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 奏は、精一杯明るい声を出して、そう報告した。

 そうだ、きっと必ず栄太は喜んでくれる筈だ。

……だって、あんなに欲しがっていた子供ではないか。

 奏以外に、栄太は二人の女のオメガと愛人の契約をしていたくらいだ。

 そうして親権を争っていた程だもの、栄太は子供が欲しいに違いない。

 だから奏は、一生懸命に笑顔を作って言う。

「あの日、僕は七海先輩の協力を得て、特別に受胎率の上がるように薬を服用していたんです。ええと、その事は……電話でも言いましたよね? 」

「――」

「だからその話を聞いて、お仕事が大変だったのに栄太さんは来てくれたんでしょう? そうして、僕を抱いてくれたんじゃないですか」

 栄太を待ち切れなくて外へ出た時に、間の悪い事に、偶然正嘉と遭遇してしまったのだが……。

――――いい、今は、栄太の事だけを考えよう。

 首を振り、頭から正嘉の事を追い出すと、奏は栄太へと微笑み掛ける。

「念願叶って、僕のお腹に……今、新しい命が……あ、あの、栄太さん? 」

 しかし、どうした事か栄太の表情が優れない。

 それに気付き、奏は動揺する。

「どうしたんですか? 嬉しく……ないんですか? 」

「新しい、命――? 」

「はい、そうです」

「それは――――オレの子供か? 」

「え……」

「本当にオレの子供なのか? 」

 その言葉に、奏は何も言えなくなる。

 子供は未成熟なので、検査はまだ出来ない。

 出生前血液DNA鑑定は、最低でも三週以上先にならないと不可能だ。

 でも、いづれにせよ奏の子には違いない。

 それならば、栄太も喜んでくれるかと思ったのだが…………それは奏の勝手な願望だったのだろうか?

 仕方なしに、奏は重い口を開ける。

「――――番の上書きを……栄太さんが到着する前に、正嘉さまに強引にされて――――」

 これ以上は辛い。言いたくない!

 でも、言わなければならない…………!

「僕は、そのまま気を失ってしまって――気が付いたら、マンションに独りで寝転がっていました。あ、あの、本当に記憶が無いのですが…………その……時に、しょ、正嘉さまに……犯されてしまったかもしれない、です」

 蚊の鳴くような声で言うと、栄太はフゥと溜め息をついた。

 ビクリと肩を揺らし、奏は栄太の顔を見る。

「栄太、さん? 」

「お前は……悪くない。全部オレが悪いんだ」

「え? 」

「お前の心には、ずっとあの男の影が残っていた。それを知りながら、半ば強引に自分の想いを押し通してしまった。すまなかった……」

「どうして――栄太さんが謝るんですか? 」

 激しく動揺して、奏は震える手を伸ばす。

 だが、栄太は一定の距離以上は近付いて来ない。

 奏は焦れて、身を起こそうと身じろぐが――――

「この5年間、発情期の度に抱いたのに奏は身籠らなかった。それはつまり、オレ達の相性は残念ながら合わないという事だろう。それならば、薬を服用したとしても……身籠る可能性は0に近いというのは、誰にだって分かる話だ」

「そんなっ! でも、栄太さん――」

「だが、オレはお前の事は嫌いじゃないし、憎んでも恨んでもいない。これは仕方が無かったんだ……運命だったんだから」

 寂しそうに微笑みながら、全てを理解し諦観しているかのように優しく囁く栄太。

 その言いたい事の本質が分かり、奏はサッと顔色を変えた。

「栄太さん、あなたは…………」

 奏から言って欲しいのだ。

『僕は運命の番を選びました。今までありがとう、そしてさようなら……栄太さん』と。

 奏の口から別れの言葉が出るのを、栄太は待っているのだ!!

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