208 / 240
43
43-1
しおりを挟む奏は、夢を見ていた。
栗毛の、少しだけ生意気そうな顔をした可愛い男の子と、公園でお弁当を食べている夢だ。
「僕、お母さんの作った卵のサンドイッチと、唐揚げが大好き! 」
素直な言葉に、顔が自然と綻ぶ。
「ありがとう。○○くん、ほら、こっちも食べようね」
「え~」
「ははは、そんな顔をしてもダメだよ。お母さんは、○○くんの為に栄養のバランスを考えて作ったんだからね」
「はーい」
男の子は素直に返事をかえすと、奏が差し出したタッパーをモミジのように可愛らしい手で受け取った。
「よしよし、いい子だね○○くんは」
その仕草も何もかもが愛しくて、自然と手が伸びる。
柔らかそうなその頬に触れようとするが、その前に、男の子方がパッと顔を上げて奏を見上げてきた。
「あのね、お母さん」
「ん? 」
「お母さんは、僕の事好き? 」
「当たり前じゃないか。お母さんは、○○くんの事が一番大好きだよ」
苦しい思いをして、ようやく授かった大切な子供だ。
愛しくないワケがない。
奏はこの子さえいればいいと思って、これから先は独りでも心強く生きて行こうと思っていたのだから。
(え……? 今は何時だったっけ……)
何故だか思考が纏まらない。
色々考えないといけないのに、思う傍から波にさらわれていくように意識が途切れる。
困難なことや悲しい事になど思考は及ばずに、唯々、目の前の愛しい子供しか目に入らなくなる。
だが、夢か現か分からぬが、これだけは確かな感情だ。
「○○くんは、お母さんの宝物だよ」
愛情を込めてそう言うと、子供はニッコリと笑った。
「ありがとう! 僕も、お母さん大好きだったよ」
「え……」
――――だった?
小さなサクランボのような唇から発せられた過去形に、奏は急に不安になる。
「○○くん、あのね、お母さんは――」
「短い間だったけど、楽しかったよ。じゃあ、僕、もう行かないと」
「行く? どこに? 」
「あっち」
子供が指差す方向は、公園の丘の方だ。
強烈な光源でもあるのか、奏は明るくて直視できない。
「――○○くん、おめめが悪くなっちゃうから、ね。こっちに来なさい」
そう言い、背中で影を作ってやろうとするが。
「ううん、いいんだ」
子供はちょっと寂しそうにそう言うと、ぴょこんと立ち上がった。
「○○くん? 」
「僕、行くね」
「ま――待ちなさい! 」
急激に不安になり、奏は声を上げる。
「行ってはダメだ。ここに居なさい」
すると、子供は悲し気にブンブンと首を振った。
「僕もね、本当はお母さんの所にいたいんだけど、それじゃあダメなんだって。もう糸が切れたから、帰って来なさいって……」
「糸? 」
不吉な予感に、奏の鼓動が跳ねる。
「あ……○○くん……それって……一体どういうことなのかな――? 」
ああ、こんなに愛しいのに、どうしてこの子の名前が出て来ないのか……。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる