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 奏は、夢を見ていた。

 栗毛の、少しだけ生意気そうな顔をした可愛い男の子と、公園でお弁当を食べている夢だ。

「僕、お母さんの作った卵のサンドイッチと、唐揚げが大好き! 」

 素直な言葉に、顔が自然とほころぶ。

「ありがとう。○○くん、ほら、こっちも食べようね」

「え~」

「ははは、そんな顔をしてもダメだよ。お母さんは、○○くんの為に栄養のバランスを考えて作ったんだからね」

「はーい」

 男の子は素直に返事をかえすと、奏が差し出したタッパーをモミジのように可愛らしい手で受け取った。

「よしよし、いい子だね○○くんは」

 その仕草も何もかもが愛しくて、自然と手が伸びる。

 柔らかそうなその頬に触れようとするが、その前に、男の子方がパッと顔を上げて奏を見上げてきた。

「あのね、お母さん」

「ん? 」

「お母さんは、僕の事好き? 」

「当たり前じゃないか。お母さんは、○○くんの事が一番大好きだよ」

 苦しい思いをして、ようやく授かった大切な子供だ。

 愛しくないワケがない。

 奏はこの子さえいればいいと思って、これから先は独りでも心強く生きて行こうと思っていたのだから。

(え……? 今は何時いつだったっけ……)

 何故だか思考が纏まらない。

 色々考えないといけないのに、思う傍から波にさらわれていくように意識が途切れる。

 困難なことや悲しい事になど思考は及ばずに、唯々、目の前の愛しい子供しか目に入らなくなる。

 だが、夢かうつつか分からぬが、これだけは確かな感情だ。

「○○くんは、お母さんの宝物だよ」

 愛情を込めてそう言うと、子供はニッコリと笑った。

「ありがとう! 僕も、お母さん大好きだったよ」

「え……」

――――だった・・・

 小さなサクランボのような唇から発せられた過去形に、奏は急に不安になる。

「○○くん、あのね、お母さんは――」

「短い間だったけど、楽しかったよ。じゃあ、僕、もう行かないと」

「行く? どこに? 」

「あっち」

 子供が指差す方向は、公園の丘の方だ。

 強烈な光源でもあるのか、奏は明るくて直視できない。

「――○○くん、おめめが悪くなっちゃうから、ね。こっちに来なさい」

 そう言い、背中で影を作ってやろうとするが。

「ううん、いいんだ」

 子供はちょっと寂しそうにそう言うと、ぴょこんと立ち上がった。

「○○くん? 」

「僕、行くね」

「ま――待ちなさい! 」

 急激に不安になり、奏は声を上げる。

「行ってはダメだ。ここに居なさい」

 すると、子供は悲し気にブンブンと首を振った。

「僕もね、本当はお母さんの所にいたいんだけど、それじゃあダメなんだって。もう・・が切れたから、帰って来なさいって……」

「糸? 」

 不吉な予感に、奏の鼓動が跳ねる。

「あ……○○くん……それって……一体どういうことなのかな――? 」

 ああ、こんなに愛しいのに、どうしてこの子の名前が出て来ないのか……。

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