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 僕は、少しづつ、正嘉さまを愛し始めている――……。

 そう言い掛けたが、先に口を開いたのは栄太の方だった。

「それは大丈夫だ。土地の売買に関しては完全に契約書を交わしたから、いくら青柳とはいえ、今からそう都合よく反故には出来ない。法的にもそれはクリアしているから、もう会社の方は問題ない」

 だから、栄太は奏を奪い返しに来たというのか?

 さすがにそれは、都合が良過ぎるのではないだろうか。

 奏は表情を引き締めて、栄太を見つめる。

「栄太さん…………あなたは、僕を選ばなかった……」

「奏っ」

「あなたは、僕の気持ちを裏切ったんです。それはもう、取り返しのつかない事なんです。一度目の裏切りがあったのだから、きっと二度目も、三度目もあるでしょう。人の心とはそういうものです。一度目の間違いを犯したら、いつか必ず、続けて同じような間違いを繰り返してしまう――」

 ましてや、奏はもう正嘉というアルファと番になってしまった。

 違う男と番うのは……あの一度だけで限界だろう。

 あの、身体がバラバラになってしまうような激痛と吐き気たるや『気絶ヤギファインディング・ゴート』どころではなかった。

 次は本当に、耐え切れずに死んでしまうかもしれない。

「僕の事を想ってくれるなら……このまま、もうお帰り下さい。友人でいいのなら、これからも付き合っていくことは可能ですが……」

 しかし、栄太が言いたいのはそんな事ではなかったらしい。

「違うんだ! オレの話を聞いてくれ」

「え? 」

「奏は、アメリカの永住権・・・・・・・・・を持っていたはず――だったよな? 」

「え、ええ」

 何かの折に、そんな事を栄太と話した記憶はある。

 グリーンカードを最後の手段に、窮屈な日本を飛び出してアメリカに渡る事も出来るけれど、自分は日本人なのだし、まずはここでオメガを救う手立てを考えたいと。

 だがどうして、今その話題が出てくるのだ?

 訝しむ奏に、栄太は我が意を得たというように頷く。

「それなら――これからアメリカ大使館へ行こう」

「え!? 」

「アメリカに、本国の人間として身柄を保護してもらうんだ。昨日のうちに手配しておいたから、あとは大使館へ行くだけだ」

「ちょ、ちょっと……待ってください。どうして、そんな話が出てくるんですか? 」

 混乱する奏に、栄太は『オレのプランはこうだ』といって話し出した。

「奏はアメリカ人として、大使館で保護対象人物にしてもらうんだ。そうしたら、オメガはアルファによって『番』にされると、そのアルファの支配下に置かれるという日本の法律は適用外になるからな。そうなったら、堂々とアメリカへ渡米して、後は自由の身だ。研究だって、向こうで幾らでも出来るし――――今度こそ、好きな相手と結婚することも可能になる」

 栄太はつまり、アメリカに行って自由を勝ち取れと言いたいのか? 

 そして、向こうで改めて自分と結婚しようと?

「栄太さん……僕は、そんな考えは無いです」

 首を振り、奏は静かな声で滔々と語る。

「ご存知の通り、いまの僕のお腹には正嘉さまの子がいます。僕はこの子を育てながら、ゆっくりと正嘉さまと……少しづつ愛を深めて行こうと思っています」

「奏っ!? 」

「僕の事を考えてくれる、あなたの気持ちは嬉しいけれど……今はもう――」

  断ろうとする奏に、栄太は焦った様子で口を開く。

「違うんだ! 」

 栄太は奏の言葉を遮ると、その華奢な肩へと手を置いた。

 そうして力を込めてガクガクと揺さぶりながら、栄太は衝撃的な一言を放った。

「その子は、オレとの子だったんだ! 」

「え――」

「父親は正嘉じゃない、オレだ! だからオレはその子の父親として、当然の権利を主張する事が可能なんだ! 」

 突然の告白に、奏は目を見張った。

「そ……ん、な……」

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