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chance
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真壁がヤツと言い捨てる相手を思い描き、聖は複雑な表情になる。
「気のし過ぎじゃないのか? あいつも組の立て直しで相当忙しいハズだ。オレのことなんか構ってられないだろう」
「そんな事はありません!」
真壁はキッパリと断言し、心配そうに聖を見つめる。
「警察沙汰にまでしたくないのであれば、オレに連絡してください。どんなささやかな事でもいいので、気掛かりがことが一つでもあれば何時でもどうぞ。直ぐに駆け付けますから」
本当に言葉の通り、真壁はそれが例え夜中だろうとすっ飛んでくるだろう。
「オレでよろしければ、昔のように、ボディガードとして二十四時間お傍に置いてほしいのですが――」
相も変わらず忠犬っぷりを発揮する真壁に、聖は目を細めた。
「そこまでしなくてもいい。お前にだって自由な時間は必要だ。まだ若いんだし、少しくらい羽目を外して遊んでみたらどうだ?」
「そんなっ」
「ははは、お前は変わらないな――」
そう、本当に変わらない。
真壁は真っすぐだ。
ずっと一途に、聖を慕って支えようとしてくれている。
だが、それ故に……自分の業に真壁を巻き込むような気がして、近くに寄せ付ける事はできないのだ。
「――何かあったら連絡するから、お前は自分の仕事だけに集中しろ」
素っ気なく言うと、真壁は何か言いたげな顔になるが、「分かりました」と返答した。
◇
聖は、都内に三カ所、郊外に一カ所、その他地方に別荘を一棟所有している。
都内二カ所のマンションにはリフォームの工事が入っているので、最近はもっぱら渋谷のマンションを根城にしていた。
寝に帰るだけの場所と割り切っていたのだが、最近、新しい楽しみが増えた。
マンションから数分の距離にある行きつけのバーに、聖の新しい男が勤めている。
“カラン”というドアベルの音に、カウンターで酒の準備をしていた若いバーテンダーが顔を上げた。
「いらっしゃい!」
聖の顔を見ると、そのバーテンダーは嬉しそうに声を掛けてきた。
「何か作りますか?」
「……それじゃあ、ジントニックを頂こうか」
アルコールの名を言うと、相手はノーノーと首を振った。
「まずは食ってからでしょ! 社長なんだから、しっかり美味いもん食わないと」
ここは居酒屋か。
思わず内心でそう思い、ぷっと吹き出す。
「……そうだな、じゃあ、何か適当なメシと一緒にビールでも出してくれ」
「はいよー」
気安い様子で聖に接客する若いバーテンダーは、あの加賀誉だ。
そしてこいつが、聖の新しい男である。
恋の駆け引きも何も無いストレートな誉の物言いは、聖にとって心地が良い。
久しぶりに、本物の恋をしているような気分になる。
「はい、特製チャーハンお待ち!」
つい笑ってしまうと、その楽しげな声に誘われたのか、タバコ休憩中だったマスターがバックヤードから顔を出した。
そして、カウンターにあるチャーハンとビールに気付き、ムッとした顔になる。
「おいおい、誉! お前、御堂さんに何を食わせる気だよ?」
「でもオレ、中華飯店でバイト経験あるからコレ美味いすっよ? マスターも食いますか?」
「……あとで賄いでな」
嘆息しながらそう返す人のいいマスターに、また聖は笑う。
「ははは、仲がいいんだな」
「いえ、すみません御堂さん。先日も、こいつがとんだ失礼を仕出かして……」
まったく、店員が客に水をぶっ掛けるなど考えらない暴挙だ。
だが、誉も聖も雰囲気も良い事を察し、マスターは目元へシワを寄せた。
「気のし過ぎじゃないのか? あいつも組の立て直しで相当忙しいハズだ。オレのことなんか構ってられないだろう」
「そんな事はありません!」
真壁はキッパリと断言し、心配そうに聖を見つめる。
「警察沙汰にまでしたくないのであれば、オレに連絡してください。どんなささやかな事でもいいので、気掛かりがことが一つでもあれば何時でもどうぞ。直ぐに駆け付けますから」
本当に言葉の通り、真壁はそれが例え夜中だろうとすっ飛んでくるだろう。
「オレでよろしければ、昔のように、ボディガードとして二十四時間お傍に置いてほしいのですが――」
相も変わらず忠犬っぷりを発揮する真壁に、聖は目を細めた。
「そこまでしなくてもいい。お前にだって自由な時間は必要だ。まだ若いんだし、少しくらい羽目を外して遊んでみたらどうだ?」
「そんなっ」
「ははは、お前は変わらないな――」
そう、本当に変わらない。
真壁は真っすぐだ。
ずっと一途に、聖を慕って支えようとしてくれている。
だが、それ故に……自分の業に真壁を巻き込むような気がして、近くに寄せ付ける事はできないのだ。
「――何かあったら連絡するから、お前は自分の仕事だけに集中しろ」
素っ気なく言うと、真壁は何か言いたげな顔になるが、「分かりました」と返答した。
◇
聖は、都内に三カ所、郊外に一カ所、その他地方に別荘を一棟所有している。
都内二カ所のマンションにはリフォームの工事が入っているので、最近はもっぱら渋谷のマンションを根城にしていた。
寝に帰るだけの場所と割り切っていたのだが、最近、新しい楽しみが増えた。
マンションから数分の距離にある行きつけのバーに、聖の新しい男が勤めている。
“カラン”というドアベルの音に、カウンターで酒の準備をしていた若いバーテンダーが顔を上げた。
「いらっしゃい!」
聖の顔を見ると、そのバーテンダーは嬉しそうに声を掛けてきた。
「何か作りますか?」
「……それじゃあ、ジントニックを頂こうか」
アルコールの名を言うと、相手はノーノーと首を振った。
「まずは食ってからでしょ! 社長なんだから、しっかり美味いもん食わないと」
ここは居酒屋か。
思わず内心でそう思い、ぷっと吹き出す。
「……そうだな、じゃあ、何か適当なメシと一緒にビールでも出してくれ」
「はいよー」
気安い様子で聖に接客する若いバーテンダーは、あの加賀誉だ。
そしてこいつが、聖の新しい男である。
恋の駆け引きも何も無いストレートな誉の物言いは、聖にとって心地が良い。
久しぶりに、本物の恋をしているような気分になる。
「はい、特製チャーハンお待ち!」
つい笑ってしまうと、その楽しげな声に誘われたのか、タバコ休憩中だったマスターがバックヤードから顔を出した。
そして、カウンターにあるチャーハンとビールに気付き、ムッとした顔になる。
「おいおい、誉! お前、御堂さんに何を食わせる気だよ?」
「でもオレ、中華飯店でバイト経験あるからコレ美味いすっよ? マスターも食いますか?」
「……あとで賄いでな」
嘆息しながらそう返す人のいいマスターに、また聖は笑う。
「ははは、仲がいいんだな」
「いえ、すみません御堂さん。先日も、こいつがとんだ失礼を仕出かして……」
まったく、店員が客に水をぶっ掛けるなど考えらない暴挙だ。
だが、誉も聖も雰囲気も良い事を察し、マスターは目元へシワを寄せた。
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