185 / 240
40
40-5
しおりを挟む
奏はそう呟くと、フゥと溜め息をついて頭を下げた。
「――――迷惑ばかりかけてしまって、すみませんでした」
七海の身体は普通ではないというのに、幾ら何でも甘え過ぎだ。
だから、どうしても謝りたかった。
しかし、七海はそんな悄然とした奏の様子に気付くと、優しく首を振った。
「……謝るのは、こっちの方だよ。ここに奏が居ることを知らせたのは――――九条だったんだ」
「えっ!? 」
「ヤツは、厄介ごとを片付けたかったらしい」
厄介ごとというのが何を指しているのか自覚のある奏は、シュンと項垂れる。
「そうですね……理事にとっては、僕のことは……」
だが、謝罪を先に口にしたのは七海の方だった。
「本当に、お前には申し訳ない事をしてしまった。正嘉から匿おうとしたんだが、それを、九条のヤツ――」
「いいえ、そんなっ! 理事のお気持ちも分かりますから」
愛しい番を煩わせることなど、九条が快く思うワケがない。
即急に、トラブルの元であろう元凶には、去ってもらいたいと思うのが当たり前だ。
それを責める権利など、奏にあるワケがない。
「本当に、すみませんでした。全部自分でどうにかしないとダメだったのに――三十にもなって、小さな子供みたいに人を頼ろうとした自分が情けないです。僕は、もっと強くならないといけないんだ……」
「奏は、充分強いよ。それに、人一倍頑張り屋さんだ」
七海はそう言うと、か細い声で続ける。
「オレにとっては、奏は可愛い弟みたいなものだけど…………九条にとっては、やっぱり違うようだ。でも、あいつの気持ちも分からんでもないんだ。だから、許してやってくれ」
「それは、もちろんです! それに、謝るのはこっち方――」
「ああ、この話は堂々巡りになってしまうから、ここでお仕舞にしよう」
そう締めると、七海は微笑みを浮かべた。
「お腹、大切にしないとな」
「は、はい…………」
「でも、顔色が悪いね。ちゃんと胎教を考えないと――妊娠初期なんだから、身体は安静にしないとダメだ。特に、オメガの男体は気を付けないと」
「はい」
「このことは、正嘉は? 」
「いえ、まだ知らないと思います。僕はここから強制的に青柳の所有する家に移されましたが、前のマンションの方を引き払う手続きや何やらで忙しかったですし。第一、僕は極力あの人に遭わないよう時間をズラして行動してましたから、顔もまともに会わせていません。あれから三日経ちますが、まだ何の話もしてませんよ」
それに、このお腹に宿った命は、絶対に誰にも渡すつもりはない。
奏はどうにか自立をして、一人で子供を育てようと考えていた。
それには、どうあっても新薬の完成が必要だ。
それを以って、今現在最低ラインに置かれているオメガの地位を底上げして『オメガは、アルファやベータによって庇護される生き物』というレッテルを剥がす必要がある。
自由と自立を勝ち取るために、奏は、強くあろうと決意を固めていた。
「そうか――それじゃあ、オレも奏の力にならないとね」
頼もしい後輩の様子に、七海はうんうんと頷く。
「オレも、色々とレシピの構成を組み立ててみたんだ。さっそくデータを擦り合わせて検証してみよう」
「ありがとうございます…………でも、まずは七海先輩は安静にしてください」
「――」
「ほら、先輩だって、お腹に子供が――」
『いるじゃないですか』と、そう言い掛けた言葉の先を取られた。
「それはもう、いいんだ」
「え? 」
「――――オレにはもう、終わってしまった話だ。これから命が尽きるまでの時間は、奏や皆の為に遣うよ」
「な、七海……先輩……? 」
(それは――それは、どういう意味なん…………です、か? )
奏は、自分の声が次第に強張るのを感じた。
「――――迷惑ばかりかけてしまって、すみませんでした」
七海の身体は普通ではないというのに、幾ら何でも甘え過ぎだ。
だから、どうしても謝りたかった。
しかし、七海はそんな悄然とした奏の様子に気付くと、優しく首を振った。
「……謝るのは、こっちの方だよ。ここに奏が居ることを知らせたのは――――九条だったんだ」
「えっ!? 」
「ヤツは、厄介ごとを片付けたかったらしい」
厄介ごとというのが何を指しているのか自覚のある奏は、シュンと項垂れる。
「そうですね……理事にとっては、僕のことは……」
だが、謝罪を先に口にしたのは七海の方だった。
「本当に、お前には申し訳ない事をしてしまった。正嘉から匿おうとしたんだが、それを、九条のヤツ――」
「いいえ、そんなっ! 理事のお気持ちも分かりますから」
愛しい番を煩わせることなど、九条が快く思うワケがない。
即急に、トラブルの元であろう元凶には、去ってもらいたいと思うのが当たり前だ。
それを責める権利など、奏にあるワケがない。
「本当に、すみませんでした。全部自分でどうにかしないとダメだったのに――三十にもなって、小さな子供みたいに人を頼ろうとした自分が情けないです。僕は、もっと強くならないといけないんだ……」
「奏は、充分強いよ。それに、人一倍頑張り屋さんだ」
七海はそう言うと、か細い声で続ける。
「オレにとっては、奏は可愛い弟みたいなものだけど…………九条にとっては、やっぱり違うようだ。でも、あいつの気持ちも分からんでもないんだ。だから、許してやってくれ」
「それは、もちろんです! それに、謝るのはこっち方――」
「ああ、この話は堂々巡りになってしまうから、ここでお仕舞にしよう」
そう締めると、七海は微笑みを浮かべた。
「お腹、大切にしないとな」
「は、はい…………」
「でも、顔色が悪いね。ちゃんと胎教を考えないと――妊娠初期なんだから、身体は安静にしないとダメだ。特に、オメガの男体は気を付けないと」
「はい」
「このことは、正嘉は? 」
「いえ、まだ知らないと思います。僕はここから強制的に青柳の所有する家に移されましたが、前のマンションの方を引き払う手続きや何やらで忙しかったですし。第一、僕は極力あの人に遭わないよう時間をズラして行動してましたから、顔もまともに会わせていません。あれから三日経ちますが、まだ何の話もしてませんよ」
それに、このお腹に宿った命は、絶対に誰にも渡すつもりはない。
奏はどうにか自立をして、一人で子供を育てようと考えていた。
それには、どうあっても新薬の完成が必要だ。
それを以って、今現在最低ラインに置かれているオメガの地位を底上げして『オメガは、アルファやベータによって庇護される生き物』というレッテルを剥がす必要がある。
自由と自立を勝ち取るために、奏は、強くあろうと決意を固めていた。
「そうか――それじゃあ、オレも奏の力にならないとね」
頼もしい後輩の様子に、七海はうんうんと頷く。
「オレも、色々とレシピの構成を組み立ててみたんだ。さっそくデータを擦り合わせて検証してみよう」
「ありがとうございます…………でも、まずは七海先輩は安静にしてください」
「――」
「ほら、先輩だって、お腹に子供が――」
『いるじゃないですか』と、そう言い掛けた言葉の先を取られた。
「それはもう、いいんだ」
「え? 」
「――――オレにはもう、終わってしまった話だ。これから命が尽きるまでの時間は、奏や皆の為に遣うよ」
「な、七海……先輩……? 」
(それは――それは、どういう意味なん…………です、か? )
奏は、自分の声が次第に強張るのを感じた。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる