彼が恋した華の名は:2

亜衣藍

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 いつか終わりがやって来る。

 それはきっと、残酷なほどに無残な終わり方だろう。

 その予感をヒシヒシと感じながらも、聖は日々平静を装っていた。

   ◇

「――では、今回は弊社からのタレント起用は見送るということですか? 」

「残念だがね。今回は外資も絡んでいるので、身贔屓は出来ない。向こうは、ハリウッドでも活躍する、アジア系俳優として評判のリリー・チェンを正式に御使命だ」

「リリー・チェンですか……」

 それは、中国出身の有名俳優の名だ。

 巨大な中国資本も見込めるだけに、そこに捩じり込むのはさすがに難しいだろう。

 もう、万策尽きたも同然だ。

 それは、解ってはいるが。

「それじゃあ、オレはタダ乗り・・・・されただけか」

 半年に及んだ交渉に、聖は苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 再来年全世界公開予定の映画に、自分の事務所からの役者起用を打診していたのだが。

 準主役級を射止める為に、ずいぶんと無茶をしたが……。

「――オーディションも無しか? 」

「ああ。以前のハリウッドでは考えられない事だが……この業界も、昔に比べたら状況は恐ろしい程厳しくなった。近頃は、資金繰りに苦労して頓挫する映画も多い」

「もう博打はしないって事か」

 溜め息をつきながら、聖はうつむく。

「……最初から、収益が見込める市場を狙って投資する――それは理解できるが。しかしそれはつまり、ダイヤモンドの原石を探す時代はとっくに終わったって事だな。ハリウッドも、夢の無い世界になったもんだ」

「それが資本主義だ」

 相手はそう言うと、カウンターの上にホテルの部屋の鍵をそっと置く。

「君に、お詫びをしたい」

「お詫び? 」

「君の為にプロモーターとして尽力したが、力が及ばなかった」

「……」

「だが少なくとも、私の愛は本物だ。だから君の為に出来るだけ頑張った。映画は無理だったが、現在アメリカで公開されている人気ドラマの来期配役の枠は確保した。どうかそれで許して欲しい」

「……ドラマ、か。どうせネット配信だろう? 」

「今は、ネットの方が稼げるよ。それで構わないだろう? ……しかし、約束を守れなかったのは事実だ。私が紹介した男達と、君も――努力したのに」

努力・・、か)

 確かに、努力ではあるだろう。

 無言になった聖に、相手は気まずそうに身じろいだ。

「だから、君を……今夜は優しく抱いて慰めてあげようと思う。そして私は君に、正式にプロポーズをしたい。私の伴侶になったのなら、さすがにアジア人を蔑視する連中もそうそう無視はできなくなるよ? 」

「このオレに、あんたの専属になれってか? 」

 苦く笑いながら、聖はグラスに口を付ける。

 氷が解けて水っぽくなった酒を飲み下すと、聖はストールから腰を下ろした。

See ya!じゃあな

 そう言い残すと、聖は後ろを振り返る事なく去って行った。



「……So long!会いたくないじゃなくてよかったよ……」

 男はそう呟くと、口を付けていなかったグラスを呷った。

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