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 こんな、今一つ何を考えているのか解らぬような若造正嘉になど、奏と栄太の子供を任せるワケにはいかない。

 そう思うと――――未練など無いと思っていた馬淵家当主の座が、急速に欲しくなってきた。

「お前、奏を……」

「『お前』? 」

「――青柳さんは、奏の事をどう思っているんですか? 」

 栄太は熾火のようにくすぶる内心を押し殺し、口調を丁寧なものに変えて問うてみる。

 しかしこの質問は、正嘉にとって意外なことであったらしい。

 秀麗なおもてに、微かに戸惑いの色が浮かんだ。

「『どう?』か……」

 少し間を置き、答えになっていないような答えを返す。

「あいつは、オレの運命だ。あいつが『運命の番』であった為に、それが頭から離れなくて再会した時からずっとイライラしていた。だから、そのストレスを即急に解消するために、オレの方からわざわざ出向いて番にしてやったんだ」

「私が聞いているのは、そんな事ではないです」

「なんだと? 」

「奏を愛しているのか、という事ですよ」

「愛――」

 そんなこと、考えた事もなかった。

 好きだろうが嫌いだろうが、それが運命であったら従うのが道理だろう。

 だから正嘉は、何も余計な事は考えずに行動に出ただけだ。

「ベータやアルファは、そんな下らない事で自分の行動を決めるのか? 」

「下らない――ですか」

「そうだ」

 そう断言すると、正嘉は自信を取り戻した様子で再び口を開いた。

「オレは、愛などという感情で行動を左右することはない。行動原理は、それがオレにとって必要・・・かどうかだけだ」

「つまり……奏の事は、愛してはいないのですね」

「――――そうだ」

 正嘉は、問われるままにそう答えた。

 だが、さすがに自分でも、それは何処か矛盾している事は感じている。

 運命だから……どうしても気になったから、奏の元へ押しかけて、その結果強引に項を噛んだ。

 そこに刻まれていた違う男の噛み痕を見た瞬間に、頭に血が上った。

 突然の暴力と衝撃に意識を失ってしまった奏を抱え上げ、そのままマンションへ送り届けて――……耐え切れずに、そのまま交接を仕掛けてしまった。


 発情期に入ってはいたが、意識もない相手に、だ。


 さすがに鬼畜の所業に思えて、極める瞬間に正気に戻った正嘉は、己の精を奏の体内で放出する事だけは避けた。

 番の上書きをしたのだから、これから奏は正嘉だけのモノになる。

 ならば、奏がちゃんと意識のある時にセックスをした方がいいだろう。

――――正嘉は、そう思ってその日は引くことにした。

 それに奏は、こんな時でも仕事熱心らしく、熱を出した状態にもかかわらず仕切りにうわ言で『試薬ブースターが……』と何度も口にしていた。

 その事も考慮して、強引に連れ去るのは断念してそのままにしておいてやったのに。

 後日改めて、丁重に迎えに来てやろうと思っていたのに。

 だが、あれはインチキな仮面だったのか。

 破廉恥な事に、奏はその後、この馬淵栄太と抱き合って…………。

 そこまで考えると、不意に胸がキリキリと痛んだ。

(だから、オメガという連中はふしだらで嫌いなんだ! )

 正嘉は憮然として、栄太を見遣る。

「オレは、結城奏など好きでもないし愛してもいない。だが『運命』だから、仕方がなく番にしてやっただけだ。子供など、どうでもいい」

「――――その言葉、忘れるな」

 そう言い残すと、栄太は部下の吉川を連れてその場を去った。

 正嘉は、自分が何か失態を犯したような気がして、不機嫌に柳眉を顰《ひそ》めていた。

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