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正嘉とは和解したばかりで、まだ本当に彼が何を考えているのかが分からない。
お腹に宿った子供の事もどう思っていたのか、真意は聞いていないのだ。
正嘉は、子供の事は関係なく奏を好きになったと言っていたが……では、もしも無事に子供が生まれていたとしたら、最初からその子は養子にでも出すつもりだったのか?
もしもそうであれば、そんな血の冷たい男などと、今後一緒にいるつもりはない。
では、再び現れた栄太に、素直に身を委ねればよかったのか?
一度、奏を見捨てたというのに――――それを許して受け入れろと?
(でも、僕は……自分の本当の気持ちに気付いてしまったんだ。僕は栄太さんの好意に合わせて、無理に相手を愛そうとしていただけだ。その事に気付いた以上、もう一緒に暮らすのは無理だ……)
更に、子供の実父であった栄太は『奏のため』と言いながら、強引に自分の考えを押し付けて、無理やりな行動に出た。
――――その結果が、これだ!
元々体調が優れなかったのに加え、極度のストレスと、強い麻酔薬によって奏の身体が悲鳴を上げたのだ。
体内で立て続けに起こった悪循環に、もっとも弱い箇所が犠牲になった。
それが、受胎したばかりの奏の子だったのだ。
まだ人の形にも成っていない、ただの血の塊であったろうが――――それでも、確かにここには命が宿っていたのに。
もう、あの子は、手の届かない所へ行ってしまった。
「う……う、うぅ……ごめ……ごめんなさい……」
奏は、ただ泣き続けていた。
◇
大使館からの知らせに、栄太は蒼白になった。
「そ、そんなバカな! 何かの間違いじゃないのか!? 」
『いいえ、マブチさん。専門医に診察してもらいましたが、残念ながらカナデさんは流産してしまいました。あの麻酔薬は、健康な人になら問題ない強さだったのですが――――彼は相当身体が弱っていたようですね。お気の毒に、耐えられなかったようです』
淡々と告げられた内容に、栄太は激高する。
「そんなの、勝手だ! アレは、お前らが安全だと言ってオレに渡したんじゃないか! それなのに、こんな……どう責任を取ってくれるんだ! 」
叫ぶと同時に、バンっとデスクを叩きつける。
周囲に数人の部下がいるのも構わず、栄太は声を荒げた。
「お前らを必ず訴えてやる! その時のやり取りの詳細な記録は、こちらで押さえているんだからな!! 」
『――――しかしマブチさん。我々はカナデさんの身柄の保護は請け負いましたが、彼が妊娠初期だった事までは伺っていませんよ? 今回の事故を問題にするには、少し無理がありませんか? 』
「いいや、これは立派な傷害事件だ。オレは――」
『ミスター、冷静になってください。ここはアメリカ大使館内ですよ? 治外法権なのは重々知っているでしょう? ここで起こった事故を、日本の法律で裁く事は出来ません』
「なに――」
『治外法権の意味を、詳しくご説明しますか? そうですね……例えここでカジノを開いたとしても、日本の警察は介入できないのですよ? 大使館は、一つの小さな国だと思って頂きたい』
「うっ……」
淡々と告げられる事実に、栄太は険しい顔のまま歯軋りするが――――激しい怒りに耐えるよう大きく息をつくと、次に苦々し気に口を開いた。
「――分かった。では、奏をこれから迎えに行く」
『迎え? 』
「ああ。アメリカに行く理由が無くなったからな……」
(向こうでオレの子供を無事に出産してもらい、式を挙げて、そして子供は馬淵の家で引き取って――奏には、研究に没頭できる素晴らしい環境と贅沢な暮らしを保障しようと思っていたのに……目算が狂った。子が手に入らないのなら、オレは馬淵の当主の座にすわれないし、奏がこのままアメリカになど渡ったら本当に縁が切れてしまう)
きっと、あの可愛らしい顔を見るのも難しくなってしまうだろう。
それならまだ、奏には日本に留まってもらった方がマシだ。
もう番には戻れないが……。
お腹に宿った子供の事もどう思っていたのか、真意は聞いていないのだ。
正嘉は、子供の事は関係なく奏を好きになったと言っていたが……では、もしも無事に子供が生まれていたとしたら、最初からその子は養子にでも出すつもりだったのか?
もしもそうであれば、そんな血の冷たい男などと、今後一緒にいるつもりはない。
では、再び現れた栄太に、素直に身を委ねればよかったのか?
一度、奏を見捨てたというのに――――それを許して受け入れろと?
(でも、僕は……自分の本当の気持ちに気付いてしまったんだ。僕は栄太さんの好意に合わせて、無理に相手を愛そうとしていただけだ。その事に気付いた以上、もう一緒に暮らすのは無理だ……)
更に、子供の実父であった栄太は『奏のため』と言いながら、強引に自分の考えを押し付けて、無理やりな行動に出た。
――――その結果が、これだ!
元々体調が優れなかったのに加え、極度のストレスと、強い麻酔薬によって奏の身体が悲鳴を上げたのだ。
体内で立て続けに起こった悪循環に、もっとも弱い箇所が犠牲になった。
それが、受胎したばかりの奏の子だったのだ。
まだ人の形にも成っていない、ただの血の塊であったろうが――――それでも、確かにここには命が宿っていたのに。
もう、あの子は、手の届かない所へ行ってしまった。
「う……う、うぅ……ごめ……ごめんなさい……」
奏は、ただ泣き続けていた。
◇
大使館からの知らせに、栄太は蒼白になった。
「そ、そんなバカな! 何かの間違いじゃないのか!? 」
『いいえ、マブチさん。専門医に診察してもらいましたが、残念ながらカナデさんは流産してしまいました。あの麻酔薬は、健康な人になら問題ない強さだったのですが――――彼は相当身体が弱っていたようですね。お気の毒に、耐えられなかったようです』
淡々と告げられた内容に、栄太は激高する。
「そんなの、勝手だ! アレは、お前らが安全だと言ってオレに渡したんじゃないか! それなのに、こんな……どう責任を取ってくれるんだ! 」
叫ぶと同時に、バンっとデスクを叩きつける。
周囲に数人の部下がいるのも構わず、栄太は声を荒げた。
「お前らを必ず訴えてやる! その時のやり取りの詳細な記録は、こちらで押さえているんだからな!! 」
『――――しかしマブチさん。我々はカナデさんの身柄の保護は請け負いましたが、彼が妊娠初期だった事までは伺っていませんよ? 今回の事故を問題にするには、少し無理がありませんか? 』
「いいや、これは立派な傷害事件だ。オレは――」
『ミスター、冷静になってください。ここはアメリカ大使館内ですよ? 治外法権なのは重々知っているでしょう? ここで起こった事故を、日本の法律で裁く事は出来ません』
「なに――」
『治外法権の意味を、詳しくご説明しますか? そうですね……例えここでカジノを開いたとしても、日本の警察は介入できないのですよ? 大使館は、一つの小さな国だと思って頂きたい』
「うっ……」
淡々と告げられる事実に、栄太は険しい顔のまま歯軋りするが――――激しい怒りに耐えるよう大きく息をつくと、次に苦々し気に口を開いた。
「――分かった。では、奏をこれから迎えに行く」
『迎え? 』
「ああ。アメリカに行く理由が無くなったからな……」
(向こうでオレの子供を無事に出産してもらい、式を挙げて、そして子供は馬淵の家で引き取って――奏には、研究に没頭できる素晴らしい環境と贅沢な暮らしを保障しようと思っていたのに……目算が狂った。子が手に入らないのなら、オレは馬淵の当主の座にすわれないし、奏がこのままアメリカになど渡ったら本当に縁が切れてしまう)
きっと、あの可愛らしい顔を見るのも難しくなってしまうだろう。
それならまだ、奏には日本に留まってもらった方がマシだ。
もう番には戻れないが……。
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