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「ああ。オレは…………結城奏の事を、どうやら好きなようだ」

「っ! 」

「恋の病は寝ても覚めても――と聞いていたが、それではやはりこれが『恋』らしい。こんなにオレの心を惑乱させるあいつが最初は忌々しいと思っていたが、今はあいつの怒った顔よりも笑った顔の方が見たいと素直に思っているし、優しくしたいと思っている。きっとこれが、恋なんだろう」

「な――」

「この事は、昨日奏に伝えたばかりだ。あいつは、オレの気持ちを受け入れてくれた。そんなあいつが、アメリカに行くわけがない」

 照れる訳でもなく素直に心情を吐露する正嘉に、栄太は激高する。

「今になって――――今になって、そんな事を言うな! このクソガキが!! 」

 二十歳になったばかりの正嘉など、栄太から見たら我が儘な子供だ。こんなヤツの言動によって、右往左往するこちらはたまったものではない。

 第一、それでは……栄太の取った行動が全て否定されたも同然だ。

 栄太は、我が子と奏の為を思って、非情で冷血な正嘉から護る為にこんな無謀な行動へ出たのに。

――――しかも、大切なその子は成長する前に消えてしまい、奏は囚われてしまった……。

「う……」

 無念だ。とにかく、自分が情けない。

 だが、己の非は認めなければならないだろう。

「すまなかった……」

「? 」

「奏の腹に宿った子供は……可哀想な事になってしまった。流れてしまったらしい……」

 きっとこの男も、口では何だかんだ言いながら、子の成長を楽しみにしていたのだろう。

 そう思い、栄太は頭を下げてそう謝罪したが――――。

「そうか」

 にべもなくそう言い、気にした風もなく受け流す正嘉に、栄太はハッと顔を上げる。

「今のが聞こえなかったの……か? 」

「ん? 流産したという事だろう? そんなのはどうでもいい・・・・・・・・・・。それより、奏を迎えに行かねば――」

 正嘉の言い様に、栄太はカッとする。

「どうでもいいワケが、ないだろうが! 」

 奏が、どれだけの思いをして受胎したのか。

 アルファこいつに番にされ、その直後に違う相手と性交する――――それが地獄のように辛かっただろうという事は、いくらこいつでも容易に察する事が出来るだろうに。

 そんな奏の努力と忍耐の結晶を『どうでもいい』の一言で片付けるなど言語道断だ。

――――そもそも、正嘉が現われなければ……栄太と奏は結ばれたままでいられたのに。

(ふざけるな! )

 栄太は激高する感情のままに、拳を振り上げた。

「しゃ、社長!! 」

 固唾を飲んで見守っていた周囲の社員たちはギョッとする。

 相手は、この業界で力を誇るブルーブラッド貴族の血統と畏れられる青柳だ。

「い――いけませんっ! 」

 吉川が制止しようと慌てて駆け寄るが、栄太の拳は途中で止まった。

 正嘉が、その拳を手の平で受け止めたからだ。

「……今、オレを殴ろうとしたのか? 何故だ? 」

「お前は、奏の事を愛していない! 」

「なに? 」

「本当に愛していれば……子供の事も、もっと真剣に受け止めるはずだろう!? 」

「――」

「それこそオレのツラを、お前は真っ先にぶん殴ったはずだ。オレがバカな真似をした所為で……大切な命を失ってしまったんだから……」

 そう言うと、栄太は力尽きたかのように、ガクリとその場に膝を折った。

 そうだ、そもそも栄太が無茶な行動に出た所為で、元々体調の優れなかった奏の体力は限界に達してしまったのだ。

『安全だから』と言って渡された睡眠薬が、その引鉄になってしまった。

 なんと愚かな真似をしてしまったのか。

――――もう、取り返しは付かない。

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