彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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「真壁さん、社長はまだ連絡が付かないですか? 」

「――先程ご自宅へお送りした。残念だが、ハリウッド映画の話は流れたらしい。半分までは決まっていただけに、さすがに肩を落とされていた」

 そう答えたところ、相手は目に見えて落胆した。

「なんだ、さすがにもう社長の神通力も通じなくなりましたが。数年前まではサプライズ演出でウチの役者が抜擢されて、内も外もお祭り騒ぎだったもんですが……」

 そのセリフに、真壁は目をキッと吊り上げた。

「言葉に気を付けろ! 今だって社長は充分過ぎる程に、社の為に尽くしているんだぞ。現に、アメリカのCBCで製作しているドラマの配役は、ウチを優先すると確約書を取ったんだ。もうそれで充分じゃないか」

 確かに、充分過ぎる程の成果だ。

 俳優を海外の事務所へ移籍させるのではなく、国内事務所に在籍させたまま好条件で海外に放出する。

 実は、これはかなり手続きが複雑で難しいのだが、ジュピタープロダクションは可能にしている。

 日本では芸能事務所に所属すれば仕事をもらえるし、身の回りのケアまでしてくれるのが一般的だ。

 だが、アメリカの場合は違う。

 俳優に替わって、制作側に出演契約や金額交渉などをしてくれるエージェントとまず個人契約をして、契約が成立したら、マネジメントはまた別の専門の会社に依頼するというやり方が一般的だ。この段階で既に、日本側の芸能事務所は関与が儘ならなくなる。

 しかしジュピタープロダクションは、最後まで裏方として俳優のバックアップを可能としていた。

 なので、海外で有名になっても存外国内では無名という役者も多いが、その点ジュピタープロダクションはフォローが手厚いのでそういった事にはならない。

「お陰でウチは、質のいい有望な役者が契約を結びたいと言って、次々と来てくれている。今やジュピタープロダクションは、国内でもトップクラスの芸能事務所だ。一時は、老舗だが二流とまで囁かれていたのに……凄い事じゃないか」

 諭すように言う真壁に、相手もしみじみ頷いた。

「そうですね……昔を思えば、ウチの事務所は考えられない程の大出世です」

「だろう? 」

 真壁はまるで我がことのように頷くと、手にしていたファイルを差し出した。

「ってことで、来週の三次オーディションの案件だが――間違ってもこいつらは取るなよ」

 それに目を通し、相手は少し驚いた様子で言葉を発する。

「え? これって、政治家の息子と大物歌手の娘じゃないですか。内々でデビューの打診があったヤツですよね? 充分マスコミにはインパクトが狙えるし、業界でもジュピターの扱いが上がると思いますが」

「ウチは、二世なんか取らん」

 溜め息交じりに、真壁はキッパリと言う。

「――それは社長も同じ意見だろう」

「ですが……」

「なんだ? 」

「二次選考で居合わせた他の役者に向かって、こいつらは『ジュピターに合格は決まっているから、もうお前達は無理だ』……とか散々挑発していたようですよ。それが原因で役者の一人とあわやという雰囲気になり、こちらのスタッフが慌てて途中で仲裁したそうですが」

 そのセリフに、真壁は思わず舌打ちをした。

「これだからボンボンは! 気を遣わず、もっと先に落としておくべきだったな。オーディションに来ていた他の役者がそれを真に受けて、他所に移らなければいいが……」

   ◇

「あんた、ジュピターの社長だろう? 」

 その言葉に、聖は顔を上げた。

 真壁によって自宅マンションまで送ってもらったが、飲み足りない気がしてフラリと行きつけのバーへ足を向けた。

 ここ数ヵ月間続いた接待・・が祟り、まともな物も食っていない。

 このバーのマスターは元料理人だ。
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