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 七海は、優しい顔で……でも、哀しそうな顔で微笑む。

 そして、その美しい七海の唇が、ゆっくりと動くのを――――奏は、愕然としながら見つめた。

「オレの子供は――……流れてしまった……」

「そ……」

「元々が、こんな身体だ。自業自得だよ。見た目はマシだが、中身は……まぁ、仕方がないね……」

 フゥと溜め息をつき、七海は顔を上げる。

 奏を思い遣ってか、こんな時でも笑顔を浮かべているのが痛々しい。

「これも、運命――って……」

 七海は、奏の顔見て苦笑した。

「こらこら、そんな子供みたいに泣くんじゃないよ」

「す、みま、せ――ごめんなさい……」

 堪え切れず、しゃくりあげながら、奏は顔を覆った。

 七海と九条が、どんなに子供を授かる事を願っていたか――――それを知っているだけに、余計に辛い。

 これが最後のチャンスだったはずだ。七海の命は、あと一年で尽きる。

 それなのに、どうして?

 こんな時でも、カミサマは自分たちの味方をしてくれないのか!?

「七海先輩……僕は、僕は……悔しいです……」

 奏の心を占めるのは、悲しみよりも怒りだ。

 七海が、これまでオメガの為にどれだけ尽力してきたか。

 かつて、不死の病として恐れられた、オメガに蔓延する伝染病を根絶する為に力を注ぎ、自分の身体までを実験に使い、犠牲にして。

 それなのに、彼が望んだような――――オメガが、対等な人種として扱われる世は訪れず。

 さぞや無念であったろうに、彼自身のささやかな願いさえも叶えられず……とうとうこの世を去らねばならないのか。

「先輩、僕はっ! 」

 本当に慟哭したいのは七海であろうに、奏を見上げて微笑み続ける、その心が悲しい。

「僕は――――!! 」

 だが、その続きが出て来ない。

 いったい何と言って声を掛ければいいのか?


『残念でしたね』
『元気出してください』
『仕方がなかったんですよ』


 そんな安っぽい慰めの言葉など、喋れるわけがない。

「……僕、は……」

「ん? 」

「僕は、七海先輩の赤ちゃんを抱っこして…………たくさん遊んであげたかった――」

 それが嘘偽りのない、本音だった。

 奏は、七海が全部大好きなのだから。

「奏……」

 困ったように微笑み続ける七海に、奏はひしっと、車椅子の上から抱き付いた。

「平気なフリなんて、しないでください」

「うん……」

「泣いてもいいんですよ、先輩。……泣いていいんです」

「う、ん……」

 奏の言葉を受けて、七海の瞳から――――つっと、涙があふれた。

 それは、ずっと気丈に振舞っていた彼の、初めて見せる涙だった。

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