228 / 240
46
46-4
しおりを挟む
正嘉は……かつて仄かな恋心を抱いたオメガの令嬢に裏切られた。
そして――…………。
「お前の事は、何もかも知っている! 手酷く裏切られて傷付いて、それ故お前はひどく歪んでしまったことも」
「――」
「私が勝手に勘違いして大仰に騒いでいると、お前は冷めた眼で言うが……私の言っている事は真実じゃないか! どうして認めないんだ!! 」
恵美は、目に涙を浮かべて言った。
――――じつは、彼女の言う事は、全て正しかった。
かつて正嘉は、父にも内緒で、密かに青柳から放逐された実母を探し出した。
しかし、探し当てた実母には既に新しい『番』が寄り添っていた。
その上、三人もの子供達に囲まれて、幸せそうな様子で慎ましやかに暮らしていたのだ。
でも正嘉は、期待したのだ。
自分も、母の産んだ子供に違いないのだから、そこに入る事は出来るのではないかと。
だが――――結果は、無残にも裏切られた。
正嘉の実母は、正嘉の顔を見ても……それが自分の産んだ子供だとは、とうとう気付きもしなかったのだ。
『あの、久しぶりです。……オレ……』
勇気を出して、公園で子供たちを遊ばせていた母へと近付いて、そう声を掛けた。
だが、母は、正嘉の事を初めて見る他人のような目で見遣り、曖昧な微笑みを浮かべて口を開いたのだ。
『ええと……何か御用ですか? 』
それは完全に、知らない人物に対する態度だった。
正嘉は、母の事を忘れた事などなかったのに!
幼い頃の憧憬を木っ端微塵に破壊され、正嘉は無言のままその場を去った。
それからはもう、母とは会っていない。
――――オメガは、インチキで破廉恥な連中だ。奴等は、正嘉を裏切る事しかしない。
他人を、心に入れてはダメだ。
必ず手酷く裏切られる。
裏切られるくらいなら――――こちらから先に捨ててやる。愛も恋も、どうでもいい。
……そうして、正嘉は歪んでいった…………。
「お前は、人を信じるのが怖いだけの臆病者だ! 今度は『番』に裏切られるのが怖くて不安で、だけどお前はそれを認めないで――」
「黙れっ! 」
バシッ!
今度は、恵美の頬が鳴った。
手加減したとはいえ、男の力だ。
恵美は数歩よろめくが、彼女は負けじと拳を振り上げて、今度は正嘉の腹を殴った。
まさか腹に向かってカウンターが来るとは思っていなかった正嘉は、それをまともに受けてしまう。
「うっ……」
油断していた正嘉は苦し気に呻くと、驚きを込めた眼で恵美を見つめた。
「お前……」
「これが本当の私だ! 侮辱されたら必ず報復するし、自分の気持ちを諦める事もしない! しかしこんな私が、お前のような最低のアルファに惚れてしまったんだ――それが、どれだけの屈辱とストレスだった事か!! 」
ストレスだったと断言されて、正嘉はますます唖然とする。
オメガなど、己にとって都合のいい相手に阿るようなクラゲのような輩ばかりだと思っていたが。
あの結城奏にしても、七海達樹にしても、この九条恵美にしても。
立て続けに出会ったオメガ達の、なんとダイヤモンドのように意思の固い事か。
正嘉は、自分の価値観や固定概念が根こそぎ書き換えられるのを感じながら、初めて見るような眼で、恵美を見つめた。
「そうか……お前はオレに合わせようとして、随分と無理をしていたんだな…………」
従順な風を装っていたが、その魂は、燃え盛る炎のように熱い。
恵美が、こんなオメガの女だったとは、正嘉は全く知らなかった。
これでは、恵美の兄や父が、正嘉との婚約を取りやめるように幾度も彼女を説得したのに、納得させられず手を焼いているという話も頷ける。
そして――…………。
「お前の事は、何もかも知っている! 手酷く裏切られて傷付いて、それ故お前はひどく歪んでしまったことも」
「――」
「私が勝手に勘違いして大仰に騒いでいると、お前は冷めた眼で言うが……私の言っている事は真実じゃないか! どうして認めないんだ!! 」
恵美は、目に涙を浮かべて言った。
――――じつは、彼女の言う事は、全て正しかった。
かつて正嘉は、父にも内緒で、密かに青柳から放逐された実母を探し出した。
しかし、探し当てた実母には既に新しい『番』が寄り添っていた。
その上、三人もの子供達に囲まれて、幸せそうな様子で慎ましやかに暮らしていたのだ。
でも正嘉は、期待したのだ。
自分も、母の産んだ子供に違いないのだから、そこに入る事は出来るのではないかと。
だが――――結果は、無残にも裏切られた。
正嘉の実母は、正嘉の顔を見ても……それが自分の産んだ子供だとは、とうとう気付きもしなかったのだ。
『あの、久しぶりです。……オレ……』
勇気を出して、公園で子供たちを遊ばせていた母へと近付いて、そう声を掛けた。
だが、母は、正嘉の事を初めて見る他人のような目で見遣り、曖昧な微笑みを浮かべて口を開いたのだ。
『ええと……何か御用ですか? 』
それは完全に、知らない人物に対する態度だった。
正嘉は、母の事を忘れた事などなかったのに!
幼い頃の憧憬を木っ端微塵に破壊され、正嘉は無言のままその場を去った。
それからはもう、母とは会っていない。
――――オメガは、インチキで破廉恥な連中だ。奴等は、正嘉を裏切る事しかしない。
他人を、心に入れてはダメだ。
必ず手酷く裏切られる。
裏切られるくらいなら――――こちらから先に捨ててやる。愛も恋も、どうでもいい。
……そうして、正嘉は歪んでいった…………。
「お前は、人を信じるのが怖いだけの臆病者だ! 今度は『番』に裏切られるのが怖くて不安で、だけどお前はそれを認めないで――」
「黙れっ! 」
バシッ!
今度は、恵美の頬が鳴った。
手加減したとはいえ、男の力だ。
恵美は数歩よろめくが、彼女は負けじと拳を振り上げて、今度は正嘉の腹を殴った。
まさか腹に向かってカウンターが来るとは思っていなかった正嘉は、それをまともに受けてしまう。
「うっ……」
油断していた正嘉は苦し気に呻くと、驚きを込めた眼で恵美を見つめた。
「お前……」
「これが本当の私だ! 侮辱されたら必ず報復するし、自分の気持ちを諦める事もしない! しかしこんな私が、お前のような最低のアルファに惚れてしまったんだ――それが、どれだけの屈辱とストレスだった事か!! 」
ストレスだったと断言されて、正嘉はますます唖然とする。
オメガなど、己にとって都合のいい相手に阿るようなクラゲのような輩ばかりだと思っていたが。
あの結城奏にしても、七海達樹にしても、この九条恵美にしても。
立て続けに出会ったオメガ達の、なんとダイヤモンドのように意思の固い事か。
正嘉は、自分の価値観や固定概念が根こそぎ書き換えられるのを感じながら、初めて見るような眼で、恵美を見つめた。
「そうか……お前はオレに合わせようとして、随分と無理をしていたんだな…………」
従順な風を装っていたが、その魂は、燃え盛る炎のように熱い。
恵美が、こんなオメガの女だったとは、正嘉は全く知らなかった。
これでは、恵美の兄や父が、正嘉との婚約を取りやめるように幾度も彼女を説得したのに、納得させられず手を焼いているという話も頷ける。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる