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chance
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「こちらが、『禁忌』オーディションの、二次選考通過名簿です」
真壁から渡された書類を受け取り、名前を確認する。
――――ボクサー甘城吉祥 役:二階堂清太郎(20)鈴原マコト(28)加賀誉(25)……。
誉の名前を見つけ、聖は微かに口許へ笑みを浮かべた。
それに目ざとく気付き、真壁が「どうしました?」と顔を上げる。
「誰か、気になっている役者の名前でも見付けましたか? 今回は、ウチの養成所からも三名が残りましたが」
「……いや、何でもない」
先日、久しぶりに若い男を咥え込んで味わったなどと、わざわざ真壁に話して聞かせる話題ではないだろう。
聖は素っ気なく返し、次回オーディションの日程を訊いた。
すると真壁は、訝しむように目を眇めた。
「社長が、今のところ……まだ単館上映しか決まっていない映画のオーディションを気にするなんて珍しいですね」
「――最近は、どこで火が点くか分からないからな。大々的に宣伝してもコケる映画も多いなか、単館からスタートして大成功する映画が、国内外共に発生している」
尤もな事を言うと、素直な真壁はそれを信じたらしい。
少し張り切った様子で、パラパラと書類をめくりながら説明を始めた。
「ええと、主演のボクサー役は、今回は全て新人が残りました。先程報告しましたが、ウチからは三人です。あとはサンライズプロから二人、錦戸プロモートから一人、佐藤興業から一人です。ヒロインの方は、残念ですがウチからは0です。ジュリアグループから、デビュー三年目の安藤アンリと、サンライズプロから新人が二人、あとは錦戸プロモートから中堅の百川友里恵、飯岡千鳥ですね。他は――」
「いい、分かった。あとは目を通しておく」
この映画の原作は、稀代の問題作として昨年話題になった小説が原作だ。ただ内容が過激で、映像化しても買い手が付かないのではと大手配給会社が難色を示したなか、名乗りを上げたのがジュピタープロダクションであった。
「ウチが制作会社へ出資する事で、配給会社も動く事になったんだ。手は抜かないさ」
「では、予定通り最終オーディションには――」
「最後は、直接審査員として参加する。メインで出資はするが、だからといってウチの役者だけで固める配役にはしない。実力を以て合否を決める。原作は未だSNSで話題を攫っている。配給予定の西映からも、面子が集まるしな」
「……分かりました。では、調整して日程が決まり次第社長にお知らせします」
「ああ」
そう答えると、真壁は少し逡巡した後……そっと耳打ちをした。
「聖さん、お疲れでしょう? この半年近く、海千山千の海外勢と交渉を重ねたのだし……思い切って、休暇を取ってはどうでしょうか?」
「いや、そんな事は――」
「ユウさんも、再来週には休暇を終えて日本へ帰って来ます。ご一緒に、親子水入らずでどこか温泉にでも行って、のんびりしては?」
それは、何とも心惹かれる提案だ。
「……考えておく」
そう答えると、真壁はホッとしたように息をついた。
「では、とりあえずこの後はお時間がありますし、いつもの店にマッサージの予約を入れておきました。疲労が蓄積しているでしょうし、リフレッシュしてきてください」
「マッサージなんて……」
「ご安心ください。施術者は女性だけにするよう申し込みました。そうじゃないと危ないですからね。聖さんは、そのまま眠っても大丈夫ですよ。施術が終了した頃合いをみてお迎えに上がりますから」
「……」
本当に真壁は、聖の事をよく分かっている。
思わず苦笑しながら、聖は、真壁の厚意を受け入れることにした。
◇
程よく身体がほぐれた気がする。だるくて重かった肉体が軽くなったようだ。
真壁はその様子に安心したように笑むと、別れ際にそっと囁いた。
「どうか、重々お気をつけて。ヤツが現われたら、すぐに通報してください」
真壁から渡された書類を受け取り、名前を確認する。
――――ボクサー甘城吉祥 役:二階堂清太郎(20)鈴原マコト(28)加賀誉(25)……。
誉の名前を見つけ、聖は微かに口許へ笑みを浮かべた。
それに目ざとく気付き、真壁が「どうしました?」と顔を上げる。
「誰か、気になっている役者の名前でも見付けましたか? 今回は、ウチの養成所からも三名が残りましたが」
「……いや、何でもない」
先日、久しぶりに若い男を咥え込んで味わったなどと、わざわざ真壁に話して聞かせる話題ではないだろう。
聖は素っ気なく返し、次回オーディションの日程を訊いた。
すると真壁は、訝しむように目を眇めた。
「社長が、今のところ……まだ単館上映しか決まっていない映画のオーディションを気にするなんて珍しいですね」
「――最近は、どこで火が点くか分からないからな。大々的に宣伝してもコケる映画も多いなか、単館からスタートして大成功する映画が、国内外共に発生している」
尤もな事を言うと、素直な真壁はそれを信じたらしい。
少し張り切った様子で、パラパラと書類をめくりながら説明を始めた。
「ええと、主演のボクサー役は、今回は全て新人が残りました。先程報告しましたが、ウチからは三人です。あとはサンライズプロから二人、錦戸プロモートから一人、佐藤興業から一人です。ヒロインの方は、残念ですがウチからは0です。ジュリアグループから、デビュー三年目の安藤アンリと、サンライズプロから新人が二人、あとは錦戸プロモートから中堅の百川友里恵、飯岡千鳥ですね。他は――」
「いい、分かった。あとは目を通しておく」
この映画の原作は、稀代の問題作として昨年話題になった小説が原作だ。ただ内容が過激で、映像化しても買い手が付かないのではと大手配給会社が難色を示したなか、名乗りを上げたのがジュピタープロダクションであった。
「ウチが制作会社へ出資する事で、配給会社も動く事になったんだ。手は抜かないさ」
「では、予定通り最終オーディションには――」
「最後は、直接審査員として参加する。メインで出資はするが、だからといってウチの役者だけで固める配役にはしない。実力を以て合否を決める。原作は未だSNSで話題を攫っている。配給予定の西映からも、面子が集まるしな」
「……分かりました。では、調整して日程が決まり次第社長にお知らせします」
「ああ」
そう答えると、真壁は少し逡巡した後……そっと耳打ちをした。
「聖さん、お疲れでしょう? この半年近く、海千山千の海外勢と交渉を重ねたのだし……思い切って、休暇を取ってはどうでしょうか?」
「いや、そんな事は――」
「ユウさんも、再来週には休暇を終えて日本へ帰って来ます。ご一緒に、親子水入らずでどこか温泉にでも行って、のんびりしては?」
それは、何とも心惹かれる提案だ。
「……考えておく」
そう答えると、真壁はホッとしたように息をついた。
「では、とりあえずこの後はお時間がありますし、いつもの店にマッサージの予約を入れておきました。疲労が蓄積しているでしょうし、リフレッシュしてきてください」
「マッサージなんて……」
「ご安心ください。施術者は女性だけにするよう申し込みました。そうじゃないと危ないですからね。聖さんは、そのまま眠っても大丈夫ですよ。施術が終了した頃合いをみてお迎えに上がりますから」
「……」
本当に真壁は、聖の事をよく分かっている。
思わず苦笑しながら、聖は、真壁の厚意を受け入れることにした。
◇
程よく身体がほぐれた気がする。だるくて重かった肉体が軽くなったようだ。
真壁はその様子に安心したように笑むと、別れ際にそっと囁いた。
「どうか、重々お気をつけて。ヤツが現われたら、すぐに通報してください」
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