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――――正嘉さまが、僕に『番の上書き』をした後に、このマンションへ運んで……そして、更にここで僕を抱いたのか……?

 僕が、意識を失っていた事をいい事に?

(――――なんて、なんて酷い事を…………! )

 奏は、その答えにパニックになった。

 熱を持った後孔にはまだ鈍痛が残っているし、白濁の精に濡れている下肢はヌルヌルして気持ちが悪い。

 奏は半狂乱になってバスルームへ飛び込み、感覚がなくなるまで身体を洗った。

 泣きながら後孔にも指を入れて、一所懸命に中へ残っている体液を掻き出した。

 しかし、頭は冷静さを保っていたものの、ヒート状態にあった身体は既に柔らかく解けていて、はしたない程に体液を滴らせている。

 これが果たして正嘉の放った精なのか、自前の愛液なのかそれとも精液なのかも分からない。

 前も後ろも感覚がおかしくて『ああこれだから発情期の身体は!』と、悔しくてまた涙が出てきた。

 度重なる衝撃に、また意識が途切れそうになったが、しかし茫然としている場合ではない。

 とにかく試薬ブースターの効果が残っている内に、栄太と性交をしなければ…………その一念で、どうにか途切れそうな意識を繋ぎ止めた。

 正嘉の残したハンカチを手に『巣作り』を始めた事さえ気が付かぬまま、奏はその中で栄太の訪れだけを待って――――そしてようやく訊ねた来た栄太に縋りついて、死に物狂いでセックスをしたが。

 立て続けに2人を無理に受け入れた身体は軋み、奏を激しく憔悴させている。

 しかし今、奏の献身は実り、この体内には命が宿ろうとしている。

 栄太と、正嘉。

 そのどちらかの、子供の命が。

(お願いだから……――――)

 5年もの間、奏を恋い慕ってくれた男の期待に応えたい。

 その為に、七海が調合した、たった一本残っていた試薬を使ったのだし。

「う……」

 頭をズキッとした痛みが走り、奏は低い声をもらした。

「大丈夫か? 」

 心配そうな七海の声に、奏は無理に笑って答える。

「へ、平気です……ちょっとだけ……眩暈がしただけです。あの、七海先輩……」

「ん? 」

「ここに、栄太さんを呼んでもらえないでしょうか」

「本当に、それでいいのか? オレはもう少し様子を見た方がいいと思うが」

――――こんなに不安で震えているのに。

 しかし、気掛かりそうな様子の七海に、奏はコクリと頷いた。

「だ、大丈夫です。お腹の子の事は……出来れば、判別がつくか安定期に入るかした時に伝えたかったけれど…………栄太さんを信じて、ありのままを伝えてみようと思います」

「奏……」

「この僕を――――かたくなに心を閉ざしていた僕を、5年も愛してくれていたんだもの。きっと、栄太さんは……僕が『番の上書き』をされたとしても、変わらずに愛してくれると信じます。子供の事だって――――僕の産む子なら、それが誰の胤だろうと…………きっと、愛してくれる」

「――」

「そう、信じます」

 そう言うと、奏はニコリと笑った。

 奏は、醜いわけではないが、これといって特徴もない平凡な容姿で、美形が多いとされるオメガ男体にしては物足りない容貌だ。

 だが、奏こそが最も美しいオメガだと七海は思う。


――――途方もなく純情。


 これだけ美しい心を持つ青年を見つけるのは、砂漠でダイヤモンドを探すより難しいだろう。

 結城奏という人間は、得難い宝石のように本当に綺麗だと思う。

 だから――――この綺麗で可愛い後輩が、哀しい目に遭うのだけは耐えられないのだ。

 過去、ひどい出血で道の端にうずくまったまま動けないでいた奏。

 アレは、誤解があった故の行き違いだったと最近になって釈明されたが。

 しかし、原因を作ったのは間違いなく馬淵栄太だ。

 今になって謝罪されても、七海の中のわだかまりは消えない。

 七海も、馬淵栄太を信じたいが…………。

「七海先輩。僕と栄太さんに、チャンスをください」

 真っ直ぐに自分を見つめる奏の、決意を込めた澄んだ瞳を見て――――七海は仕方なしに、頷いた。


「――――ここへ、お客人を案内してくれ」

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