
「……だったら、何だってんだ」
キッと睨み、聖はカウンターにグラスを置く。
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