195 / 240
41
41-7
しおりを挟む
番となった相手を、違う男の巣になどいつまでも置きたくはない。
正嘉は、その正直な自分の心を淡々と口にした。
彼にとっては、自分の感情を偽る事こそが屈辱だ。
だから、何もかも隠す事無くこうして言葉にする。
時にそれは争いごとの元になったり、またある時は、誤解されて余計にトラブルへ発展したりする場合もあるが、常に正嘉は自分の心に誠実で正直であった。
自分にも、他人にも決して嘘はつかない。
そして彼は、恵美のように、自分へ向けられる一方的な好意なども必要としていない。
正嘉が必要としているのは、正嘉自身が望む、唯一からの好意だけでいい。
照れる事もなく虚勢を張る事もなく、全てを至極当たり前のように正嘉は言う。
「オレは、皆から愛されるような男にはなりたくない」
「――」
「オレを愛するのは、オレが愛するただ一人の相手だけでいい。……そうなると、あいつには訂正しなければならないが――」
『結城奏など好きでもないし愛してもいない。だが『運命』だから、仕方がなく番にしてやっただけだ』
正嘉は、栄太に向かって言い放った自分の言葉を顧みて、苦く笑いながら口を開く。
「オレは――――どうやら、お前を愛しているらしい」
「え? 」
「こうやって考えてみると、答えはそれしかないようだ。今まで他人に対しては興味など持たなかったが、お前にだけは違う。その、首の――」
ハッとして首に手を回す奏に、正嘉は視線を落として言う。
「違う男のマーキングを見て、頭に血が上った。前後も考えずに『番の上書き』をするなど……自分でも信じられない、本能的な衝動だった」
微かに苦笑し、正嘉はそう白状する。
「多分、オレは――――お前の事が、好きなんだろう」
「正嘉さま……」
「許せ。こんな気持ちになったのは初めての事だったんだ」
どうして、全てに倦んでいたこの自分が、衝動の赴くままに行動に出たのか?
容姿は整ってはいるが、取り立てて美しいとまでは言えないような、この平凡なオメガの男性にここまで心を乱されるのか?
色々考えたが、総合的に考えると、やはり答えは一つしかないだろう。
「結城奏。お前はオレの運命の番であると同時に、オレが唯一愛するオメガであるようだ」
「正嘉……さま……」
「お前はオレの運命の番なのだから、こちらは可能な限りサポートをしてやろうと思う。青柳正嘉の番になった事で不自由な思いなどさせたくはないし、不幸にもなってほしくないからな。オレがお前に好意を寄せているとはいえ、だからといってそれでお前にも同様に無理に好いてもらおうとは考えていないが、これ以上は嫌われたくないのも本音だしな」
「――」
「強引に九条邸から連れ出して住居を変えさせたのは悪かった。原因は、やはり、オレの下らない嫉妬と我が儘だな――――しかしもうこれから先は……お前が望まない事は、決してしないと約束する」
これも至極淡々と言ったが、内容はとても真摯な誓いのセリフだった。
(正嘉さま……)
正嘉は謝罪するが、元はといえば、奏が七海を頼って九条邸へ押しかけたのが切っ掛けだ。
七海は奏の事を快く迎え入れてはくれたが、彼の番である九条凛は違うだろう。
愛する番である七海の負担を考慮して、九条は、正嘉へと連絡を入れて奏を引き取らせたのだ。
強引に正嘉によって九条邸から連れ出されはしたが、今になって考えてみると、非は自分の方にこそあると言えるだろう。
自分が身を寄せようとした事で、七海の負担になっていた事は間違いないのだから。
(僕が――――安易に七海先輩を頼ろうとした事で、九条理事にもこの人にも迷惑を掛けて……)
諸悪の根源は、奏かもしれない。
そう考えると、どうリアクションを返せばいいのかと逡巡する奏に構わず、正嘉はまた語り掛ける。
「オレの我が儘を強行したせいで、移転で忙しくて、ろくに休息が取れなかったというなら謝罪しよう。こちらからも人は派遣したが、あまり役には立たなかったようだしな」
そのセリフに、奏は小さな声でポツリと呟く。
正嘉は、その正直な自分の心を淡々と口にした。
彼にとっては、自分の感情を偽る事こそが屈辱だ。
だから、何もかも隠す事無くこうして言葉にする。
時にそれは争いごとの元になったり、またある時は、誤解されて余計にトラブルへ発展したりする場合もあるが、常に正嘉は自分の心に誠実で正直であった。
自分にも、他人にも決して嘘はつかない。
そして彼は、恵美のように、自分へ向けられる一方的な好意なども必要としていない。
正嘉が必要としているのは、正嘉自身が望む、唯一からの好意だけでいい。
照れる事もなく虚勢を張る事もなく、全てを至極当たり前のように正嘉は言う。
「オレは、皆から愛されるような男にはなりたくない」
「――」
「オレを愛するのは、オレが愛するただ一人の相手だけでいい。……そうなると、あいつには訂正しなければならないが――」
『結城奏など好きでもないし愛してもいない。だが『運命』だから、仕方がなく番にしてやっただけだ』
正嘉は、栄太に向かって言い放った自分の言葉を顧みて、苦く笑いながら口を開く。
「オレは――――どうやら、お前を愛しているらしい」
「え? 」
「こうやって考えてみると、答えはそれしかないようだ。今まで他人に対しては興味など持たなかったが、お前にだけは違う。その、首の――」
ハッとして首に手を回す奏に、正嘉は視線を落として言う。
「違う男のマーキングを見て、頭に血が上った。前後も考えずに『番の上書き』をするなど……自分でも信じられない、本能的な衝動だった」
微かに苦笑し、正嘉はそう白状する。
「多分、オレは――――お前の事が、好きなんだろう」
「正嘉さま……」
「許せ。こんな気持ちになったのは初めての事だったんだ」
どうして、全てに倦んでいたこの自分が、衝動の赴くままに行動に出たのか?
容姿は整ってはいるが、取り立てて美しいとまでは言えないような、この平凡なオメガの男性にここまで心を乱されるのか?
色々考えたが、総合的に考えると、やはり答えは一つしかないだろう。
「結城奏。お前はオレの運命の番であると同時に、オレが唯一愛するオメガであるようだ」
「正嘉……さま……」
「お前はオレの運命の番なのだから、こちらは可能な限りサポートをしてやろうと思う。青柳正嘉の番になった事で不自由な思いなどさせたくはないし、不幸にもなってほしくないからな。オレがお前に好意を寄せているとはいえ、だからといってそれでお前にも同様に無理に好いてもらおうとは考えていないが、これ以上は嫌われたくないのも本音だしな」
「――」
「強引に九条邸から連れ出して住居を変えさせたのは悪かった。原因は、やはり、オレの下らない嫉妬と我が儘だな――――しかしもうこれから先は……お前が望まない事は、決してしないと約束する」
これも至極淡々と言ったが、内容はとても真摯な誓いのセリフだった。
(正嘉さま……)
正嘉は謝罪するが、元はといえば、奏が七海を頼って九条邸へ押しかけたのが切っ掛けだ。
七海は奏の事を快く迎え入れてはくれたが、彼の番である九条凛は違うだろう。
愛する番である七海の負担を考慮して、九条は、正嘉へと連絡を入れて奏を引き取らせたのだ。
強引に正嘉によって九条邸から連れ出されはしたが、今になって考えてみると、非は自分の方にこそあると言えるだろう。
自分が身を寄せようとした事で、七海の負担になっていた事は間違いないのだから。
(僕が――――安易に七海先輩を頼ろうとした事で、九条理事にもこの人にも迷惑を掛けて……)
諸悪の根源は、奏かもしれない。
そう考えると、どうリアクションを返せばいいのかと逡巡する奏に構わず、正嘉はまた語り掛ける。
「オレの我が儘を強行したせいで、移転で忙しくて、ろくに休息が取れなかったというなら謝罪しよう。こちらからも人は派遣したが、あまり役には立たなかったようだしな」
そのセリフに、奏は小さな声でポツリと呟く。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
好きな子が毎日下着の状態を報告してくるのですが正直脈ありでしょうか?〜はいてないとは言われると思いませんでした〜
ざんまい
恋愛
今日の彼女の下着は、ピンク色でした。
ちょっぴり変態で素直になれない卯月蓮華と、
活発で前向き過ぎる水無月紫陽花の鈍感な二人が織りなす全力空回りラブコメディ。
「小説家になろう」にて先行投稿しております。
続きがきになる方は、是非見にきてくれるとありがたいです!
下にURLもありますのでよろしくお願いします!
https://ncode.syosetu.com/n8452gp/
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる