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 残念ながら、奏には皆目見当が付かない。

 自分の身体の事なのに、正しい答えが解からないのは非常に不愉快な事だ。

(こうなる前に、もっとオメガの妊娠初期症例を色々調べておくべきだったな。ああ、せめて、七海先輩と連絡が取れれば……)

 奏はそう思うと、顔色の悪いままフゥと溜め息をついた。



――――あの騒動から、既に三日が経っていた。



 奏は正嘉によって、強引に青柳の所有する屋敷の一つへと連行され、それからずっと監視が付けられていた。奏の視界に入らないよう距離を置いた場所から、その一挙手一投足を観察するような視線を常に感じている。

 奏は軟禁状態に置かれてる状況であるワケだが、しかし、とりあえずの自由は許されていた。

 九条邸から連れ出され、車へと乗せられたその車内で、奏は正嘉へ向かいキッパリと言ったのだ。

『僕を青柳に連れて行きたいというのであれば、こちらの要望にも必ず譲歩して頂かなければ納得しません。僕は、国の研究機関で働いている研究員です。この仕事に誇りをもって、リーダーとして勤めています。ですから、研究はこのまま続けさせてもらいます』

『仕事や研究など、オメガには……』

『オメガは、誰かの番となって、ただ所有物になるだけの生き物だと言いたいのですか? 』

 冷たい視線で一瞥し、奏は吐き捨てる。

『生憎と、僕はそんな生き方は御免です。昔は……愚かな事に、それを夢見て憧れた時期もありましたが……』

 愛し愛され、番と幸せな家庭を作って。

 大勢の子供たちに囲まれて穏やかに過ごし、ゆったりと歳を取る。

 周りから、それが幸せなオメガ・・・・・・・・の生き方だと聞かされて育ち、それを一途に信じていた。

『ですが、この残酷な世界は総じて裏切りと絶望に満ちています。ならばもう、番などに頼らなくてもオメガが一人で生きて行けるようにしなければなりません。二度と、発情期なんてバカな事の所為で、人生を狂わされる事のない世界を作るよう力を尽くさねば』

『バカな事だと? 』

『ええ、そうです。オメガの多くは、満足な人生を自分で選べないのです。その原因は、忌々しい発情期の所為なのは明らかです。しかし、発情抑制剤を使用するには色々なリスクがあって……もちろん金銭的にも厳しいですが、服用する事事態にも多大なリスクがあるんです。毎年、抑制剤の過剰摂取で多くのオメガが命を失っているのは、正嘉さまも知っているでしょう? 』

 そう訊ねると、正嘉は奏から視線をずらして車外を見た。

『――――ああ、知っている。だから薬に頼りたくないオメガは、その発情を発散する為に、手っ取り早く適当な男を咥え込んでしまうのもな』

 嫌でも思い出す。

 少年だった正嘉はその事で傷付き、人を信じる事の虚しさを知ったのだ。

 だから正嘉は、自分に近づいて来るオメガ達を試すようになった。

 適当な男をあてがい、それになびくのかどうかを繰り返し実験するようになったのだ。

 そして結果は、いつも同じだ。

 オメガ達は熱病のような情欲を持て余し、いとも簡単に正嘉の仕掛けた男を咥え込む。

 どれほど正嘉を愛していると言っても、所詮はインチキで破廉恥なオメガ共だ。

 肉欲には勝てないのか、それとも最初から抗う気もないのか、簡単に股を開いては男を迎え入れた。まったく、淫乱で最低な、恥知らずな奴等だ。

 正嘉の心は次第にめて行き、完全にえ切ってしまった。

 もう愛など信じないし、信じる価値もない。

 最近では、後継を設けろとしつこい青柳の親族を黙らせる為に、そのオメガの習性を逆手にとって、婚約しては不貞浮気を理由に破棄する事を繰り返している。

 さて、今まで何人のオメガをハメては捨てた事か?

 正嘉は何の興味も無かったので、カウントは既に放棄していた。

(ああ、しかし――今回は奏を番にするのが急だった為に、九条恵美の件は中途半端にしたままだったな。でも、向こうの親族九条凛自体が反対のようだし、あの女はもう放っておいても、あちらで適当に片付けてくれるだろう)

 正嘉にとっては、運命を感じて番にした、この結城奏の方が今は最優先だ。

 愛も恋もどうでもいいが、運命ならば信じてみようかと思う。

――――例えそれが、もっとも最低な生き物である、下らないオメガの男だとしても。


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